第131話 カナリア先生

「その、一応ですね、使えるかもしれない、それを調べる方法はあるんですよ。」


少年たちが顕著ではあるが、身につくかどうか、それも完全に意味が無いかもしれない、そんな技術の習得について難色を示すような質問がしばらく続くと、カナリアは悲しげな表情でそう呟く。


「かもかー。セリーは、あのねーちゃんから、なんか聞いてたよな。」

「ルーさんから、土に溜まったマナを吸い上げる方法は習ったけど。」

「おー。それって、魔術じゃないのか。」

「種族の特性だって。」


そういって、シグルドがカナリアをみると、カナリアはそれに対して説明を始める。


「魔術とは、違います。種族の特性、それによるマナの扱いは、やはり普遍性、えーと、誰にでも使える、そこから外れますから。いえ、魔術も万人が使えるわけではないので、その言葉が正しいというわけではないですね。

 魔道具として、魔術に用いられる言語に即しているか、それを使っているか、そういう観点からずれている、というのが正解でしょうか。

 ただ、そういう特性を持つ種族の方が、魔術を学べば必ず扱える以上、区分として確かなものではないのですが。」

「その、魔道具というのは、耳にしたことがありますが、それはどの様な。」

「魔術言語と、それを実行するための回路を刻み込んだ道具です。

 動力に魔石を使うのですが、魔石からマナを吸い出すわけですね。

 町の結界、壁の中には必ず使われている技術です。

 魔物の魔石が、ある程度以上の金額で買い取られるのは、この町を守る結界の維持、それに使われるからです。」

「という事は、魔術は魔道具で十分なのですか。」


アドリアーナがカナリアの説明に対して漏らした言葉が、カナリアに致命傷を与えてしまった。

くぐもった声を漏らすと、胸を押さえてカナリアがうずくまる。

シグルドにするのと同じというわけにはいかないのか、小さな声でアナがアドリアーナに注意をしている。


「分かってますよー。魔術ギルドは魔道具ギルドに名前を変えろって、100年は言われてるらしいですからね。

 そうですよね。使えるか分からない魔術より、学べば必ず作れて、使える魔道具のほうが有益ですよね。」

「その、軽んじているわけではありませんが、その二つに差はあるのでしょうか。」

「正直なところ、あまり。」


カナリアは悲し気にトモエの疑問に答える。


「強いて言えば、使い手によって、起きる事柄の規模が多少調整ができることと、魔道具はどうしても大型化しますが、魔術はあくまで本人だけで行使できる、それくらいでしょうか。」


