第9話「覚悟吸血鬼」

ダンピーラであるスカーレットは半人にしては珍しく魔王になることが

出来る資格を持っている。

モラドも伴い臨時で会議を始める。


「ソウジュから、東西南北にそれぞれ教会の人間達が陣取っており

結界装置を守っているという。それと連合軍が2万ほど」


シュカはそう伝える。


「…こちらは死人が出ている。覚悟を決めるしかない」


スカーレットの眼が鋭くなる。人間を殺す覚悟を決めた。

結界によって魂はまだこの国の上空に留まっている状態。そして

予測していたのか分からないがレイチェルが張った結界がある。

人間達が張った結界を壊しても問題は無い。


「明日…こちらから動く。全員覚悟しておいてくれ。シュカ、お前は

レイチェルの元を離れるな、良いな?」

「分かりました」


人間であるマグナスは、というと


「良いよ別に。向こうだってこっちの人たちを殺している。誰かを殺すと言う事は

自分も殺される覚悟があるということだからな」


意外と冷めていた。翌日、それぞれ四つの方角で分散し、敵を倒す。そして

結界装置を破壊する。

スカーレットは本軍を襲撃し、魔王に覚醒することを決意する。

人間の魂が魔王覚醒への道具である。



「お、おぉ…!ザンザスよ、来てくれたのか!!」


藍色の髪をした男はファムリス王に一礼した。表情は無い、機械を思わせる

動作と声、雰囲気を持つ。


「しかし王よ。私は少し不安です」

「な、何がだ?申してみよ」

「これが新たな魔王覚醒のキッカケにならないかどうか、です」

「何?魔王の可能性を持つ輩はいないはずじゃが…」


ザンザスという男は首を横に振った。するとファムリス王は彼の胸倉を掴んだ。

そして怒鳴る。


「エルナト司教が言っておったのだぞ!!?魔王になる者などおらぬわ!!」

「…分かりました。出過ぎてしまいましたね」


ザンザスは冷めた声で言った。ファムリス王は後悔する。あの男の言葉を

鵜吞みにした自分の愚かさ、そしてこの男の忠告を聞き入れなかった自分の

傲慢さを。

ザンザスは国王に全く忠誠心は無い。別の人間を心配していた。

騙されてるんだよ国王様。

アンタは魔王の手下に騙されている。

アンタの弱点は傲慢さと相手を見ていない事。

今日がアンタの命日になるんだ。

彼は心の中でほくそ笑んだ。



「悪いなモラド。お前にまで参加させて」


スカーレットは謝罪の言葉を述べた。


「良いって事さ。友だちだろ?俺たち。お前が覚悟を決めたなら俺だって

覚悟を決める」


モラドは歯を見せて笑った。スカーレットも微笑を浮かべ、剣を抜いた。

そして本軍の拠点に向けて出発する。

その間、教会の人間達は動揺する。一人は嘆き、一人は唯々涙を流す。

そして一人は自分たちがしてしまったことを悔やむ。

自分たちが魔物を魔王へ覚醒させてしまう。その地雷を踏んでしまったのだと。


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