第3話 木曜の事件と金曜の約束
結局のところ、例の法案は噂であって事実ではないとその晩のワイドショーで取り上げられていた。
少数に窮屈を強いて、多数の不安を取り除けるなら、そこまで非難することではないと思っていたのだが、流石に冷徹な合理主義にすぎるだろうか。
俺の考えはさておいて。
翌々日の金曜日、登校した
正確に言うならば、亮の妹が渦中にあった。
確かまだ中学生だったはずだ。
泣き腫らし、心労からか昨日とは別人のような彼の顔には、悲痛な無力感が滲んでいた。
木曜、いつも通り帰宅した亮は、いつも先に帰宅している妹がいないことに僅かな胸騒ぎを感じたと言う。
「親に聞いても分かんねぇみたいだったし、まぁそういう日もあるだろって思ってたんだよ」
しかし、8時を過ぎても帰らず、流石におかしいと感じて行動を起こそうとしたまさにその瞬間。
「刑事さんが、ウチに来たんだ」
道端で倒れていたのを発見されたらしく、警察に通報。
呼びかけても反応がなく病院へ搬送。
検査の結果、異常らしい異常は見当たらず。
ただ、
「まるで、時間が止まっているみたいだって、医者は言ったんだ」
悔しそうに、下唇を噛みながら昨晩の出来事を伝えてきた。
「ごめんな。お前に言っても、何がどうなるわけでもないのに……」
忘れてくれ、と。申し訳なさそうに言う彼の姿を見ていられなくて、俺は言った。
「明日、俺も妹さんの見舞いに行くよ」
彼は戸惑いの表情を浮かべた。それもそうだろう。
亮とは1年以上の付き合いがあるが、あくまで高校からの付き合いであるし、彼の妹とは直接の面識があるわけでもない。
それでも、俺は頼んだ。
彼の友人として。そして、決して言えないがーーーーとして。
彼に顔を近づけて、小声で、それでいて伝わるように、ダメ押しに一言。
「十中八九、氷属性者の魔法の影響だろう」
俺も家族が氷属性者の被害にあっていて、そこらの一般人よりは詳しいし、心情だって共感できるだろう。そこに何かしらの活路を見たのか、希望を感じたのか。
「分かった」
どこか覚悟を決めたような顔で、彼はその頼みを了承した。
その内でどのような葛藤があったのか、表情からは読み取れなかった。
「ただ、説明がややこしいから、面会終了ギリギリの時間でいいか?」
確かに、亮の妹とどんな関係かと聞かれれば、初対面のほぼ他人としか答えられない。
「あぁ、無理言って悪いな。それでいいよ。それに……」
「?それに……?」
「いや、なんでもない」
「それ、絶対何かあるやつだろ」
真剣なまなざしを突き刺す亮。
これ以上彼に心労をかけるのも本意ではない。
「俺も友達の付き添いで初対面の妹さんのお見舞いに来ましたなんて言えねぇよって話」
そう言って誤魔化した。
それに、
人がいない遅い時間の方が、俺としても好都合だ。
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