第2話「予感勇者」

「レイチェル様」


瞬間移動だと!?と驚いたことを心の中にしまってレイチェルは彼のほうを見た。

シュカと同じ鬼人…忍者装束を着た鬼、蒼樹ソウジュは諜報員として

動いている。その彼の横に転がっているのは誰だ。


「先の王の命令です。この男は看守。地下牢に罪のない者たちを閉じ込め

虐げていたというのです」

「なるほど。じゃあこの人は地下牢へ、それで無罪で閉じ込められている

人たちは?」

「全員解放済みです」


ヤダ仕事が早くて助かる~。


「そのうちの一人が…レイチェル様と是非とも話がしたいと」


ソウジュは真っ直ぐレイチェルを見据える。今だ、とばかりに這いずって

逃げることを選んだ男の頭を容赦なくソウジュは掴んだ。


「分かった。その人をここに連れて来て」

「承知いたしました」


また瞬間移動で姿を消した。それと入れ違うようにドアをノックする音が

耳に入ってきた。スカーレットが男を連れて来た。もしかしてもしなくてもその男が

ソウジュの言っていた人物だろう。

上半身裸で胸部に紋章が刻まれていた。一生消えない、入れ墨に似ている。


「勇者と聞いて緊張していたがなんだ、随分と可愛らしい勇者様だな」

「待ったスカーレット!乱暴しちゃダメ!」


スカーレットの拳は寸前で止まった。レイチェルの意思を汲み取った彼は

席を外す。スカーレットはスキルがある。能力スキル、読心。

気味悪がられることを恐れて彼は誰にも言っていないのかもしれない。


「なんか、すみません。罪は何も犯してないのに苦しい思いをさせて」

「なんで謝るんだ? 実際咎人だよ。別の国で罪を犯して逃げて来たんだから」


マグナス・ロックハートは咎人だと言った。


「失礼しますレイチェル様」

「シュカちゃん、どうしたの?」


シュカはレイチェルを見た後にマグナスを見た。彼女は決してマグナスを軽蔑

しない。彼に近寄り、服を手渡した。


「着てみてください。大きさは大丈夫ですか?」


彼女から受け取った服に腕を通し彼は軽く動いた後に頷く。


「大丈夫、ありがとうな。こんな奴のためなんかに」

「そんな。気にしないでください。レイチェル様には何か御考えが

あるようですよ」


シュカが笑っていた。レイチェルのほうを見たマグナスは首を傾げる。

レイチェルだって相手を見極めることは出来る。相手の情報を見ることが

出来る目があるのだ。


「その紋章、上書きしようか…」

「出来るのか?」

「出来る気がする。ちょっとやってみても良い?」


レイチェルは彼の胸部に手をかざす。少しして紋章が変形した。髑髏に剣が

刺さった絵柄からレイチェル・ハートの名前らしいハートを模した紋章に

変化したのだ。


「めっちゃ沢山契約がされてたからびっくりしちゃった。あ、私のは

全然大丈夫だから!安心して!」

「…あぁ、分かったよ。助けられた礼だ。アンタの命令には従うさ。但し、しっかり

役立ててくれよ?役立たずで死ぬのは嫌だからな」


その言葉を聞いてシュカも何となく、レイチェルが掛けた紋章魔法の内容が

分かった気がした。


「あ、そうだ!ソウジュがこちらに獣人が来ていると、報告するように

頼まれました」

「え、獣人…?」


言ってからシュカは気が付いた。しまった…レイチェルは今、右も左も分からない

状態だった!


「後でしっかりご説明します。獣人たちは恐らく明後日に到着すると

言っていましたので」

「そ、そっか!」


その日の夕食後。レイチェルに獣人たちとここの繋がりについて教えた。

国交を結ぼう、という口約束で話は終わっていたらしい。

その約束を果たすために来るのだろう。

だがその頃、国に近付いていたのは第三者の介入。魔獣の目覚め。


「結構デカいわね…これを掛ければいいんだっけ?」

「あぁ。そのあとは俺たちは遠くで傍観していればいいらしい」


二人組だ。女と男。似たような顔立ち、双子である。

それぞれディフダとエルナトという。


「このタイミングで勇者の誕生…あの人も予想外と言っていたわね」

「そうだな」

「あの人を欺く人物がいる…ということかしら」

「完璧な存在などいないからな」


エルナトはディフダに比べて冷めており、忠誠心があるかも分からない

態度を取り続けている。それがディフダは気に入らない。だがそれを口にしない。


「用は済んだ。この場所を離れないと俺たちが死ぬね」

「そうね。離れて私たちは観戦でもしていましょうか」


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