第2章「巨神ヘカトンケイルの拳」
第5話「レンタル勇者」
魔法に頼りまくるのはどうなんだろう?
勇者は考える。きっと戦う事が増えるだろう。魔法だけに頼って
大丈夫か?
「で、俺が剣を教えるのか?」
マグナス・ロックハートの元に訪れてレイチェルは頼み込んでみた。
彼は何やら納得いかない顔をしていた。魔法が使えているのだから
それで十分補えるのでは?
「まぁまぁ、色々覚えておくことに越したことは無いんだから」
「そりゃ否定しないがなぁ…教える事なんざ無いんだよ」
「え、どういう事?」
自己流の剣が多い。マグナスは特にそういった剣術の型は身に着けていない。
そのままレイチェルは諦めることにした。何か必要になればその時に
どうにかすればいっか~。
なんて軽い考えでいるのであった。
グランディア連邦国に一人の冒険家がやってきてレイチェルに声を掛けて来た。
「僕に手を貸してくれませんか?」
名前をセイマという。ギルドに所属している冒険家は幾つかにランク付けされる。
彼は驚くことにSS級の冒険家であった。
「い、いやいや!そんなに強いなら私はいらないでしょ…!」
「そんなこと言わないでくださいよ。僕は勇者である貴方の力が間近で見たいんです
そうだ!レイチェルさんもギルドに所属してみませんか?」
ギルドに所属すれば様々な依頼を受けて報酬が貰える。セイマはギルドの総帥、
グランドマスターの双子の兄がいるのでそれなりの待遇を受けているという。
セイマが受け取っている依頼書を見せて貰った。魔獣の討伐依頼だった。
「ほら、ここから近いでしょう?この辺りに詳しい人に助けてもらうのも
良いかなって」
その事情をみんなに伝えてからセイマに同行する。セイマは小柄なのかもしれない。
レイチェルは背が高くて170㎝ある。だが彼はそれよりも少し低い。
巨神ヘカトンケイルが二人の相手をする敵であり討伐対象。ん?二人でやるべき
討伐じゃないと思うんだけど!?
と、いうことで遠距離サポートが出来る仲間を数人集めておいた。
「レイチェルさんは凄いですね。貴方はやっぱり人を導くことに特化していると
思います」
「そうかな?向き不向きはあるだろうけどさ、互いに信頼していれば別に
大変なことは無いよ」
力で縛る関係が一番脆い。互いに対等で心の底からの繋がりは一番強いと
レイチェルは考えている。って、ちょっと恥ずかしい…///
「本当にカリスマ性がある人は一目で分かるんですよ。雰囲気が違うんです。
レイチェルさんのもとで働く人たちは幸せですよね」
なんてセイマは言っていた。
何かを羨望するような目をしていた。そして誰かを悲観するような
口ぶり。引っ掛かりを覚えたが追及することはしなかった。誰にだって
知られたくない事や触れてほしくない事はあるのだから。
小さな宿で夜を超えることを決めた。案内された部屋は綺麗だった。
夕食の時間は全員が同じ場所に集まる。
「やぁ、珍しいね。勇者様にグランドマスターかな」
「違います。僕はグランドマスターの弟です」
声を掛けてきた女性は少し目を逸らした。
「すまなかったね。あまりに似ているものだから…それに君もね」
「私?」
「あぁ。私は先生がいてね。彼によく似た顔をしている。名前はそう…
ジーザス・ハートだったかな」
ジーザスは確かにレイチェルの父親だ。
黒髪の美女は目を伏せる。その瞼に映るのは目の前にいる少女と同じ
藍色の髪をした年齢よりも若い外見を持つ男だった。
「紹介が遅れていたね。私はクレア・シャーウッド、これでも腕の立つ
魔術師さ」
「改めまして…僕はセイマと申します。現在のギルドのグランドマスターである
ユウキの弟です」
「私はレイチェル・ハートです。そのジーザス・ハートの娘です。
よろしくお願いします」
彼女との親交を深めた。
そこでクレアは魔法について色々話してくれた。
「魔法と言っても幾つかに別れている。その中でも古代魔法は使える者は
私が知っているだけでも片手で数えられる程度しか存在しない。莫大な魔力と
強靭な精神、集中力、そして才能によるところが大きいからだ」
努力で何とかなるさ、という考えではどうにもならないというのだ。
「レイチェルならば使えると思う。遺伝に依存するところもあるからね」
「そうなんだ。あ、じゃあクレアも親が凄い魔術師だったとか?」
「さてね。私は孤児だったから分からない。私にとっては君の父上が
先導者だったのだから」
父親も母親も死んだとされている。死体が何処かにあるわけでは無い。
心の何処かでいるかもしれないと思っているが、帰ってきていないのだから
死んだのだろうと諦めている。
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