第165話 慣れない武器

「あー、なんか久しぶりな気がするな。」


宿の馬車によって、東門を出て、そのまま大きく南へと移動し、揃って森を見ながら草原を歩く。


「始まりの町を離れてからと考えれば、もう2週間近く空いてますからね。」

「うーん。なんか体の動きが硬くなってる気がする。」

「そうですね。自覚があるなら何よりですが、どうしても間が空くと、余計に力が入りますから。」

「トモエさんとオユキちゃんでも。」

「ええ。ですからこうしてゆっくりと歩いて、改めて体の確認をしていますから。」


トモエがそう答えれば、少年たちはそれぞれにその場で立ち止まって何度か武器を振る。

教えがきっちりと体に叩き込まれているようで何よりではあるが。


「ほら、振りに力が入りすぎてますよ。」

「ああ、なんか武器が重いからかな。」

「それもありますね、ただ昨日はできるようになっていましたから。」

「そういやそっか。うっし。」

「アナさんも、無理に腕を伸ばしすぎです。それからパウ君は腕だけで振ってますよ。」


そうしてトモエが手早くそれぞれに声をかけ、数分も続ければ、いつものように動けるようになり始めた。

それを確認してから、さらに森に近づいていく。

慣れてるものでなくとも、魔物が見える地形ではあるので、不意を突かれることもない。


「ただ、多いな。魔物。」

「ええ、ある程度間引きますので、まずは一匹から慣らしましょうか。」

「お願いします。えっと、リアは初めから弓使うの。」

「今日は剣にしようかな。矢も沢山は持ってきてないし。」

「そっか。」

「さて、灰兎からですね、行きましょうか。」


トモエがそう声をかけて数歩さらに魔物に近づけば、そこに境界が確かにあるのだろう。

これまでのように、突然魔物がこちらめがけて突っ込んでくる。

感知範囲は、始まりの町の丸兎も広いようで、少し離れた場所でも動きが見える。

シグルドがまずはとばかりに先頭に少し出たのを確認してから、トモエが近くにいた3匹のうち、二匹を続けて切り捨てる。

オユキは少し離れた位置から近づいてくる灰兎を警戒し、構えて待つ。


「よし。いけるな。」


飛び掛かる丸兎を、体をずらして安全を確保したうえで、剣を振り下ろし、シグルドが危なげなく仕留める。

そして、手早く落ちた物を拾い集めて、後ろに下がる。


「アナさん、次はこちらです。」


次にと武器を構えるアナにオユキが声をかけながら、2匹のうち一匹を仕留めながら、アナに声をかける。


「はい。よっと。」


これまでの訓練に加えて、魔物との実践が確実に少年たちを鍛え上げているようで、アナも実に危なげなく、飛び掛かる灰兎を交わして、それが振り返る前に後ろからナイフで首を裂く。


