第132話 制圧戦闘
いうなればそれは古代の戦いの様であった。投石器を使い、城を攻める。
単純でありながらも、絶大的な効果を誇った原始的な戦い。それを最新鋭の技術を用いて行っている。
言葉にすれば滑稽かもしれないが、時代が進もうとも戦闘行為の本質は何も変わらないという事でもあった。
無数の実弾が豪雨のように降り注ぎ、中継基地の外郭を穿ってゆく。小規模な爆発が起こるのは、弾薬などの爆発物への引火があちこちで引き起こされているからだ。
それでも20000メートルを超える巨大建造物である。
400メートルから700メートル級の戦艦の砲撃程度では全体が崩壊するには至らない。だとしても、目に見えて抵抗が小さくなっていくのは、効果的な攻撃が続いているという証拠でもある。
エリスの攻撃によって攻撃が薄くなれば、待機していた艦隊本隊も合流を始め、砲撃を開始し、そして満を持して空母も艦載機を発進させる。
ウーラニアなどの攻撃力を兼ね備えた重攻撃機が無数に飛び立ち、対艦、対拠点用の魚雷を発射、最後の抵抗を図る機銃や迎撃機を撃ち落としていく。
まともな艦隊戦力を有さない状態では、基地防衛は出来るものではない。いかに要塞として機能する基地であっても、身動きの取れないただ大きな的となっている。
迎撃をしようにも攻撃が激しければ、それは一瞬にして抑え込まれる。
この時点で、サラッサ側の勝ち目は無に等しい。
「機を逃すな。各艦、敵基地へ取りつくぞ!」
艦隊司令のシュワルネイツィアの判断は素早い。
敵の抵抗が沈黙するのを待つのではなく、著しく低下した瞬間を狙い突撃艇の準備を通達する。
同時に彼らの援護、そして自分たちの安全を確保する為に敢えて敵基地への接近、接舷を試みる。懐に入ってしまえば、対空砲火も意味をなさないし、歩兵を安全に送り込むことが出来る。
帝国の目的は基地の破壊ではなく奪取、制圧なのだからあまり機能を殺したくない。ある程度、削ったら歩兵を突撃させるのは決まっていた事だ。
それは言い換えれば、内部の戦力がまだ残っている状態でもあるが、そんな危険性はこれから送り込まれる陸戦隊、海兵隊は承知の上である。
「突撃隊が敵基地への接近を開始しました!」
本隊が果敢に敵基地へと挑む様子を確認したデボネアの声が跳ね上がる。
突撃を始める各艦隊の援護を担うのもまたエリスの仕事だ。
「ステラ、無人艦隊を前へ。壁として突撃隊を援護。ここまで来たら、ちょっとの損傷は必要経費よ」
「了解です!」
リリアンの命を受けて、ステラは無人艦隊による圧力を仕掛ける。最大出力で展開したシールドで押し潰すように無人艦隊を前進させると、敵は動揺を見せて、それらに攻撃を仕掛ける。低下したとはいえ集中攻撃を受ければいくらかの損傷は生じるものの、人が乗っていないのであれば、プログラムが生きている限りは動く。
無人艦隊の盾に守られ、その背後に控える恐るべき砲撃能力を見せるエリスによって切り開かれる道を突き進みながら、突撃隊が前進する。その指揮を執るは機動性に優れた第四艦隊のポルタであった。
「恐れるな進め進め。前に出ればそれだけ安全になる! ビビッて止まった奴から撃ち落とされるぞ!」
そう檄を飛ばしながら、ポルタの戦艦フラカーンが部隊を引き連れて突き進む。無人艦隊の守りもさることながら、迅速な部隊展開は流石の一言であった。
敵の攻撃の最も薄い部分を見極め、なだれ込む。それを防ごうとする敵部隊は一瞬にしてエリスらの砲撃に巻き込まれたり、艦載機隊の餌食となる。
要塞攻略戦を始めて僅か一時間の事であった。
それを軽巡洋空母から見届けていたデランは、攻撃隊の指揮を執りながらも、無意識のうちに、突撃隊の状況を部下に尋ねてしまった。
「突撃隊の損傷は?」
「全部隊、無事に取り付けたとの事。先程突入を開始したと」
それを聞いて、わずかに安堵を見せつつ、しかしデランはすぐさま表情を引き締めた。
作戦開始の直前に起きた珍事件の事を思い出してしまったからだ。
無意識の突撃隊の事を尋ねたのもそれが原因であり、デランもそれを自覚した瞬間、少し恥ずかしくなった。
「大丈夫ですよ、あの人なら」
部下の一人が少しにやけた顔でそういった。
「うるさい。作戦に集中しろ」
自分から話を振った様なものだが、デランは思わずそう言い返した。
「ったく……何なんだあの女は……初めて会った時から、変な奴だと思ったが」
あの女。アデルは地球での勤務の時からそうだ。たまたま勤務地が重なって、たまたま訓練や任務が重なって、妙に気にいられてずっとまとわりついて来て、挙句には気が付けば自分の部隊の所属になる。
