第10話 腫れ物をうつす奴
「オレたちと変わらないですね」
「だから、それは先輩たちの・・・・・・」
「それは関係ないですよ。オレたちは確かに負けた。でも、君たちが負けたのは君たちの責任でしょう。それともオレたちが負けると、君たちの練習に身が入らない原因になるんですか。少なくとも中学三年間かけて頑張ってきたことでしょう。スポーツマンらしく、結果は自分たちで背負いましょうよ」
名も知らぬ後輩とやらは、固まってしまった。
「それと、君たちだって負けたんだから、その顧問、ええと、大森先生でしたっけ」
というと、名も知らぬ後輩とやらは、「先輩マズいっす。知ってる人もいますよ」と、サウナの男たちをチラッと見やって、言葉を止めようとした。
「いいじゃないですか。逆にこういう情報は大いに知ってもらいましょうよ。その大森なにがしは君たちを陰で詰ったんですよね。君らだって大森なにがしの期待を裏切ったんだから、オレらみたいに詰られたんですよね、きっと。いや普通そうなるはずだよ。先輩たちの陰口を一緒に言えるくらい仲がよかったんですから。確かにオレらはオレらが弱いから負けた。それは君と違って引き受けますよ。その大森なにがしには、勝負事に絶対に勝つ方程式があって、オレたちはその絶対的な方程式を裏切って負けたんですよね。だからオレたち、とうよりオレは、君たちや大森なにがしに詰られたんでしょ。勝負事に絶対はなくて様々な要因で勝敗が左右されることがわかっていたら、まさか教師ともあろう者が、負けた腹いせで陰口なんて叩かないでしょうよ。オレよりも絶対的に信頼されていて、一緒に陰口をたたき合うような信頼し合う君たちのことだもの。裏切ったら、オレどころじゃなく陰口を叩かれてると思いますよ。で、一体なんて言われてたんでしょうね。後輩に聞いてみたらどうです。そういうの聞くの好きなんでしょ。わざわざオレに聞かせるくらいだもの」
耕太郎は自分でも意外なほど流暢に反論をしていた。意味が伝わったかどうかは関係ない。口げんかなんて、勢いが大事だ。
後輩は何も答えないで自分の膝を見ている。
「それで、君は高校どこに行ってるの」
名前も知らぬ後輩とやらは、口をもごもごさせて「・・・・・・工業です」と答えた。
「よく聞こえませんが、・・・・・・工業でいいんですか。おれは」と耕太郎が高校名を告げた。
我ながらみっともないマウントの取り方をしていると気づいていたが止められなかった。名も知らぬ後輩とやらは見事に怯んだ。
「君、ほとんど面識のない先輩に悪態をつくほどバレーボールを愛してるんだから、今でも続けてますよね。中学の雪辱を果たさないと」
「いや、今は・・・・・・」
「頑張れよ!!」
耕太郎は大きな声で言って、名も知らぬ後輩とやらの肩を二度バンバンと思い切り叩いた。汗が弾けて飛び散った。
――大人げない。本当についてない日だ。
後輩とやらは全身を真っ赤に染めて、出口から出ていった。
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