追憶道中紀


迷路を無事に抜けた三人はひたすら続く道を歩いた。いつの間にか横一列に並んで歩いている。ほぼバラバラの三人は共通の話題など思い浮かぶわけもなく、何を話していいかもさっぱりわからなかった。アリスは一人でもうるさいのに、この沈黙が耐えるに耐えられなかった。

「しりとりでもする?」

アリスが提案した。

「しりとりってなんだ?尻を取るのか?やだよ。」

シュトーレンは変に受け取ってしかも断る。

「僕苦手なんです・・・。」

エヴェリンは普通に断り、会話が終了した。

「はぁ・・・。」

思わず小さくため息が出た。せめてみんなが話せる話題でもあれば、と考える。

「あーそうそう、忘れてた。お前らに聞きたいことあったんだった。」

急にシュトーレンが会話を切り出す。「いつも聞いてるわよね・・・。」とアリスの呟きは右から左へスルーされた。

「お茶会にいたあいつらは今どうしてる?」

それにはエヴェリンもすぐに返した。

「元気にしてますよ。フランネルさんは今の時季冬眠に入っておられるのでマーシュさんの家に預けられております。」

「あら。」

アリスが反応する。

「なんでわざわざ?レイチェルさんの家じゃなくて?」

シュトーレンが首を傾げる。エヴェリンは苦笑した。

「はは・・・いやあ、あの人達も自由の身になったようなもんですから、シフォンさんはレイチェルさん連れてどっか行きました。といっても旅行という体なのでまた戻ってくるでしょう。」

女王討伐をした方としては多少心に刺さるも、同時になにかしらに縛られていた者が解放されたことは素直に嬉しかった。

「レイチェルって、誰だ?あいつの、知り合いか?」

アリスは微笑みながら返す。

「三月兎よ。・・・はっ、レンさん貴方も確か三月兎って仰ってたわね。」

これも癖なのか、口を手で覆い真面目な顔になる。お互いわからずじまいでまたもやエヴェリンの出番がやってきた。

「はい。シュトーレンさんも三月兎です。いつの間にかレイチェルさんという別の方があそこにいましたが、そのあと全く君を見かけませんでしたね。シフォンさんも適当にはぐらかすばかりで気になってはいましたが・・・。」

