第13話「堕落拳聖」

ゴーンゴーン、リズムを刻む何処に存在する古い時計。

その鐘の音を聞いた男は立ち上がり再び歩き出す。


「焦っているようだな、ユウキ」


白髪の男は唇を歪ます。

ユウキという少年の存在は今や大きい。それだけの地位を持ち、

地位に相応しい力を持つ。そして裏には歪んだ願いを持つ。

戦隊モノでよく見かける悪役が持ちそうな願いであった。

ギルドの新たなグランドマスターにさせられたセイマは

緊急で各ギルドマスターを招集する。


「これから僕たちは前グランドマスター討伐を最大の目的、最重要依頼と

します」

「なんと…!?まぁ、黒い噂は幾つか聞いておりましたがよろしいのですか。

それは貴方は自身の家族を殺すことになるのかもしれないのですよ」

「大丈夫です。僕は良い人と友達になりましたから」


セイマは新たな勇者の名前を出す。レイチェル・ハート、新たな魔王と対等の

立場であり、一国の王を務める女勇者。

一方のユウキは帝国にやってきた。それも噂、だが事実。彼はたった1年で

帝国最強の第一分団の団長になった。ウェルード帝国、第一分団。


「やぁシヴァ。相変わらず熱心だね、君のおかげで部下たちも育っているみたいだ」


シヴァと呼ばれた青年は呆れたような笑みを浮かべた。


「とか言いつつ、本当は今すぐにでも俺には出てって欲しいんじゃないの?」

「どうして?」

「さぁ?頭の良いアンタならパパッと答えも出るでしょ」


シヴァは拳聖、名前の知られている拳聖だ。

筋骨隆々な中年の大男…という強面な人間ではない。この帝国は軍人学校が

存在する。特に厳しい学校では卒業生が出ないこともある。だが彼は数少ない

その学校の卒業生。スタミナも身体能力も人間とは言い難いほどに跳ね上がって

いる。ユウキにも分からないことは何故、彼が副団長に拘っているのか。

素直に聞いてみると


「団長とか、面倒くさいですよ?ロクに努力してない奴らが勝負を挑んできては

叩き潰しての繰り返しでね」


面倒くさいことから逃げているだけだった。


「失礼します!副団長、お客様が来ております。如何致しますか」

「客…ねぇ。場所を移動させろ」

「ば、場所…?」


部下は困惑する。場所を移動させるって?


「俺の卒業学校は分かっているな?そこで良い」

「か、畏まりました!」


部下の顔からは安堵の表情が見えた。ユウキは不満を漏らす。


「良いよねぇ、シヴァは色んな人から慕われててさ!」

「そりゃお前が胡散臭いから嫌われてるだけだろ」

「えぇ?そうかなぁ?僕、そんなに胡散臭いの!?」

「っだぁー!!!!やめろ!!!お前の胡散臭いのが移っちまう!!!!」


伸びてくる腕を掴み止めるシヴァは嫌そうな顔をする。心の底から

嫌そうな顔だ。この男は思いのほか、鋭い洞察力を持っている。

シヴァが出て行った後、ユウキはやっとリラックスできる。


「お疲れです事。あの男はそんなに強いかしら」

「君の眼は節穴なの?君より少なくとも10倍強いよ。踏んだり蹴ったりだな、

セイマにも感づかれるし、副団長は鋭いし」


ユウキは足を組んだ。女性はメティス、魔王であった女だ。彼女はかつて

現在の勇者に敗れている。


「君じゃ、最近魔王になった奴にも勝てないだろうけどね」

「そんなことありませんわ!半分は人間、純粋な魔族である私に勝てるわけが

ないですわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

救済勇者の活動計画 花道優曇華 @snow1comer

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