閑話休題4 リナさま奮闘記



私はリナ様ことエカテリーナ=ルアンナ=ガーネット。平民として慎ましく過ごしていたけど実は王家の血を継抱いていたことが発覚し、生活が一変したのだ!女王様だぞ!わがままし放題!贅沢し放題!・・・と、思うだろ?

「んふぅ〜・・・。」

目の前には大量の紙の山。国のいちばん上に立つ人は仕事が多く、難しい事だらけ。子供だろうが関係ない。もちろん、やろうとしたら丸投げすることもできるけど・・・。

「国税・・・国税・・・これ以上下げられないのだろ?文句言われても仕方ないのだ。どうお願いしたらみんな納得してくれるのだ?」

「ボクみたいにぃ、こぉー上目遣いで・・・。」

そばにいるのは私の側近とやら。名前はパルフェ。女装をしているだけの男の子だが、まーやきもちやきたくなるぐらいには可愛いからナルシストでも許してやってるのだ・・・って、そうじゃない。

「だぁー!もぉー!リナ様だってがんばってるのにー!」

投げ出したくなるけど投げ出さないのは、私なりにこういう国にしたいっていう希望があるからだ。だから、お金のこととか外国のこととかなんとか頭に入れて、それでもわからないことは側近やもう一人の女王のエリザベータと相談しながらやっているのだ。

「あっ・・・。」

外から賑やかな声がするから気になって見てしまった。そこには自分と同じ歳ぐらいの子供達がボールを蹴り合って遊んでいる光景があった。仕事にうんざりだったものだからつい、ぼーっと長い時間眺めていた。

「いいなぁ。」

口から出てから気づく。無意識に出ていたのだ。

「混ざってくればいいじゃないですか。女王様ですよ?一緒に遊んでって誘って断れる子供がいますか?」

パルフェ、お前それわかって言っているのか・・・?リナ様はドン引きなのだ。

「それじゃまるで強制してるみたいではないか。・・・うむ、実は前に声をかけたことがあるのだ。」

どれだけ仕事に飽きたのだろう。ついでなのだ、ちょっと昔の話でもしてやろう。たいした話ではないのですぐ終わるのだ。

「最初は遊んでくれたけど、みんなのママに連れて帰られたのだ。女王様に失礼でしょって。怒られて泣いてる子もいた。それから、もう誰かと一緒に遊ぶのはやめたのだ。遊びたいだけなのに泣かせたくないのだ。」

忘れもしないのだ。確かに、城から出てきてそのままのかしこまった格好だったのも良くなかったのだ。でも・・・。

「昔はそうじゃなかったのになぁ。」

昔・・・。そう。私は元々あっち側の人間だったのだ。地味で動きやすい服を着て、村ではなんともいわれなかったおてんばな私は男の子に混じってああいう風にボールを蹴ったり、女の子の友達ともお花を摘んだりして遊んだのだ。楽しかった。女王になっても少しぐらいは遊べると思っていたのだ。でも、女王様になってからは子供でいることは許されなくなったのだ。知らなかったとはいえ、諦めたのだ。だから仕方がない・・・。けど少しだけ寂しい。

「とりあえず仕事終わらせましょ。」

パルフェがテーブルに置いてくれた紅茶を一気飲みしてやった。私が苦いのは苦手なのを知っているから他に誰もいないときに出してくれるのは砂糖たっぷりのミルクティー。そして、耳打ちしてきた。

「あとで裏庭に来てください。こっそりとね。」

ん・・・?一体なんなのだ?まったく予想できぬ。もやもやしながら仕事を意地で終わらせた。


夕方。さすがに質素な服で馳せ参じたのだ。城の裏庭に来るまでもバレぬようにと一苦労。気持ちはお忍びのセレブなのだ。

「来たのだ・・・。」

裏庭にいたのはパルフェ・・・ん!?すごい、なんというか、民族風な衣装なのだ!

「そ、その格好は・・・。」

「私服ですよ。かわいいでしょ。」

いや、パルフェといったらもっとこう、フリル多めのピンクっていった可愛い感じの私服かと思ってたのだ。なんでもない。しかしこれでも可愛いとは・・・。

「可愛いがすぎて心底腹が立つ。で、何の用があって呼び出したのだ。」

「来て欲しい場所があるんですよ。」

そう言ったパルフェはなかなか見せない、優しい笑顔だった。そんなアイツが連れてくれる場所、想像もつかないけど、少しだけ期待したみた。

「来て欲しい場所・・・?」

「きっとリナ様も喜びますよ。」

すると私の手を掴んでは駆け出した。

「わ、わぁ!」

やっぱりこういう強引なところはブレないのだ!わけもわからず、走り続けた。


ついた先は・・・泉?

あたりには木々が囲み、ひらけた場所には大きく深い水たまりみたいな泉があった。そこだけが、とても神秘的で幻想的な光景だった。

「ここの森は魔物の棲家なんですが、強い魔物から逃げてきた弱い魔物が隠れて暮らしてるんです。万が一何かあった場合はボクなら余裕で対処できますが・・・まあ、そんな危ない奴らはいませんよ。」

こんな場所があったのは初めてなのだ。リナ様や女王様は危ないから魔物のいる場所には近寄らないようにいわれているのだ。そりゃあ私も危ないところに自ら赴くほどやんちゃではないのだ。

「わあっ!?」

首元に冷たい感触があった。振り返るといつのまにか肩にリスみたいな生き物が乗っていた。小さい舌で頬を舐める。

「あはは、くすぐったいのだ。」

撫でようとすると今度は腕に別の魔物が乗っかっていた。水色とピンクの模様が特徴的なウサギみたいなやつだ。不思議なことに全然重くない。そいつもまた頬を舐めるからこそばゆくてたまらない。でも悪い気はしなかった。

「こら、あまり舐めるなよ。汚れ具合によったら帰って怪しまれるんだぞ。」

パルフェのそばには大きな狼。さすがにあれが近寄られたらビビるのだ・・・。

「何で突然余を呼んだのだ?」

二人並んで泉のそばの大きな岩に腰をかけた。

「人は体裁・・・いろんなことを気にします。動物、魔物は違う。身分とか、そんなものじゃなくてその人自身を見てどんな人かを決める。」

そう言う目の前の彼女・・・彼はあの時見せたような優しい笑顔。動物は本能でいろいろ決める生き物なのだ。

「リナ様は動物も好きでしたよね?ここなら心置きなくはしゃげるんじゃいかな、と思いまして。」

「・・・。」

大きな狼が足に顎を乗せてくる。撫でてやると目を閉じる。手に暖かさが伝わる。これもいつぶりだろう、懐かしいのだ。今、こいつは私に気を許してくれている。こういうのも久しぶりなのだ。

「あ・・・秘密ですよ?ボクとリナ様だけの秘密です。」

秘密・・・。ここは私のために教えてくれた、そして私にとっても特別な場所の一つ。大切にしたい、だから秘密にするし、ここも守るためにも私は頑張るし頑張れる。そのための女王様なのだ。


「うん!ありがとうなのだ!大好きなのだ!」

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