第169話 武器を買って早速外に
雇用した傭兵二人には、先に門のところで待っていてもらうこととし、オユキ達は近くにある武器屋、受付で尋ねたそこに向かい、それなりの片手剣を子供たちの分、買いそろえる。
予備も一本とし、ちょうど一二本。初めて手にした武器に、そわそわとした様子の子供たちを乗せ、直ぐに門へと向かえば、見慣れたルイスの姿と、初めて見る女性の姿があった。
「お久しぶりです。」
「おう。今回は俺とこいつで引き受ける。新顔もいるな、ルイスだ。」
「アイリスよ。よろしくお願いするわ。
それで、さっそくだけれど、護衛はこっちの子供たちが優先でいいのね。」
そういって、アイリスが鋭い視線と、頭頂部から伸びる大きな耳を向ける。
「はい。基本的に一人づつ連れ出して魔物の相手をさせますので、残ったものをお願いします。」
「分かったわ。ルイスは、慣れていると聞いたけれど。」
「ああ、向こうのギルドでも顔を合わせてたし、こっちに来る道中は俺も護衛したからな。」
「なら、ルイス指示は任せるわ。それで、これから狩りにという事でいいのね。」
「はい。今後も同じサイクルですね。午前中に教会、午後から軽く狩りをして、そのあと傭兵ギルドで訓練。
そのような流れになります。」
「教会ではどのように。」
「他の方と連携を取ってください。思いのほか出入りが多かったこともありますので。」
そう言えば、ルイスとアイリスが周囲に軽く視線を飛ばす。
「分かった。なら現場の事は教会で確認しよう。」
「それと三日後には、依頼している武器を確かめるために、仮の後に工房に行きます。
翌日の事はその日の終わりに改めて、変更があれば、都度説明しますね。」
「分かったわ。じゃ、行きましょうか。」
そうアイリスが告げて門での手続きに向かう。
「ま、仕事の間はあんなんだ。」
「しっかりされた方なのですね。」
「聞こえてるわ。まじめに仕事をするのは当たり前でしょう。」
そんな獣人としての耳の良さを思い知らされながら、改めて、全員で連れ立って、町の外に出る。
「二台に分けるのかしら。」
「今日宿で相談してみましょう。流石に、今日1日でここまで増えると思ってはいませんでしたから。」
「なら、いいわ。」
「最悪俺らは走ってもいいがな。」
「流石に日帰りどころか、少しの時間ですから、そこまでは求めませんよ。さて、着きましたか。」
そうして、馬車が速度を下ろせば全員で外に出る。初めて連れ出した子供たちは、緊張のあまり、手と足が震えている。
「では、トモエさん、その子たちはお任せしますね。昨日よりも楽でしょうから、こちらは私が見ますね。」
「はい。1時間ほど仕込んで、灰兎あたりです。」
「分かりました。さ、私達は行きますよ。今日もまずは一人一匹。2回まわしたら、複数相手です。」
「あんちゃん、そいつら頼むな。良し。やるか。」
辺りには昨日より少ないとはいえ、十分すぎるほどの数の魔物がいる。
それに気が付いていることを伝え、それが共有できるだろう時間を空けたからだろうか。
周囲を軽く囲む様に、魔物を狩る人影がある。
「まずは、グレイハウンドからですね。いつものように。子供たちが見ているからと変に力むことのないように。」
「ま、見せるほどのいいところもないからなっと。」
昨日よりもさらにいい具合に力が抜けたシグルドが、グレイハウンドが飛び掛かり爪を振るのを体をずらして躱し、足を後ろに逃がしながら、素振りの体勢通りに剣を振って、きれいに仕留める。
「今のはいいですね。ただ絞る位置がやはり低く見えます。武器の重さにまだ慣れませんか。」
「んー、それもそうなんだけど、いつも通りって思うと、やっぱり前の武器の時の間隔に引き摺られて。」
「そこまで行くとトモエさんの領分ですね。後で聞いてみましょうか。」
「おう、そうする。最悪地面は叩かないように気を付けとく。」
昨日よりも魔物が供給される状況が安定したからか、オユキも近寄ってくる魔物を適当に切り捨てながら、アナがグレイハウンドの相手をするのを見守るが、彼女も危なげない。
