5章
第166話 夕食を食べながら
「なんか、狩猟者が始まりの町から離れていく理由が、分かった気がする。」
午前中に教会で手伝い、午後から久しぶりに魔物を存分に狩り、狩猟者ギルドでその成果を納品して、しばらく休んだ夕食の時間、シグルドがそんなことを言い出す。
客がいないためか、コースではなく一度に料理を出すスタイルに、宿側が気を聞かせてくれたのか、変更され。
干した魚に柔らかな葉物野菜、彩に見覚えのない野菜そんなものをふんだんに使ったパスタとソーセージ、型焼のパンにベーコンとチーズをのせたピザに近い者、サラダなどが並べられた食卓で、各々思い思いに料理に漬けている時であった。
「単純に、効率が違いすぎるな。」
シグルドと競うように、特にソーセージが気に入ったのか、シグルドと競うように一口大に切っては食べながら、パウもその言葉に頷く。
「でも、初めての人は危ないよ。私達だって、トモエさんとオユキさんがいなかったら。」
オユキと一緒にサラダやパスタを主体にもそもそと口に運びながら、セシリアが二人にそう告げる。
「ま、そうなんだけどさ。でも、ここでやれるなら、こっちの方が早く稼げるからな。
武器もいいのが手に入るし。」
「ま、そうだよね。正直いい武器なんて、とか思ってたけど、使ってみたらはっきりわかったし。」
シグルドの言葉に、放っておけば肉にばかり手を伸ばす少年たちの前にサラダを置いたり、逆に野菜を主体に食べるオユキとセシリアの前にソーセージを切り分けて置いたりしながら、アナがシグルドの言葉に頷く。
「でも、ここだって王都に比べれば、何だよね。」
アドリアーナがぽつりとそう呟けば、他の少年たちも食事の手を止めて唸り始める。
「上を見ればきりがない物ですよ。逆もそうではありますが。
目標として掲げるのはいいですが、足元もちゃんと見ましょうね。」
トモエがそう少年たちに声をかけると、頷きが返ってくる。
「えっと。最初は一月って話だったけど、どれくらい領都にいることになるんだっけ。」
「正直見通しが立っていませんね。ホセさんと戻るなら、ホセさんは2月はかかると仰っていましたが、別行動と、そうしてもいいわけですから。」
「そうか。でも、武器はこっちで用意して戻りたいな。えっと、とりあえずの物ができるのが3日後だったか。」
オユキの言葉にシグルドが指を折りながら、工房から聞いている予定を口にする。
「はい。その段階でどの程度の仕上がりかは分かりませんが、そこから調整をして、仕上げをして、また日数がかかるでしょう。頼んでる他の武器も同様ですね。」
「あんちゃんたちは4つは頼んでたし、やっぱり1月はかかりそうだな。」
「ええ。私たちに合わせれば、そうなるかと。後は皆さんも、これから得る素材で武器を改めて作ってからとなれば、その分の日数もかかりますね。始まりの町まで商人の方に運ぶようお願いすれば、話は変わりますが。」
そう言うと、シグルドはまた悩み始める。
「最初は一月っていう話だったし、まずはそれ。
後は途中で予定が変わりそうなら、その時に話せばいいと思う。」
「でも、私、お祭りまでには戻りたいかな。」
「そっか、そうよね。」
少女三人がそういって頷きあうのを、少年たちもそういやそうだと、そんなことを言いながら聞いている。
「一番近いお祭りは、いつでしょう。」
「えっと、春の終わりに祈願祭があるから、それかな、今が春の2月の2日だから、
二ヵ月より少し短いくらいかな。準備のお手伝いもあるから、もう少し早く戻りたいかも。」
「では、一月を少し過ぎたときに武器が間に合えば戻りましょうか。」
「あんちゃんとオユキは、それでいいのか。」
「ええ、また来ればいいだけです。お祭りは年に一度でしょう。」
「ありがとう。」
そうして、先々の予定を簡単に決めると、昼間の戦いの感想を各々に話し合う。
「にしても、グレイハウンド、まとめて相手して、勝てたんだよなぁ。」
「ああ。月に数人被害にあってると聞いていたが。」
「今日ギルドの人も言ってたじゃない、こっちでも被害者はいるって。
それよりも魔物が多い気がするのが気になるかな。」
