第5話 金曜の事前準備と後始末

金曜の夜。1人で過ごす夜には慣れた。

意味もなく点いたテレビから流れる歌番組が、静寂を埋める。


サングラスをかけた司会が、アーティストにトークを振っていく様子に目もくれず、俺は黙々と金属細工をしていた。

訳あって一般人より氷属性魔法の知識がある俺は、亮の話を聞いて、2つの魔法の可能性に至った。

彼の妹は恐らく、そのどちらかの魔法の影響下にある。


魔法は、魔法そのものやあるいは魔具を利用するなどして効力を発揮させられる。

もし考え得る2パターンのうち、悪い方であれば、対処法は限定されてしまう。

そのうちの1つが魔具によるもので、こうして予め用意しておこうと作業している。


作業がもうすぐ終わりを迎える、という段でスマホが短く震えた。メッセージが届いたらしい。


そのまま数分間手を動かし続け、終わったところで届いたメッセージを確認する。予想通り亮からだ。


『明日、19時50分に総合病院まで』


面会は確か夜8時までだったか。そう考えるとかなりギリギリだ。


やるべきことも終わり、亮に了解した旨のメッセージを送る。


寝るまで絶妙に時間があるな、と思った俺は外へ出ることにした。


────────────────────────────────────


夜の10時になろうかという時間。

繁華街はまだ人通りがあるが、1つ横道に逸れれば別世界だ。


そんな、闇と静寂に支配された小道の1つ。

細身の男と、塾帰りだろうか学生の姿が目の端に映った。ゆったりと歩く男と、小走りで逃げ込むように駆ける女子学生であった。


直感を信じて、後を追うように堂々と小道へ入る。繁華街の喧騒を背に、ずんずんと歩いていく。


さすがに3歩目くらいで、まず男が気付いた。

その1秒後に、後ろを確認した学生の恐れと焦燥を抱いた目と視線が合う。

この場の全員が、それぞれを認識した。


最初に口火を切ったのは、細身の男だった。


「あなたは?」


問われたのは自分であると分かる。だが、それに正直に答えてやる義理もない。


「昨日、近くの中学校に通う学生が襲われた。夜8時より前、人通りの少ない通学路で、手口からして氷属性者の仕業だ」


男は冷静な様子で、学生は怯えた表情をしている。


「似たシチュエーションは警戒されていると予想した犯人は、明るい時間はさすがに無理があると踏んで、次はもっと遅い時間、昨日とは違って人通りの多い繁華街近くで事件を起こすだろうと、俺はそう予測した」


男は若干表情を引き攣らせ、学生はもはや青褪めていた。

ポーカーは弱そうだ。


「申し遅れた。と言っても俺には自分で名乗る名前や称号はなくてね。巷じゃ"中途半端な魔法使い"、最近だと"氷狩ひかり"などと呼ばれているようだ」


そう、言い終わるかという瞬間には、2人の頭に左右の手で触れた状態で立つ。


「誰から聞いたか知らないが、そんな悪趣味な魔法は忘れてしまえ」


冷たく言うや否や男は崩れ落ち、


「君も、今日のことは忘れな」

優しい声を最後に、少女の意識も闇に落ちた。

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