第4話 化け物のような高校生
腕時計を見ると夜九時になろうとしていた。
大晦日のこんな時間にこんなところを歩くのは初めてだった。人があまり歩いていないのは年末になってやってきた大寒波のせいかもしれないが、いつもの冬以上にひと気がないように耕太郎は感じた。あまり来る地域ではないが、台地の上にも下にも住宅地が拡がり、仕事から帰宅する人々が往来していてもいい時間帯だ。
人がいないというだけで、気温が一度下がった気がする。
谷底にあるスーパー銭湯の駐車場を見やる。車はまあまあの入りだろうか。
――本当についていない一年だった。
何度目かの悲嘆が胸中に浮かび、どっと溜め息が出る。
駐車場の脇口から敷地内に入った。
駐車場の向こうでは轟音を上げながら武蔵野線が過ぎゆく。
建物のエントランスから中に入ると、急に視界が広がった感じがした。ひと気のない暗がりから明るいところへ入ったからだろう。きっと周囲の住宅に迷惑をかけないように、灯りが漏れないようにしているのだろうと耕太郎は思った。
靴を脱いだ。玄関口から左手に壁を隔てて下駄箱がある。靴を持って、壁の向こうに回る。下駄箱スペースには耕太郎の首くらいの高さの棚がある。耕太郎は一九〇㎝を超えているので、きっと一七〇㎝くらいの高さがあるのだろう。当然ながら普通の人の目線の高さの棚は埋まっている。鍵がかかっていて、黄色い札が見えない。耕太郎は悠々と一番高い棚に靴をしまった。同じ高さの棚はほとんど靴が入っておらず、鍵がみんなついたままだった。百円を入れて鍵を閉める。
鍵を外したときに、足下で泣き声が上がった。足下を見ると、三歳くらいの女の子が耕太郎の顔を指さして泣いていた。女の子はマスクを顎にかけていた。
「ミクちゃんどうしたの」と驚いた声を上げながら、母親らしき女性が走り寄ってきた。女の子は首にキャラクター入りのバスタオルをかけていた。母親は化粧気がなく、上気していた。
「こわーい。こわーい」
と娘は耕太郎を指さして泣きわめいている。母親は耕太郎を二度見上げて、思い切りのけぞった。きっと謝ろうとしたのだが、あまりの耕太郎の大きさに怯んでしまい、何も言えなかったようだ。はっと我に返って、「こっちに来なさい」と娘を抱えて走っていった。
取り残された耕太郎はしばし呆然とした。
――ついてねえ。
独り胸の裡で呟いた。やっぱり怪物扱いされるのには慣れてなかった。
気を取り直して受付の入場券売り場に向かった。
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