「それこそ、狩猟者が狩ってないからじゃないかって、話にならなかったか。」
「そこは明日からも、様子を見るしかないでしょうね。
普段はこの領の騎士も魔物の間引きを行われているようですが、ここ最近はと、そういう話でしたから。」
狩猟者ギルドで、魔物数が多く感じられたとそんな話をしながら、集めてきた魔物の収集品を出せば、それは狩猟者ギルドにしても分かり易い証拠なのだろう。
資料を確認してから、ギルドを出て3時間ほど、それで集めたにしてはなかなかの量を前に、職員達から、魔物の状況について報告を求められ、それぞれに目についた状況を説明した。
「お言葉の事もあるし。本当に魔物増えたのかも。」
「ああ、それだ。俺らが町に戻った時に、それって司教様に話してもいいのかな。」
「私たちが勝手に神様の言葉を話すのは、まずいんじゃ。」
「こちらでの情報伝達手段が、どのような物かは分かりませんが、司祭様に頼んで、司教様に手紙を書いてもらいましょうか。」
「でも、今お祭りの準備でお忙しいのに。」
「なにもすぐ出なくても構いませんよ。私たちが町に戻るのはまだ先ですから。」
「あ、そうだ。そうだね。」
オユキがそう話せば、不安げな顔をしていた少年たちがそれに頷く。
思い出せないが、ゲームとしてのこの世界の時には、何か遠隔地、主要都市の間では情報のやり取りをする方法があったようにも思う。
こちらに来て早々、僅かにくすぶった火種の事を考えても、そのようなものはあるはずなのだが、もともと魔物との戦いばかりで、世界の舞台背景や所謂フレーバーテキスト、技術開発などに全く興味を持てず、頼まれれば手を貸す、それくらいでしかなかったため、そのあたりの知識があまりに乏しい。
料理人や菓子職人などもプレイヤーとしていたというのに、こちらの食材もろくにわからない有様である。
「ギルドの方にも伺って、必要なら町に戻るときに手紙くらいは届けましょうか。」
「うん、そうだね。あ、それとお土産。どうしよう。」
「日持ちのする食料や、領都特有の物、それこそ金属製の何かなども喜ばれるかもしれませんね。
しばらくは祭りで忙しいでしょうから、それがひと段落着いたら、町を見て回ってみましょうか。」
「楽しみ。」
「でも、帰りもまた馬車の中か。」
「野営も考えて歩くのは、まだ無理だと思いますよ。」
「分かっちゃいるけど、一日ずっと場所の中だとどうしても。」
シグルドが渋い顔でそう話せば、オユキとトモエも、それには頷くしかない。
それなりに揺れる馬車の中、何をするでもなく一日をそこで過ごすのはなかなか堪える物がある。
魔術の練習として、瞑想くらいは行うが、それにしても限度はある。
「馬の休憩に合わせて、体を動かすしかありませんね。
今後もついて回りますよ。遠出をするなら。」
「そうなんだよなぁ。」
そうしてあれこれと話しているうちに、食卓の上に並んでいたものは綺麗に片付き、デザートと飲み物が運ばれてくる。
「わ、今日のも美味しい。」
「俺は、これはちょっと甘すぎるかも。アン残り食べるか。」
「うん、ありがと。」
「リアとセリーで分けてくれ。」
「パウも、これ苦手なの。」
「ああ。昨日のはまだ美味しく食べれたが、これはそうじゃなくなる。」
酪農をしていることもあるのだろうが、クリームとジャムをふんだんに用いられたタルトは、少年たちの口には合わなかったらしい。
「トモエさんは、大丈夫そうですね。オユキちゃんは、相変わらずこういうの好きそうだし。」
「ええ、私はもともと甘味の類は好きですから。オユキさんは、こちらに来てから好みが変わったようですね。」
「私はシグルド君とパウ君の気持ちも分かりますよ。甘い上にクリームがやけにくどく感じられたんですよ、以前は。昨日のような、酸味もあるチーズ主体の物は美味しく食べられたでしょう。」
そうしてデザートについても、あれやこれやと、こちらではまた見たことが無い異邦の物を少し話したり、そうして楽しい夕食の時間は過ぎていった。
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