第4話「討伐勇者」

巨鯨は勇者を空から見下ろす。

鯨が口を開けて吼える。

来る、脚の力が私だけ抜けた鳴き声!レイチェルの耳をスカーレットが

塞いだ。鳴き声が消えてからが本番だ。まずは下に引きずりおろすべきと

ソウジュは糸を鯨に絡ませる。そして引っ張る。だが力は鯨のほうが

上らしく彼の体が浮く。


「コハクッ!!」


目の色と同じ琥珀コハク。国に存在する鬼人の中で最も力がある。

純粋な筋力、身体能力で一番と言っても良い。

その力に負けた鯨が地面に落ちた。


「抑え込んで!!」


ナディアが叫び、コハクは上から巨体を抑え込んだ。凄い…獣人は目を

丸くしていた。

ここまで抑え込むことが出来る鬼人…強すぎる!だが―


「離れて、コハク!!」


レイチェルが叫びコハクは飛び退いた。別の鯨が大きく口を開けて突撃

してきたのだ。再び鯨は空を飛ぶ。


「お、オイ…あれって潮吹いてるよな!?」


これは不味いと考える。コハクは上を脱いでレイチェルに被せた。


「ま、待ってよ!これ、そりゃ人間だって危ないんだろうけどコハクたちだって―」

「良いから大人しくしててくださいよ」


コハクは指の骨を鳴らす。向かってくる鯨に向けてその剛拳をぶつける。

そこに全員で一斉に攻撃を仕掛けていく。だがそれでも薄皮一枚が切れただけ。

巨鯨は暴れる。


「ここからは私が相手するよ!」


剣を抜いてレイチェルは構える。巨大な鯨は標的を彼女に絞り攻撃を開始する。

空気弾を躱しながらレイチェルは剣を振るう。


「あの鯨…魔王として目覚めてるんじゃないか」


スカーレットの言葉を聞き全員が耳を疑った。


「いいえ、そんな…魔王だと?言語能力も無い鯨が…?」


ハティは首を傾げる。他も同じような反応をしていた。

レイチェルは大技を狙う。しかし相手も撃たせない。少し溜めなければ

ならない技だ。

スカーレットは誰よりも先に出る。


―剣技「紅蓮之剣ルージュソード


赤い剣、その動きは綺麗であり素早く洗練された技であった。時間を稼ぐつもりだ。

スカーレットはきっと、否、絶対レイチェルよりも強い。レイチェルは

そう考えている。相手の力が分からないほど愚かではない。

スカーレットは強い。それを言うなら全員強いのだ。

白銀の刃はレイチェルの魔力を纏う。魔力は赤い炎に変化する。


「スカーレット、ありがとう。時間を稼いでくれて」


その言葉に対し彼は無言で鯨から距離を取る。


「地上に恵みを与える聖なる火―聖炎アグニッッ!!!」


炎の刀身が振り下ろされた。その余波は大きく油断すれば体は容易に

吹き飛びそうだ。ヒシヒシと感じる神聖な魔力…レイチェルの持つ

魔力であると察することが出来る。

剣を納めたレイチェルが振り返るとすぐに全員が集まってきた。


翌日、獣人たちは自分の国へ帰国していった。

この戦いは既に幾人かの魔王たちが見ていた。

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