第4話 金曜の屈託

どうして彼に事情を話したのか。自分で自分がよく分からなかった。


彼の家族が残酷な目に遭っていたのは知っていた。

それでも、こんなプライベートなことを話すなんて、どうかしていた。

彼のトラウマを呼び起こしてしまう可能性もあった。巻き込んでしまう可能性もあった。

第三者に話すことで、より事態が複雑化して悪化する可能性もあったかもしれない。


それらは、後になって浮かんできた懸念だった。


(「」か)


悪化することはない。しかし、改善の見込みもない。

魔法的にも、医術的にも、どうしようもない状態だそうだ。

できることはないからと、いつも通り学校へ行った。

その事実にもまた、己の無力さを感じた。


当時の彼もそうだったのだろうか。

自分の関与しない時に、家族がその凶刃きょうじんに遭い、発覚した時には何もかも取り返しようがなかった、彼も。


気が付けば起こったことをありのまま全て話していた。

同情して欲しかったのだろうか。違う。

慰めて欲しかったのだろうか。違う。

楽になりたかったのだろうか。違う。いや、ある意味ではそうかもしれない。


去年、彼は過去を語った。直接的な言い回しではなかったが、身内が氷属性者の被害に遭い、もう戻らないと。


痕跡を探し、資料を調べ、無力感に打たれ、そうして、過去とした。自分にはそれが、語るその姿が、過去を乗り越えていたように見えた。


それにすがろうとしたのだと思う。

己の無力さを痛感し、相手を知ろうとし、それでも己の無力さを思い知った彼のその経験に。

「打ちひしがれる自分はいったいどうすればいいのか」と。

軽率で、浅ましく、幼稚で、利己的だったろう。


冷静で思慮深い彼のことだ。こちらのそんな考えを見抜いていたかもしれない。

だが彼は、全てを聞ききって、妹を見舞いたいと願い出た。

恐らく氷属性者の仕業だろうと言って。


期待してしまった。

彼が見たら、妹がどういう状況に置かれているのか、具体的に分かるかもしれないと思った。

そんなわけないのに。


落ち着いた今ならそう理解できる。断言もできる。

医者だって匙を投げたのだ。いくら彼が過去に調べた経験があっても、どうしようもないことなのだと。


そこまで思い至らなかった──いや、これは言い訳だ。女々しくても希望を捨てたくなかった。


だから、承諾した。


親に会って、「友人だから」「頼まれたから」と説明するのは、何か違うと思った。

かといって彼の過去や自分の弱さをけに吐露とろするなど、できるはずもなかった。

それなら、誰にも会わない時間にしようと思った。そうして条件を付けた。

彼も同じことを考えていたようで、見舞いの時間は夜になった。




彼が何をどこまで考え、どんな思いで見舞いを願い出て、そして条件に頷いたのか、その真意にまでは、最後まで思考が及ぶことはなかった。

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