第164話 領都の魔物
「やっぱり私は残ればよかったかな。」
神殿でひとまずこの後の流れの確認を行い、子供たちの手伝いもあるので、これからは祭りまで午前中神殿に訪れることを約束して別れることとなった。
そして、今は狩猟者ギルドへと向けて、宿の馬車に揺られている。
「んー、助祭様も言ってたけど、狩猟と木々の神は、魔物と戦うことだって喜ぶから。」
「そうだけど、やっぱり大変そうだったし。」
「明日からは、町の方からも手伝いを募るらしいですから。」
「あ、そうなんですか。それじゃあ、大丈夫なのかな。」
少年たちも手伝いに行けば、そこは戦場の如き有様で、これをあそこに、あそこにあるものをそこにと、教会の人間がほとんど総出で走り回り、祭事迄保管されているようなものは、日に当て清めと、人ではいくらあっても、特に異なる場所とはいえ、教会の手順に慣れている彼らの手伝いはひどく喜ばれたらしい。
「始まりの町でも、祭りはあるのでしょうか。」
「ありますよ。新年祭、豊饒祭、祈願祭、降臨祭。大きなのはこの四つかな。」
「毎年毎年、大変だよな。代官様もその時期はしょっちゅう町中を行ったり来たりしてるし。」
「まぁ、活気があると、そういうほうが良いのだろうな。」
そうして、手伝いの内容や、始まりの町での祭りの内容などを聞いていれば、思いのほか早く、狩猟者ギルドにたどり着く。
「その、この後時間があれば、町の外に行くことも考えていますが。」
「勿論、お連れさせていただきましょう。結界の中で馬車は待つことになりますが。」
「宜しいのですか。」
「ええ、勿論ですとも。」
そんな嬉しい誤算を喜びながら、揃って狩猟者ギルドに入ると、直ぐに受付に呼ばれる。
そこで少し待っていると、アーノルドとフレデリックが揃ってやってくる。
「よう。待たせたな。トロフィーの査定が終わったぞ。」
アーノルドがそう声をかけると、少年たちが首をかしげる。
頷いているのはアドリアーナくらいだ。
「あれ、昨日受け取ったろ、冗談みたいな金額。」
「なに言ってんだ、武器に使った残り、毛皮以外の部分、肉に牙に、あれこれと大量に残ってるだろうが。」
フレデリックがカウンターから腕を伸ばしてシグルドの頭を掴んで、そう叱る。
「そっちの嬢ちゃんだけか、把握してたのは。
お前ら、全部ギルドに投げるの良いけど、自分の事だけは管理しておけよ。」
「お、おお。そうだな。そっちを先にするか。このあたりの魔物の資料を見に来たんだけど。」
「ああ、ならその間にそっちも用意しとこう。今回は高額だからな。為替でのやり取りになる。
大きな都市なら使えるが、始まりの町に帰るなら、その時に両替していきな。」
「まだ、そんな額になるのか。」
「昨日工房に言って、魔物素材の武器、その金額見てきたんじゃないのか。」
「いや、案外安かったぞ。」
「そりゃお前、魔物素材の持ち込みがあったからだろ。普通に買うならいくらになるか聞いてこいよ。」
そう、あきれたようにため息をつくフレデリックにアドリアーナがそっと、丸ごと買うならいくらになるのか、その金額をシグルドに伝えると、彼は叫び声をあげて、慌てて口を閉じる。
「おう、お前らはそっちの嬢ちゃんを見習え。役割分担と、面倒の押しつけは違うからな。」
「そっか、そうだな。まぁ、基本的に任せるけど、俺も知ろうとはしておく。」
「ゆっくりでいいよ。すぐにはやっぱり難しいから。」
「ごめんねリア。」
「アナだって、洗濯とか色々やってくれてるもの。」
そうして、席について書類を見ながら確認していく。
「今回はホセに相場で売るからな、こんなもんだ。時間はかかるが競売に出せばもっと上がるが。」
「いえ、今回はこれで。いろいろと骨を折っていただいてますから。」
「ま、お前さんらがそれでいいならいいさ。おっと、サインの前にまずは数えてくれ。」
そうして一連の手続きを終えると、少年たちはぼんやりとした表情で為替を見ている。
「大金に見えるかもしれないが、それこそいい武器一つ買えば無くなるからな。
それに森の奥に行きゃ、手に入る魔石一つでそんくらいになるぞ。」