その言葉に、オユキはふと思い当たることがあった。

ゲーム時代、こちらとは逆だった理由は、それだろうと。

ゲームだったのだ。誰も彼も知らぬ場所、用意されたすべての場所へと行くことを望んだ。

他のゲームにまま見られる、インベントリ、重量だけが問題になる便利の収納道具など存在しなかった。

ならば、大型化、かさばる道具など人気が出るわけもない。

存在は知っていたが、ゲーム中で見たことなど、無かった。


「成程。しかし、魔道具は学べば必ず作れるようになるというのは。」

「動力、つまり発動するためのマナが、別から取り出せますから。自身の体内で捻出しなくてもいいので。」

「という事は、人も魔石を外部動力とすることで、魔術が使えるようになるのでは。」

「そちらは、研究中ですね。今のところ実現できていません。

 仰るように、外部から供給が可能であるなら、そういった発想はありますが。

 そもそも、マナ自体はこの世界に満ちていて、そこから取り出せない以上、魔石を用いたところで不可能では、そういった反論もありますから。」

「ああ、成程。魔道具は、大気中にあると薄く、燃料として適した濃度を持っているのが魔石、そういう認識ですか。」

「ご推察の通りです。一応、人でも魔石を使って、適性を見ることはできるんですよね。

 どうにも、理論ばかりでは、興味を持っていただけそうにないので、そちらも試してみましょうか。」

「いや、セリーは分かるらしいけど、俺は、前教えてもらった姿勢とっても、さっぱりわかんねーから。」

「そのあたりも、改善できればいいんですけど。」


他に方法が見つかっていないんですよ、そういってカナリアが、小さな魔石を袋から取り出して、一人一人に渡していく。


「それを手に持って、瞑想をするとですね、自分の一番得意な属性の色が出ます。」

「となると、それができた方は、魔術が使えると。」

「いえ、そういう訳ではないんです。あ、そこ。そんな露骨にがっかりしないでください。」


カナリアの言葉に、何だといって、シグルドとパウが手に持った魔石をカナリアに返そうとするのを慌てて押し返す。


「いや、だって、ぬか喜びじゃね、それって。」

「だって、他にないんですよ。マナが扱えるようになるまで、目に見える変化なんて。」

「例えば、魔石のついていない魔道具を起動したりというのは。」

「いえ、魔道具はあくまで魔石を基に動きますから。その、生物の自然なマナでは圧縮量がですね。」

「魔石の代わりを務められるなら、そもそも魔術が行使できると、そういう事ですか。」

「ええ。はい。あ、だから、そんな露骨に落ち込まないでください。

 とりあえず5年続けてみましょう。」

「なげーなぁ。」


すっかり、やる気をなくしてしまった少年たちと、どのみち今日はその予定だったからと、カナリアを囲む様に、全員で瞑想をする。

トモエとオユキは二人で軽く目配せをしながら、さて、勉強を嫌う子に、それをさせるにはどんな手管が良いかと、考える。

そうして、余所事を考えながらも瞑想は、行うのだが。

これまで、集中の一環、脳裏に理想の動きを思い浮かべる等、そういった事として行ってはいたが、マナの感知となると勝手が違いすぎる。

こちらにそれはあると分かっていても、そもそも前の世界にはなかったし、実感などできるわけもない。

しいて言うのなら、魔物が消え、魔石と、収穫物を落とす、そんなときに、何か、そういったよくわからない力が確かに働いていると、そう感じられるくらいか。


「あ、そこ、寝ないでください。ちゃんと集中して、マナを感じようとしてくださいね。」

「あ、ああ。いや、魔物と戦った後だと、程よい疲れが。」

「我慢しなさいよ。使えたら、便利にはなるでしょ。」

「セリーは、分かるか。」

「えっと。うん。分かるかな。」

「おー、やっぱりそんなもんなのか。どんな感じなんだ。」

「美味しそうな匂いがするのが、こう、周りにある感じ。でも、薄くてあんまり美味しくない。」

「あの、セシリアさん。食事としてではなく、マナを使うために取り込んでくださいね。

 生命維持に使ってしまうと、魔術に使う分は、体にたまりませんから。」


そういって、カナリアが、背中から羽を広げる。

そう言えば翼人種、とのことだったか。


「私達も、飛ぶために使うマナは魔術には使えませんから。」

「んー、よくわからいかも。」

「まぁ、感知はできるわけですし、種族としても、扱えるでしょうからあとは練習ですね。

 それか、満足するまで取り込めば、後は残ると思いますし。」

「分かりました。」


そんな会話を、間に挟みながらも、それぞれに瞑想を続ける。

始めて30分ほどたったころだろうか、カナリアが、ここまでにしましょうと、そう皆に告げる。

間に、シグルドの寝息が聞こえたり、パウが横出しに倒れたりと、ちょっとしたトラブルはあったが、どうにか全員が終わりの解放感に体を伸ばす。


「正直、無理かもしれない。」


そして、パウが呟くと、シグルドとオユキもそれに続く。


「えっと、オユキちゃんもなの。」

「いえ、今なら問題なく続けられるでしょうが、やはり成果がどうなるか分からない、そう思うと、自身で進捗の把握ができる技を磨きたいと、そう思う心は止められませんから。」

「だよな。やっぱ、こうしてじっとしてるよりも、素振りしてたいよな。」

「うむ。」


そんなことを話していると、オユキに裏切られたと、そう言いたげなカナリアの視線が突き刺さった。

そもそも、ゲームの時にも、早々に諦めて、見向きもしなかったのだ。

もう一度機会があるのだから、挑戦してみてもいいと、そうは思うが、やはり今模索していることに比べれば、どうしても優先度は低くなってしまう。

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