第10話 月曜のアポイントメント

その後、亮から緊急のメッセージは来なかった。

詳しいことは週明けに話すとだけ言って、先んじて妹が無事に退院したことが報告されただけだった。


というわけで月曜である今日、こうして亮の話を聞こうとその登校を待っていたのだが。


「ねぇ、瀬賀くん。連休中に小春と買い物行くんだけどさ、二階堂と一緒に付き合ってくれない?」

今週末に迫る、「」の名を冠する大型連休での同行を遠藤にわれた。


遊び相手か、荷物持ちか、そんなところだろうと予想する。大穴は男が居れば絡まれにくいというか。

先日の身体計測では、俺は180に届かなかったものの、亮は185センチという成長具合だったと記憶している。

そんなことを思いつつも、まったくの的外れを口にしてみる。


「デートの誘いか?」

「ぶっ飛ばすよ?」

平坦な軽口も冷ややかな目で返された。お主さては氷属性者かと疑いたくなるほど怜悧だ。


お互いに会話のジャブを終えると、そのまま本題へと移る。


氷狩ひかり様に会いたくてこの高校に入ったはいいけど、2年になってから特に厳しくてねー」

ガチファンなりの悩みという奴だろうか?


「何が?」

一応、聞いてみる。

「勉強と親」


……学生なりの悩みだった。


「瀬賀くん成績いいし、参考書選びに付き合ってほしいな、って思ってたんだけど。二階堂は荷物持ちその2で」

その1は聞くまでもなく俺だろう。


「俺はともかく、亮は今いろいろ立て込んでいるからなぁ」

主に妹の件で。氷属性者のことで警察とやり取りしただろうことは想像に難くない。


「え、何?何かあったの?もしかして……恋人?」

「俺の知る限りそんな存在はいなかったと思うが、それ以上はプライバシーに関わるので当社ではお答えいたしかねます」


ヘビーすぎて話すに話せないだろう。

と、ちょうどそのタイミングで教室に入る亮と大原の姿が目に入る。

「おはよ」と手を軽く掲げ挨拶する。


「おはよう。今日は二階堂くんも瀬賀くんも早いね」


「小春おはよー。言われてみれば確かに!やっぱりの二階堂の件?」


「さっきの?」

大原にはが何を指すかさっぱりだろう。


亮から視線のメッセージが届く。「話したのか?」という意味だろう。もちろんノーなので、首を振って否定しておく。


「あーっと、遠藤と大原、放課後は時間あるか?」

どうやら2人にも話すつもりらしい。強い奴だ、と思った。

「あたしは問題ないよ」

「私も大丈夫」


「んじゃあ、その時に話す。こんな所で話すようなモンでもないし」

「えー逆に気になるぅー」

当然の遠藤の言葉であったが、

「朝の喫茶店でおでんと日本酒が出てくるくらい場違いだから、半日だけ待ってくれ」

と、ピンとこない亮の例えに渋々引き下がっていた。

友達思いの遠藤のことだ。重い内容だと察してわざと砕けた調子で言った可能性も否めない。

時間と場所と話題のミスマッチを絶妙に表現した比喩だと思ったのはここだけの話。



「そういや亮、連休に買い物の付き合いって出られるか?」

話題転換として大原との話を持ち出す。余談だが、「暇?」とか「予定空いてる?」みたいな外堀から埋めていくような聞き方は好みではないので、避けるよう心がけている。


「今週末だっけ?多分その頃になったら落ち着いてると思うから大丈夫」

特に考える素振りもなく、荷物持ちその2は快諾した。

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中途半端な魔法使い おでぶ @ferrum

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