第168話 忙しい日々

荷運びの子たちにしても、今日からすぐに、そうはならないのでひとまず会って話す、その時間を決めるように少年たちに伝えて、教会に着くと同時に別れる。

今日でもいいが、明日以降でも時間が作れるなら、少年たちの手伝いが終わり、オユキ達が教会を離れる、その時に合うからと。

そして、オユキとトモエは昨日に引き続き、作られている衣装を体に合わせ、今回は着たまま少し動きながら、ところどころを詰めたり、オユキは髪を下ろされ、それを束ねて軽く動き、トモエにしても、当日は香油で髪を整える等、あれこれと話を聞かされる。

加えて、装飾の類も身に着けるようで、それを含めて衣装と合わせたりと、目まぐるしく時間が過ぎる。

それが終わればリザに、当日の式の流れを改めて説明され、礼拝堂は昨日の夕方に町中、全体に響く声で、魔道具によるものだろうが、公爵本人よる祭りの説明が行われた影響もあるのだろう、人が多く、実際にそこで動くことはできなかったが、当日どこからどこへ動くのか、そういった説明を受ける。


「装飾も多いですし、事前に何度か実際に動いて確認したいですね。」

「勿論です。当日は隣に修道女もつきますので、彼女たちも頼ってください。」


神殿には礼拝に来ているものも多いが、それ以外にも、荷を運んでいる物、騎士、傭兵らしき人物、それから教会揃いのローブを来た人々が、忙しなく動き回っている。


「人手が増えたようですね。」

「ええ、その分仕事も増えているので。」


リザがそうため息をつく。


「それは、まぁ、どうしてもそうなるかと。一度落ち着けば後は作業とそうなるのではと思いますが。」

「今回は日程が厳しいですから。」

「ああ。」

「それと、公爵家から、お二人に当日持っていただく剣が3日後に届きます。」

「分かりました。受け取る作法などは。」

「いえ、私どもがお預かりしますので、お二人はあまり。実際に持っていただいて、剣を保持するためのベルトなどを合わせますので。」


言われて、オユキとトモエはこちらに来た時から身に着けているベルトを見る。

以前とは違い、腰帯にさすわけではなく、そこに付けられた留め具を使う形ではあるのだが、確かに祭儀にふさわしいものではないだろう。


「分かりました。では、その日は武器は置いてきますね。」

「ありがとうございます。それと前日なのですが、教会にお泊り頂いても。」

「ああ、人が集まりますか。」

「はい。どうしても。最後にお言葉を頂いたのは62年前ですから。今となっては聞いたことのない人の方が多いのです。巫女様や、司祭様であればまだしも、私達でもたまにお言葉を頂く程度。他の方は、一生に一度あるか、その程度ですから。それに、御言葉の小箱ではお姿も目にすることができますから。」

「分かりました。あの子たちは、どうしましょうか。」

「他の者が話していると思います。当日のお手伝いもお願いするので、同様に。」

「では、前日に。」


そうしてあれこれと話して予定を確認し、動きの確認や、信仰の確認を行えば、慌ただしく午前中が過ぎていく。

そして、少年たちと合流して、一先ず傭兵ギルドに、そう考えているところに、シグルドたちが6人の子供、オユキとそう背丈も変わらない子供たちを連れて来る。


「朝、話してたのが、こいつらなんだけど。」


トモエの前で、恐らくシグルドから日々何をしているのか聞いたのだろう、腰は引けているが、それでもトモエをまっすぐ見ている。


「このまま魔物と戦わず、町の中で暮らす、そういった道もあるのですよ。」

「いや、俺達は騎士になりたい、騎士になるんだ。だから。」

「そういった訓練を受けられる場所があるのでは。」

「金がかかる。装備も揃えなきゃいけないし。」

「成程。ただ、騎士の方が使う物と、私が教えられるもの、それは同じではありませんよ。」

「どう違うのかはわからないけど、とにかく強くなって、ある程度魔物を倒せるようになれば、騎士団の入団試験が受けられる。そう聞いてる。騎士の事はそこからでいい。今は、とにかく強くなるんだ。入団試験まで、後、えと16から20までだから、最初のやつまで、3年しかない。」