「うーん。一回で決めるようにしたほうが良いのかなぁ。」
「使う型次第ですね。どちらも利点はあるので、どちらもできることを目指しましょうか。」
「うん。祭りが終わったら、型の練習を本格的にするんだっけ。」
「はい、そう聞いてますよ。」
「じゃ、それまでは、今のをきちんとやろうかな。」
そうしてオユキが少年たちと話しながら、魔物を倒す側、子供たちはさっそくトモエに武器の持ち方構えを徹底的に叩き込まれている。
「片手剣ではありますが、両手で持ってください。あなた達の今の体格ならそのほうが良いですから。
持ち手はこうしてすこし間隔をあけて、そうです。まずそれで肘を軽く曲げて、目の高さまで。」
「こんなに重いんだ。」
「騎士の方が使う剣はもっと大きいものですよ、つまりさらに重いのです。」
「分かった。」
「はい。まずは皆さん問題なさそうですね。では姿勢を教えます。こうして、足を前後にずらし肩幅に。」
「わ。」
「おっと、そうですね。まず剣を持たずにやりましょうか。」
構えにしてもまだ背も低く、お金が溜まっていないといっていた以上、初めて手にしたものでもあるのだろうし、構えようとしてバランスを崩し、こけそうになっている子もいる。
「依頼主さん。シエルヴォが来るわ。通してもいいのかしら。」
「少しお待ちを。トモエさんシエルヴォですが、試させますか。」
オユキにはまだ遠くに何かいるとしかわからないが、アイリスが断言する以上、確実に来るのだろう。
「全員でかかるのならば。角はオユキさんが捌いてください。」
トモエからそう許可が出た声が聞こえたのだろう、少年たちが息を呑む。
「シエルヴォの情報は覚えていますか。」
「ああ、そこらのナイフより切れる角、蹴られたら骨が折れる脚。」
「はい、正解です。やりますか。」
そう、オユキが問えば、少年たちが互いに顔を見合わせてから頷く。
「助けてくれる人がいるうちに、やってみる。」
「えっと、私は片手剣に持ち替えたほうが良いのかな。」
「いえ、短剣で。今ならきちんと集中していれば、角も足も躱せます。
仕留めるのは簡単ではありませんが、協力して削る、その意識を持って当たるんですよ。」
「全員でやるのは、丸兎以来か。」
「はい、肩に力が入りすぎてますよ。来ましたね。正面はなるべく私が立ちます。
横合い、後ろから狙うように。」
そうオユキが告げるころには、既に間合い迄後僅か。
突っ込んでくる勢いは、オユキの体重では難しいため、少年達より先に前に出て、それを逸らして、地面に向け、自分の体は、角の外へとずらす。
「では、やりますよ。」
そう、改めてオユキが声をかければ、少年たちがシエルヴォを囲む様にそれぞれの武器に合わせた距離に立つ。
流派として、集団での戦い方を教えられないのが、少々申し訳なくあるが、狩猟者は基本乱戦となるため、そこはこれから実地で学んでいってもらうしかないだろう。
オユキがシエルヴォが角を不応とするたびに、その向きを逸らし、流し、時には振ろうとする方向に加速させ、また、少年たちの立ち位置に声をかけながら、自分は常に正面に立つように気を付ける。
「げ。」
「嘘。」
「格上になれば、腕で振るだけではどうにもなりませんよ。
ちゃんと隙を見て、これまで通りに、きちんと攻撃を入れましょう。」
「こんなに違うのか。パウ。」
「任せろ。」
シエルヴォが後ろや横から攻撃する少年たちに振り向こうとするのをオユキが抑え、いら立ったのか後ろ脚を使って、背後に立つセシリアを蹴ろうとするが、それをパウが剣で叩き折る。
それを好機と見たのか、アナが横腹に飛び込んで、いくつかの切り傷を付けて離れれば、セシリアがグレイブを突き刺し、そこにシグルドとアドリアーナで、動きを止めたその隙に、近づいて上段から剣を振り下ろす。
「まぁ、こんなところでしょう。」
二〇分ほど時間はかかったし、オユキが抑えたのだが、彼らはどうにかシエルヴォを狩って見せた。
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