「やっぱり、森の奥ってきついんだな。」
「それを聞いて、そう言えるなら問題はなさそうだな、ほれ、王都周辺の魔物の情報だ。
持ってくなら、纏めて500だな。」
「持ってても良いのか。」
「ああ、どうしたって種類が多いからな。全部覚えろってのも無茶な話だ。」
そこには本一冊はあろうかという紙の束が積まれている。
確かにこれをこの場で一読して覚えるというのは無理があるだろう。
「弱いのは西側だな。次に南。」
「鉱山は、どのような。」
「お前らでか、収集物がかなり重いぞ。」
「そこまでですか。」
「ああ、こっちだな。入ってすぐのあたり、魔物が出る廃鉱山だな、そこだと狂った地精、泥人形、石人形なんかがいるんだが、だいたい20cmの立方体だな、それくらいの金属や鉱物が残る。」
「ちょっと冗談じみた話ですね。」
トモエがその話を聞いて、ただ苦笑いをする。
少年たちはピンと来てないのだろう、その様子を見て、オユキが説明する。
「今言われた大きさで、純度にも寄りますが、だいたいその大きさで私二人分より少し軽い、それくらいでしょうか。」
「そんなの運べないぞ、流石に。」
「ええ、もう少し小さいかと思っていたのですが、他の方はどの様に。」
「荷運びようの人足を雇うな。それかいちいち出入りを繰り返す。入口の安全なところに馬車を置いてな。」
「なかなか難儀しそうですね。」
「稼働中の鉱山があるのはそれが理由だな。だが買取もそれなりに高いぞ。それこそ武器を作るのにはいくらあってもいいからな。他にも使い道はいくらでもある。魔物産の金属は魔力をはじめら含んでいるとかで、普通の鉄よりも出来上がりの質が良くなるらしい。」
「成程。どちらにせよ、一度は行ってみましょうか。
宿のご厚意で、馬車も借りられそうですから。」
トモエが、一先ずそう決めて一人頷く。
さて、その時に少年たちはどうしたものか、そう考えはするが、狂った地精と泥人形くらいであれば、どうにかなるだろうか、そんなことをオユキは考える。
「金属で出来た魔物もいると聞きましたが。」
「ああ、少し深くに行けば出るぞ。見た目は石人形と同じで体が鉄でできている、名前もそのままだな、鉄人形だ。深くといっても、入って1時間も歩けば出て来る。」
「おや、そうなのですか。」
「中に入れば置いてあるが、案内板があるからな、魔物が変わる、その境界の手前に立ててある。
言うまでもないだろうが、手前で苦戦するようなら、奥に行こうなんて思うなよ。」
「ええ、勿論です。」
そうして、一先ず魔物の情報の写しを買うために支払いを済ませ、その場でこれから行く先を検討するために、揃って目を通していく。
「俺ら、東側から来たんだな。」
「ええ、そうなりますね。ただ、東側だと、あなた達はまだ早いでしょうね。」
「グレイハウンドだけならどうにかなりそうだけど、シエルヴォもいるしプラドティグレはどうにもならないだろうからなぁ。」
「なら、西か南か。」
「私は南が良いな。西の魔物は初めて聞く名前が多いし。」
「でも西の方が弱いんだろ。南は森も広がってるし、そこそこ強そうだぞ。」
そうして、少年たちが話し合うのを見守りながら、オユキはゲームの頃の知識と照らし合わせていく。
今話している通り、弱い魔物は西、少し手ごわいが、慣れた相手である、これまで戦った魔物の延長戦でもあるし、既に戦ったこともある灰兎やグレイハウンド、グレイウルフに少し踏み出せばシエルヴォやソポルト。始まりの町に出る魔物より、純粋に強化されている、そういった相手だ。
一方西側には、歩きキノコや、サーペント、グリーンホッパーといった、始まりの町ではそれこそ森に入らなければいないようなものもいる。
少年たちにとってみれば、難易度はどちらも大差ない。
「まぁ、近いのは南側ですから、今回は南側にしましょうか。
西側も、勿論今後行きますよ。いい経験になりますからね。」
オユキがそう微笑んで言えば、少年たちが苦い表情でただ頷く。
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