言われてトモエは少し考え、頷く。


「分かりました。まずは試しとそうしましょう。今日この後は。」

「良いのか。その、祭りの手伝いはついていってもいいなら、大丈夫だって。」

「では、荷物を直ぐにまとめてきなさい。今日から私達と同じ宿です。」


そう言うと、子供たちが歓声を上げて、走っていく。


「その、悪いな。俺達で面倒は見るから。」

「ええ、お願いしますね。戦いに関してはこちらでしっかりと仕込みますが、日々の事は同じ出身の方がいいでしょうから。」

「ああ、任せてくれ。これでもガキどもの面倒は長いこと見てるからな。」


そうして子供たちを加えて、馬車がなかなか手狭になり始めた、そう思いながらも、傭兵ギルドに向かう。

子供たちは早速とばかりに、少年たちに荷物の纏め方、についてあれこれと注意されている。

魔物と戦うときは日帰りなのだし、収集物を集めなければいけないのだから、空き袋を必ず用意する事。狩猟に出る、その時に持っていくものは、日々の物と分けておくこと等、こまごまと一つづつ、これまでの彼らの経験で得た物を教えていく。

時折、不安げにすれば、オユキとトモエで助け舟を出しながら。

そんな話を子供たちが熱心に聞き、さっそく今できることを始めている。


「武器は、最初は木の棒か。」

「ええ、これから背も伸びて体もできるでしょうから。いえ、せっかく町にいるのですから手ごろな物をいくつか用意しましょうか。」

「その、良いんですか。」

「流石に馴染むものを選ばせてあげられはしませんが、必要になりますし。ついてくるというのなら、この後は始まりの町に戻りますから。」

「ああ、武器、手に入れるのが難しいもんな。」


そうして傭兵ギルドにたどり着くと、傭兵を二人、王都にいる間の護衛として、一先ず一月契約したいとそう話を切り出す。


「なんだ、護衛がいる様な危険な場所に行くのか。」

「その私達だけであれば、とは思うのですが。」

「ガキどもが増えてるからか。まぁ、良いぜ。二人でいいのか。指名はあるか。」

「今ついてくださっている方でもいいのですが。」


トモエがそう言えば、傭兵ギルドの受付に座る男性は、にやりと笑う。


「そっちは公爵様の手配だ、動かせん。」

「では、そうですね、ホセさんが契約していた方はどうなっていますか。

 慣れた方の方が気が楽ですから。」

「だろうな。だが悪いな、空いてるのは、ルイスだけだ。他はもう先約がある。ホセにしても領都を明日には離れるからな。後は女も一人いたほうが良いだろ、そうなるとアイリスか。」


あげられた人物のうち、ルイスは始まりの町からなんだかんだと、長く顔を合わせている。

女性の方は初めて聞く名前ではあるが、彼に並べられるくらいなら、腕は確かなのだろう。

そう判断してトモエは話しを進める。


「会って話す、必要もなさそうですね。」

「ま、堅物だが腕は確かだ。条件は。」


言われた言葉にオユキが今度は提示できる条件を並べていく。


「午前中から宿に戻るまでの間、宿泊、一般的な食費はこちらで持ちます。お酒などの嗜好品は、線引きが難しいので申し訳ありませんが。後は、護衛中に魔物を狩った場合は、狩った物はそのままお持ちいただければ。

 積み荷の優先権くらいは主張したいですが。」

「宿に食事までつけて、酒迄出せなんてのはそれもう悪ふざけだ。そもそも護衛中に飲む馬鹿は俺が直々に叩き直す。積み荷の優先権は、そうだな、後で木樽を一つ運ばせる、それくらいは、こっちで貰えそうか。」

「ええ、その程度でしたら。一応宿に戻ればその日は終わり、そういう形ですから。そのあと、翌日に触りがない程度でしたら、構いませんよ。」


オユキがそう告げれば、受付の男性は肩を竦めて苦笑いする。


「それなら、後は帰れってのが多いからな。ま、そっちが良いならいいさ。1日当たり3500、だな。二人で。

 宿も食事も出るなら、こんなもんだ。護衛対象の人数が多いから少し上がっちゃいるが。」

「どちらが、とは聞かないでおきましょうか。二人で11は流石に多いですからね。実際は七ですか。」


オユキが傭兵ギルドの中には入ってこないが、町中で護衛をしていると思しき人間の数を足して話せば、受付の男性がさらに面白そうに笑う。


「ま、見りゃわかるだろ、お前さんなら。にしてもそこまではっきりわかるか、後であいつら説教だな。」

「町の外に出れば、身を隠す場所がないですから。」

「草原だからな。で、そこに出てから気が付いたのか。」

「いえ、昨日神殿に向かうときに。」

「おう、わかった。最初からだな。あいつらは後で説教だ。」

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