確かに頼りにはなる。それは認める所だ。あと、確かに美人だとは思う。それに、なんだかんだと気心を許した仲間だし、あんな事をされたら気が気でなくなるのも当然と言えた。
「これであいつに死なれたら夢見が悪いだろうが……」
それに、なんであんなことを俺にしてきたのかを尋ねてやらにゃならん。
それも艦橋で、他人の目の前で。どうせ、この戦いが終わればその話は艦隊中に広まるだろうし、茶化されるだろう。
それはそれで嫌だが、だからと言って死なれても困る。それで何とも言えない空気になる方がよっぽど耐えられないのだから。
「特別扱いはしたくないんだがな……」
既に部下の戦死は経験した。
それでもある程度は割り切れた。大して親しくないからというのも正直な話だ。
でも、あれをしてきた相手を強く認識するのは仕方がない。
そして一度でも他人をそう認識すると、大勢の部下に死んでほしくないという感情も出てくる。
「攻撃隊には無理をするなと伝えろ。ウーラニアは稼働時間が短い。補給に戻らせろ」
デランは気恥ずかしさを払拭する様に、そう指示を出す。
***
拠点攻撃用の装備を整えたパワードスーツ隊は抵抗するものをは何であろうと反撃を加えた。それがサラッサ星人であろうと、救出対象である人類であろうとだ。
攻撃を躊躇えば、それだけ自分や仲間が危険になる。ある意味で最も容赦がないのは彼らである。
パワードスーツがあるとはいえ、戦艦や戦闘機と言った大きな隔たりのある戦いではない。直接敵を視認して、その手で始末する。
これに慣れなければ生き残れないし、任務を遂行する事も出来ない。
「我々は地球帝国の兵士である。諸君と先祖を同じとする人類である。もし宣戦布告の言葉を聞いていたのであれば、人類兄弟たちは我らと共にこい! これは解放の為の戦いだ! 諸君らが銃口を向ける相手は我らではない! 君たちの後ろで踏ん反り返っている紫色の連中だ!」
それでも、投降を呼びかける事も忘れてはならない。
彼らが突入した時点で、抵抗は思ったよりも弱弱しいものだった。内部の混乱も相当なもののようで、これは艦隊の攻撃だけが原因ではない事を教えてくれる。
多少なりとも、この基地内部で内乱のようなものが起きたのだろう。それでも人類全てが裏切ったわけではないようで、同じ人種同士で撃ち合う姿も見られる。
建前を脇に置いて、この混乱は好都合でもある。
「制圧目標は基地動力炉及び管制室!」
その他にも重要区画はたくさんあるが、パワードスーツ隊の当面の目的はそれらの制圧である。基地のコントロールを奪う事が出来ればそれで戦闘は終わる。できるだけ早くすれば、捕虜もとれるし、敵の戦力の鹵獲も可能だし、施設整備も少なくて済む。
「敵パワードスーツを確認」
「レールガンでぶち抜け」
大型すぎて狭い通路などでは使えない武器も基地内部と言うある程度広い空間であれば使う事も出来る。
突撃艇や戦艦から供給されるエネルギーによって使用可能となるのだ。
敵のパワードスーツの格闘能力は侮れないという報告を受けている。なら接近される前に潰すのは当然だ。
ある程度を殲滅出来たら、ここからがパワードスーツ隊の本番である。
ブラスターはもちろん、接近戦用の斧やメイスを手にしながら、パワードスーツたちが一気に駆け抜ける。
「押し込め! 中枢へとなだれ込め!」
突入の先陣を切るのは俺たちだと言わんばかりに大勢の兵士が電磁シールドと物理シールドを展開しながら、走り抜ける。
「邪魔だ」
行く手を阻むように敵のパワードスーツの生き残りが立ち上がるが、それを相手にしたアデルはメイスを力任せに振り回して、敵を吹き飛ばす。
「悪いが、私はさっさと仕事を終わらせて帰りたいのだ。貴様らは大人しく道を開けて、我々に制圧されろ!」
真っ先に突入を開始したアデル隊。彼女たちを先頭に次々と帝国の兵士が通路へと流れていく。
外と内の同時攻撃に晒されたサラッサ中継基地が陥落したのは、それから三十分後の事。
帝国の損害は無人艦が六隻大破、突入時に駆逐艦が二隻破棄、戦闘機十三機の撃墜、そしてパワードスーツ隊総勢二〇八名中、戦死者は二十一名。
たったそれだけの損害で、制圧を完了させる。
「こちらアデル曹長。敵管制室と思しき区画を占拠。艦長殿ー! 私は生きていますよ!」
そんな報告がなされたのである。
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