「数が多いですし、練習に二人づつ回しましょうか。

 パウ君はこちら、セシリアさんはオユキさんの方へ。」


トモエの側には既にグレイハウンドが迫っており、声をかけながらその一匹を切り捨てる。


「ほんと。あんまりこのあたりで狩りする人がいないのかな。」

「にしても、この剣、いいな。前のとは全然手ごたえが違う。」

「あ、ジークも。私も毛に引っかかる感じがなかったよ。」

「はい、二人とも。二人づつ回すという事は、周囲の警戒に集中できるのは一人だけですからね。

 武器の手入れをしながらも、周りに注意するんですよ。」


そういってオユキは声をかけながら、グレイハウンドを斬り、近くにいた灰兎の体当たりをかわしつつ、それを叩いてセシリアの方へ飛ばす。


「そっか。」

「でも、手入れはしっかりしなきゃいけないもんね。」

「あんちゃんにしてもオユキにしても、戦いながら逐一武器みてっからな。」

「うーん。あれはまだまだ無理そうかなぁ。」


シグルドとアナが話している間に、パウがグレイハウンドをそのつるはしの餌食にし、セシリアも危なげなく、灰兎を切り捨てる。


「げ、もう順番か。」

「わ、急がなきゃ。」

「急ぐのもいいですけど、しっかりと武器の手入れもしましょうね。

 それにしても数が多いですね。周りに人も数人しかいませんし、これだけ大きな町なら狩りに出る人も、それなりに多いでしょうに。」

「そういや、そうだな。」

「では、2週したら体も温まるでしょうから、一人で複数を相手にしましょうか。」

「おっしゃ。怪我に注意して、だな。」

「はい、その通りです。次はグレイハウンドですよ。」


トモエとシグルドがそうして相手をする間に、オユキとアドリアーナの方でも、グレイハウンドを相手取る。


「いつもより重いからかな。ちょっと体が引っ張られるかも。」

「そうですね、上体が流れてるようにも見えますが。トモエさん、変わってください。」


グレイハウンドを切り捨てたアドリアーナの呟きに、オユキとトモエが位置を変える。

その間にシグルドも、危なげなく、グレイハウンドを切り捨てる。


「よし。こうしてると、自分が強くなったって実感するな。」

「前より良くなってると、私もトモエさんも言っていませんか。」

「いや、こう、自分より強すぎる面々に囲まれてると、どうしても。」

「ああ。私も習い始めの時はそうでしたね。さ、今は物を集めて下がりましょう。」

「おう。パウ交代だ。」

「確かに、早いな。」


そうして2周する頃には、周囲の魔物も、あくまでこちらが動かずとも寄ってくる魔物も数を減らし始め、まずはシグルドが突っ込んできたグレイハウンド3匹を相手取る。

灰兎や丸兎に比べてはっきりと連携をとる相手に、なかなか苦戦しながらも、どうにか怪我をすることなく動けている。


「こいつら、3匹になっただけで、これか。」

「初心者の壁だそうですから。危ないと思えば、横から1匹づつ削りますよ。」

「ああ。頼んだ。お。」


グレイハウンドのうち1匹が後ろに控える残り四人の方に行くそぶりを見せシグルドがそれにつられたところに、残りの二匹が突っ込んでくる。

シグルドは慌てず、1匹に狙いを定めて、その横を抜けながらグレイハウンドの胴を切りつけ、その勢いのまま別の標的を狙うそぶりを見せたグレイハウンドの方へ駆け寄り、それに対応するつもりか、口を開けてとびかかるグレイハウンドを正面から切り捨てる。

残りの1匹は、オユキとトモエは狙わず、シグルドの方へと突っ込んでいき、振り返り、構えたシグルドに切り捨てられた。


「うし。」

「今のは良かったですよ。」

「ああ、でも、もうちょっと早くに機会があった気もするんだよな。」

「そのあたりは、後で反省しましょうか。さ、今は交代して、次の準備ですよ。」


そして次はパウの番となったのだが、彼は突っ込んできたグレイハウンドをつるはしでただ正面から打ち返して早々に片を付ける。


「俺にあってる。」

「そうですね。ですが、今の振り方を続けると、ほら。」


そういって、周囲の魔物が近づいてこない間に、トモエがパウのつるはし、その接合部を軽く手で押す。

すると、両側が軽くぐらつく。


「ああ。そうか。安くないからな。」

「それをしなければならない、状況によってはそういうときもあるでしょうが、今はそうではなかった、そういう事です。」

「気を付けよう。」


そして、次にアナが灰兎を4匹相手取ることになったのだが、こちらも実に危なげない。

ところどころ、オユキが試行錯誤をしながら練習している動きを取り入れているようで、実に軽やかに動いて、すれ違いざまに灰兎に短剣を添わせ、確実に削り、鈍った物から仕留めていく。


「うーん。上手くいかなかったかも。」

「そうですね。オユキさんの動きはまだまだこれからですし、もう少し長い物を想定していますからね。ですが悪くはありませんでしたよ。

 後は、もう少し短剣の型を教えましょうか。そうすればまた変わると思いますから。」

「はい。でも、型を守れとは言わないんですね。とっさに出たから、怒られるかなって。」

「独自に成長させるのも、教えられる側の務めですよ。分派などはそうしてできるのですから。

 もちろん、教えている事を勝手に解釈し、異なるものとして誰かに伝えようとすれば、その限りではありませんが。」

「人に教えられるほどじゃないですから。うん、でもちょっとずつ自分が動いてみたい形が見えてきたかも。」

「良い事ですね。後でまた相談しましょう。」


次いで、セシリアはまたこちらも危なげなく、グレイブを操って、グレイハウンド3匹を切り伏せる。


「んー、武器の違いが大きい気がする。」

「それでもきちんと当てられる腕がついての事ですから。」

「こう、もうちょっと先が重くても、いいかな。」

「私たちの武器ができたら、そちらも試しに振ってみてもいいですし、工房にまた立ち寄った時に、他の者を試すのも良いですね。」

「はい。少し、色々試して、これって言うのを見つけてみたいな。」


最後のアドリアーナも、灰兎3匹を問題なく切り捨てはしたが、少々時間がかかった。


「んー、剣よりは槍の方が楽だったかも。」

「ただ、弓を主とすると槍を持ち歩くのは大変なんですよね。」

「嵩張りますもんね。」

「そのあたり、折り合いがつきそうなものを探しましょうか。

 後は、もう少し皆さんが馴染めば、間合いについても教えますのだ、それから考えるのもいいかもしれません。

 それに、魔術もありますから。教えることは叶いませんが。」


そうして、魔物をそれぞれに狩っては、簡単に感想をトモエと話す、そういった事を数時間ほど繰り返し、それぞれに色々な収穫を得てから、町に戻る。

少年たちも、自分たちが着実に腕を上げていると、そういった実感を得られたことが、最も大きな収穫だろうか。

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