第132話 属性と神々の色

「それでは、確認していきましょうか。」


そうカナリアが言えば、それぞれ、手の中にある魔石を改めて見る。

幸いと言えばいいのだろうか、全員、元の無色の結晶ではなく、何某かの色が、薄くついている。


「そういえば、魔物倒した時も、こんな感じで、色がついてるよな。」


そういって、シグルドがつまんだ指で持った魔石を掲げる。


「そうですね。魔物が属性を持っているとする説もありますし、事実それらしい特性を持つ魔物もいますが、主流の論は、自然に存在する雑多なマナを取り込んでいるからとなります。」

「それだと、特定の色を示す魔物がいた場合に、説明がつかないように思いますが。」

「土地柄、というものがありますから。水場の側はやはり、水のマナ。森の中では、森。風の強い場所では風、そのように。」

「それでは、魔物が属性を持っているというのは。」

「魔術、のような物、を使う魔物がいるのと、土地が極端にマナが偏っている場合、それから、どのような場所で討伐しても、特定の属性をもった魔石を落とす場合、それらですね。」

「成程。」


そう言うと、カナリアは、彼女も持っていた魔石を手のひらの上に広げて見せる。


「マナの扱いに慣れれば、このように得意な属性だけを表に出すのではなく、分けることも、自分でマナを加工することもできるようになります。」


そこには、色とりどりの魔石が5個ほどあった。

そのどれも色がはっきりとしており、初めて行った面々の手にあるそれとは、はっきりと違うと分かる。


「へー。これって、色はどんな意味があるんだ。」

「神々の色と同じですよ。シグルド君は橙なので、火ですね。」

「ふーん。」


それから、少年たちの他の者が持つ魔石の色を確認し、それぞれに属性をカナリアが伝えていく。


アナは黒で月、パウが茶色で大地、セシリアが緑で木、アドリアーナが青緑で水。

それぞれが、その色に思い当たることがあるのだろう、神殿の神々と同じ色と、そう言われているのだ。

特に、アナはロザリアの祀る神と、同じ色だったことを殊更喜んでいる。

セシリアは、種族に依る物なのだろうが、狩猟と木々、その色ではあるが、それがどういった魔術かピンとこないのか、首をかしげている。


「属性の魔術しか使えない、というわけでもありませんから。

 まぁ、そのあたりは、おいおい説明しますけど。それと、お二人は。」


言われて、トモエとオユキも、手の中の魔石を見せる。

よくもここまで全員違う色になったものだと、感心しながら。


「えっと、オユキちゃんが、灰色で、冬。トモエさんが、黄色で雷ですね。」

「成程。」


一先ず、トモエもそう頷くが、やはりそれで何ができるのかと言われれば、ピンとこない。

それに、神殿に並ぶ10の神像とも、違う色であるため、どのような神かもわからない。


「オユキちゃんは、月と安息の女神様の妹神だね。冬と眠りの女神様。

 トモエさんは、雷と輝きの神様。」

「頂いた物を言うのは無粋ですが、戦と武技の神であれば、そう思ってしまいますね。」

「あの、トモエさん。戦と武技の神は、魔術はお使いになられませんので。

 マナにかのお方を示す色は、存在しないのですよ。」

「そうなのですか。技として、明らかに魔術じみた事を行えると聞いてはいますが。」

「ええと、管轄が違う、としか言いようがありませんね。

 その、技を与えられた方が、マナを使っている、そのような気配はあるのですが、正直魔術よりもよくわかっていません。

 言葉は悪いのですが、そういった方々は、非常に感覚的と言いますか、体系を作るほど、理論に積極的でないといいますか。」


その言葉にはオユキとトモエも頷くしかない。

考えることも重要だが、それよりも剣を一度でも多く振れ、そう言うだろう。

技を考えるだけならまだしも、体に覚えさせるにはそれしかないのだから。


「ああ、その顔、駄目です、よくありません。

 異邦の方は割と学問に明るい方が多いというのに、どうしてそう。」


カナリアが二人を見て大きなため息をつく。

それに苦笑いを返すしかない。


「その、魔術に熱を上げている異邦人は。」

「一人だけです。」


他の方は、狩猟者になってます。

そんな湿度の高い視線と共に、カナリアが告げる。


「なぁ、ねーちゃん。それで、これがわかったら魔術つかえんの。」

