第3話「捕鯨勇者」

その気配は全員が察知した。

国を訪れた獣人たちも察知している。獣国バルデヴィラの戦士三人。

狼の獣人ハティ、蛇の獣人メリッサ、梟の獣人ナディア。

メリッサはレイチェルに声を掛けた。誰もいない場所で二人きり。


「スカーレットと言いましたっけ。あのダンピーラ」

「うん、スカーレットっていうけど…どうしたの?」


メリッサは何か言いにくそうなことを言おうとしている。だが彼女は

首を横に振った。


「いいえ、やはり何でもありません。すみません」

「えぇ~?そこまで言ったら教えて欲しいんだけど…うちはてっきり

スカーレットが好きになってしまいまして、とかかと思った」


メリッサはポッと顔を赤くして早歩きでその場を離れてしまった。

これは片思いしてるのかも…。

可能な限り応援してあげようと思った矢先だった。

緊急の招集が掛けられた。そこで待ち構えていたのはドライアドの

フレイヤという女性。


「三大魔獣を知っていますか?」


三大魔獣。鯨、兎、鹿の三匹だ。封印されたと聞いたが…。


「そのうちの一体、巨鯨の封印が解かれ此方に向かっております」

「えぇ!?今、客人が来てるのに…」


不満を漏らしたのはレイチェル。だがしかしノリ気なのは獣人だ。


「良いではありませんかレイチェルさん。私たちは構いませんわ。戦うことに

不満はございませんし」

「でも…いや、やっぱりこういう時は素直に力を借りるべきだよね。ということで

力を貸してください!」


獣人たちと共に巨鯨の討伐を目指す。それが勇者レイチェル・ハートの最初の

偉業となるだろう。そう漏らしたのはナディアだ。


「巨鯨討伐前に国を治めるようになった、そして魔物と手を組んだということが

偉業の一つだと思うけど」

「知らぬ間に勇者という職業に拍車がかかってるんだ…」


そのまま強敵に挑むわけにもいかない。相手の事を調べなければならない。

そこでやってきたのがエルフのメイド、バーバラは何冊か本を持ってやってきた。


「その巨鯨について、お話がございます」


巨鯨は空を飛ぶ。その巨体故に並大抵の攻撃では大きなダメージを与えられない。

鯨の潮にも気を付けなければならないようだ。特に人間であるレイチェルには

強力な毒となる。


「それと、こちらをお納めください」

「…剣?」

「はい!ドワーフの方々から授かってまいりました。どうか、お役に立ててください

とのことです!」


彼等の魂が籠った剣を携えてレイチェルたちは巨鯨討伐に動く。

聞こえて来た鳴き声に異様に反応したのはレイチェルだった。脚の力が抜けて

倒れかけたところをスカーレットがしっかり抱きとめた。


「しっかりなさってください」

「ありがとう。スカーレット。みんな、行こう!捕鯨ぐらいやってみせるわ!!」

「巨鯨はここから北へ進んだところにおります。お気をつけて、私は戦力には

なれませんので」


フレイヤは姿を消してしまった。北へ進軍する勇者と魔物たち。

数百年ぶりに三大魔獣は勇者と対峙することになるのだ。

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