第3章「二兎を追う者は一兎をも得ず」

第8話「絶望吸血鬼」

スカーレットは懐かしい面々と顔を合わせた。

元々は吸血鬼ハンターとして動いていた彼の仲間だ。


「よっ、人間に仕えてるんだって?ちょっと羨ましいな」


紫髪の男はスカーレットの背中を軽く叩いた。彼はスカーレットと

違って明るい性格の持ち主だ。喜んでいた笑顔が消え、その男

モラドは不安気な事を口にする。


「噂でしか聞いていないがグランディア連邦国が大きくなって交易路が

新しくなっただろ。それを良く思っていない国があるんだ。名前を

ハイドレンジア王国が軍事行動を起こすんじゃないかって言われている」

「…噂、か」

「噂も舐めたもんじゃないぜ?今回のはマジだ。今のハイドレンジア王国の

国王様の性格を見ればな」


モラドは今からでも良いから帰った方が良いかもしれないと彼に

進言した。今まで見たことが無いほどの真剣な目をする彼、だから

スカーレットはその言葉を信じることにした。



戻ったところで手遅れだった。

事件は緻密な計算によって引き起こされていた。わざと国に入り、

聖騎士団が視察に来たところで襲われたという嘘を告げる。

そうすれば聖騎士団は人間の味方をするのは当たり前。


「待ってください!!私はレイチェル・ハート、どういうつもり?証拠は

あるの?」

「この声、そして姿が証拠だ。それ以上も以下も無い!」


レイチェルは首を横に振る。だが一度火がついては消すのは難しい。

下手な事を言うのは火に油を注いでしまう。


「残念だが貴様を勇者と認めることは出来ない―」


騎士は剣を振るう。

そして早急に去って行った。一週間後、国王直々にここへ来る、その時に

降伏をしろ…そう告げたのだ。

人間の男も騎士団の仲間、二つの結界を作って逃げていった。

魔物の力を弱める結界である。



「どういうことだ…ちゃんと説明しろ」


戻ってきたスカーレットの眼には怪我人と死人、そして崩れた建物。

シュカに彼は説明を求める。


「人間達でした。彼らが突然、魔物に襲われたと言って来たのです。し、しかし

その魔物は何もしていないとハッキリと言っていました。確かです!私も

それを見てましたから!」


そのタイミングで人間達が入ってきた。自作自演に嵌まってしまったのだ。

スカーレットは何も言わない。

そこで彼は考える。アイツは何処だ?

もしかして―


「ま、待ってくださいスカーレットさん!!そっちは―」

「やっぱり隠してたんだな」


傷は無い。だが昏睡状態の勇者を見てスカーレットは静かに怒りを

覚えていた。

誰が、こんなことをした?

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