「さっき説明されたでしょ。別にそういう訳じゃないって。」

「じゃ、なんでこんな事させられてんだ。それこそ、素振りでいいじゃねーか。」


シグルドとアナが退屈し始めたのか、きゃいきゃいとやり始めると、カナリアがただ愁いを浮かべてシグルドに話しかける。


「マナの扱いだけで魔術が使えるわけではありませんから。

 得意、馴染みやすい魔術文字の勉強をするんですよ。」

「じゃ、俺はいいや。」

「やるんです。いいから、やるんです。」

「いや、使えるかも分かんないのに、なんでそんな面倒なことを。」

「良いですか、勉学は人生を豊かにするんですよ。

 別にあなたが魔術を使えなくとも、正しく魔術文字を学べば、魔道具だって作れるようになるんですよ。」


カナリアの涙ながらの言葉に、シグルドが何かを言う前に、アナが後ろから飛びついて、口をふさぐ。


「わー。凄いですね。早速勉強しましょうか。」

「ええ、そうですとも。早速お勉強しましょう。」


セシリアが、まったく感情のこもらない声でそう言えば、カナリアが砂の詰められた箱を早速とばかりに運んできて、地面に置き、その前に座る。

そして早速とばかりに、そこに何か図形のようなものを指で書く。


「これまで、見たこともない文字ですね。」

「これが魔術で使う文字ですね。今発見されている、いえ、神々から授かった文字は全てで二百程が確認されています。公開されていない方もいると思いますので、実際はもう少し多いのでしょうが。」

「神々から授かる、ですか。」

「ええ。魔術の扱いが極まってくると、神から新しい文字を授かることがあります。

 いえ、極論するなら、全て神から授かると言い換えてもいいのですが。」


その言葉に、オユキを除く一同が首をかしげる。

そんなオユキの様子に気が付いたのか、カナリアが、オユキに話しかける。


「あら、オユキちゃんは知っていましたか。」

「経験はありませんが、使い続けるうちに、次の呪文が唐突に思いつくと、そう聞いたことが。

 そして、人の呪文を聞き、真似をしようとしたところで、出来ないとも。」

「そうですね、前半分は正解ですが、後ろ半分が少し違います。

 必要な研鑽を積んでいれば、使うことができますから。」


実は、このあたり、武技と同じところもあるんですよ、そういうとカナリアは話を続ける。


「魔術文字、これを自分で組み立て、そこに必要な経路を組み合わせ、必要なマナを正確に供給する。

 この流れをもって、魔術というのは成立します。

 それと、勘違いされる方もいらっしゃいますが、文字だからと、その音を口に出す必要はありません。

 正確に思い描く補助、その程度ですから。それと慣れてしまえば、それこそ簡単なものは、手指を動かすのと、そう変わらない感覚で使えますからね。」

「神々から授かる文字なのに、なんで、勉強するんだ。」


シグルドの素朴な疑問にカナリアの言葉が止まる。


「文字の意味、それを知るためでしょう。」

「でも、神様がくれるんだろ。」

「私達では、頂けない文字があるかもしれません。そしてそれは、使うことができるかもしれません。

 私も、トモエさんも、主に使う武器はありますが、それ以外の技も修めていますし、一緒に弓も習っているでしょう。」

「ああ、手札が増えるのは、いいことだって、言ってたな。

 でも、それで中途半端になったら、どうすんだ。」

「そうならないようにするだけです。難しくはありますが、何処かで見極めるしかありませんから。

 私たちの時間は有限ですからね。」

「んー、どっちかと言えば、これよりも剣の方を鍛えたいな。」

「まぁ、それも追々でいいでしょう。正直、今はそこまで根を詰めて剣を振るのもよくありませんから。」

「そうなのか。」


オユキがそう言えば、続きはトモエが引き取る。


「やりすぎても、体を痛めますからね。それで鍛錬ができなくなっては、本末転倒です。

 それに、皆さん、まだ体が成長しそうですからね。」

「そりゃ、まだ背は伸びるだろうけど。」

「そうなると、一番合う構えも変わってきますから。今は基礎以上の事はあまりできないんですよ。」

「そうか。じゃ、空いた時間でなら、やってみるか。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る