第11話「目覚め勇者」

レイチェルが目を覚ましジーザスの顔を見て驚いた。頬を抓ったり、目を

擦ったりしてから何度も顔を見ては目を丸くしていた。


「10年経ってるのに…全然老けてない!?」

「え、じ、10年!?」


レイチェルが8歳頃に彼は行方をくらませて死んだとされていた。訳が分からない。


「でもクレアさんはその時の年齢は40歳になるって…あれぇ?」

「正確にはもう100年を超えている」


更にレイチェルたちは衝撃を受けた。100年を超えている。追い打ちをかけるように

今年で130だと告げられてレイチェルは最早笑うしかなかった。


「人間の寿命では無いな」

「でも種族は立派な人間さ。呪いの類でね、寿命が異常に延びている」


そんな呪いがあるのか?

どうやらあるらしい。掛かる理由は分からない。だがジーザスは幼少期、

忌み子として周りから拒絶されて生きていた過去がある。

その頃から既に呪いはあったらしい。血の繋がりのある人間が死ねば、呪いに

掛かった存在も死ぬ。ハート家の子どもはレイチェルだけなので彼女が死なない

限りはジーザスも何があっても死ぬことは無いらしい。


「レイチェル様と一心同体…みたいな?」

「それに近いかな。まだ、いや…やっと寿命の残りが100年近くになった」


ジーザスは笑った。

嬉しそうだ。条件付きの不老不死の男は大事な家族と共に死ねることを

喜んでいるのだろう。


「それよりも君が魔王になったのだろう?」


スカーレットは頷いた。


「君とレイチェルの間で因果関係が出来上がったって事か」


勇者が生まれれば魔王が現れる、魔王が現れれば勇者が現れる。

それが今回の事だ。レイチェルが勇者として生まれて、スカーレットが

魔王として覚醒した。


「力の均衡が崩れ始める。それに不穏な空気も大きくなり始めた…」


ジーザスは国を探り続けていた。それらの情報は全てこれから先に王になる

レイチェルの為に持ちだしてきていた。


「仲間を増やすに越したことは無い。今後、こういったことで無駄な死を

減らすためにも、な」


ジーザスは誰かに投げかけるような語尾を付ける。扉の前にはセイマがいた。

彼は一礼してから中に入る。彼の右肩には月を模した紋章が刻まれていた。


「セイマ?」

「途中で出会った。目的は同じだったからね」


では、その紋章は?


「盗聴、そして監視の能力を消すため。ギルドの上層部も怪しいな」

「ギルド…って、もしかしてその怪しいのってグランドマスターの事?」

「僕も分かりません。本音を見せない人ですから。だからこそ僕は一度

逃げることを選びました」


その話を笑いながら聞くことは出来なかった。レイチェルは会ったことが無い。

そのユウキという少年がどんな人間なのか分からない。


「あまりレイチェルとユウキを会わせるのはオススメ出来ない。話を聞けば分かる

だろうが危険な思想を持っている」


ジーザスはそう忠告した。その言葉を聞き入れる。


「セイマ、もうここに住んだら?ここからでもギルドの依頼は受けられるでしょ」

「そうですね。皆さんが迷惑に思わないのならそうさせていただきます」


セイマはこのグランディア連邦国を新たな拠点とすることを決めた。

ジーザスは再び国を離れることにすると言う。

その去り際に彼はあることを伝えた。


「竜たちが会いたがっていた。扉は開けられるようになっている」


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