シュトーレンも真剣な顔で記憶を手繰る。

「そうなんだよ。俺もなにがなんだかさっぱりなんだ。俺はあいつの部屋に用があったから入ったんだ。」

アリスが相槌を打つ。まだ続けた。

「そこから記憶が全然無いンだよ!あのでっかい家にあいつといた時までの記憶が途切れたみたいに・・・。」

他の二人はどう返してあげることも出来なかった。だが当の本人は何故か微笑した。

「でも、いいんだ、別に。あいつが元気にやってんならそれでいいよ。」

「・・・。」

アリスはそんな嬉しそうな彼をみてほっとしただろう。エヴェリンは一人、浮かない顔をしていたが。

「でもどうせなら会ってみてーよな。そのレイチェルつー奴。」

「きっと貴方とならすぐに仲良くなれるわ。」

長所の面では二人とも似通っている部分がある。世間知らずな所だって受け入れてくれるだろう。彼をそこまで知らないが、なんとなくそんな気がしたアリスは誇らしげだった。

「お?」

シュトーレンが突然足を止めた。

「どうしたの?レンさん。」

「ポケットから落ちたぞ。」

拾い上げたのは例の鍵だ。

「わああ僕としたことがなんてことを・・・!」

「首から提げたほうがいいんじゃないの?」

慌てて取りに戻るエヴェリンの背中に言葉を投げた。

「それじゃあ見えちゃいま・・・すっ?」

鍵を受け取ろうとした右手が空を切る。

「あ、あれ?」

そりゃあそうだ。落ちたものはすんなり返してくれると思っていたのだから。

「高く売れそうだな。にんじん百個分ぐらいだろうな!」

くるりと背を向けて手のひらに乗せた物を好奇の目で眺める。豚に真珠かと思えば案外そうでもないみたいで。とはいえ比較する基準は自分の好物なわけで。

「やめてよレンさん!にんじんはやめて!」

「じゃあピーマン70個分だな。」

物の価値がわかっているのかいないのか疑わしい発言だ。

「ものすごく・・・微妙だわ!」

「返して下さ~~い~~!!!」

奪い返そうとする度に軽々と身を翻す。これは運動神経と背負ってるリュックの重さが仇となっているのは見ても承知。

「って、早く返しなさい!その鍵はとっても危ないらしいのよ!」

「らしいんじゃなくて危ないんです!」

むきになったエヴェリンは八つ当たりのように彼女に言う。

「あはは、おもしれー!」

一方のシュトーレンは必死に自分の手の中にある物を奪おうとしている彼を翻弄するのが楽しくて楽しくて仕方なかった。

「まあ・・・こんな何もないところじゃあ大丈夫だと思うけど。」

アリス達がいる所はただの道。周りには毎度恒例、高い針葉樹が並んでいるが見通しはかなり良い。少し先に曲がり角があり、もっと遠くにはそこそこ大きな街だって見える。

「でもこのままじゃ埒があかないわ。」

彼は遊び足りないが見ている方は飽き飽きだ。弄ばれてる方もたまったものではない。

「言葉で止めるしかないわね。早くしまわないと後ろの木が化け物になって襲っちゃうわよ!!」

ダメもとでアリスが切羽詰まった様子で叫ぶ。一瞬、シュトーレンの動きが鈍くなり真顔になる。

「え?ほんとに?」

「ひええええ!!?」

今のうちがチャンス・・・と思いきやなんとエヴェリンが注意喚起に過敏になり悲鳴を上げて後退りをした。

「そんな狙ったように来るわけねーだろ。」


「・・・・・・。」

アリスの顔から段々と血の気が引いていく。何かに怯え戦慄いているような、内股で体を強張らせ震えていた。

「あ・・・あ、う、うし、ろ・・・。」

彼女はゆっくりと真っ直ぐ指で差す。この流れで突然怯えるのはおかしい。

「あ?なになに?うし?牛でもいるのか?」

シュトーレンは迷わず、差された方、後ろを振り返った。

「え?木じゃねエよなコレは。」

シュトーレンが見上げた先。木が化け物になったものではい。正確に、見たままで言えば花が化け物になったものである。いや、化け物になったのか元からそのようの姿なのかわからない。少なくともアリス達がここに到達したときには花すらも見当たらなかった。「それ」はだるまが起き上がる時のように地面からぐんと姿を現した。例えるならば、長い茎と葉の付け根から太い枝が伸びた巨大なラフレシアといったところだ。時折根本から蠢いている。

「「出たあああああああぁ!!!!」」

アリスとエヴェリンは手を取り合って力なく座り込む。恐怖、そして神に祈る我等の無事。「シュコー・・・」という息遣いが聞こえてくる。伸びた枝は形態的にもはや触手だ。まるで意思を持ってるみたいに動いている。

「や・・・や・・・何あれエリンさん・・・。」

声まで震えてしまう。

「わ・・・わ、わかりません。はうっ!もしかしたらアリス!」

エヴェリンはもう泣き出しそうだ。

「あのお花達が言ってたやつではないでしょうか・・・!」

化け物が獣のような唸りを上げる。

「レンさんこっち!逃げましょう!!」

「どどどど何処へ逃げろと言うのですか!?」

名前を呼んでも背中を向けて立ったまま微動だにしない。何処へ逃げろなど聞かれても、そんなのあてがあるわけないだろうに。

「し、知らないわよ!じゃあ他にどうしろっていうの!?」

「わからないですぅぅぅ!!!」

酷い剣幕で迫るアリスにエヴェリンの精神は限界を突破しそうだった。にしても一向に引こうともしない。もしかしてあまりの恐怖に体が動いてくれないのか、二人はそう思った。

「すげぇ・・・。」

何か呟く。よく聞こえなかった。

「レンさん・・・?」

アリスがそっと訊ねる。

「すげぇな!かっこいい!超イカしてる!!」

振り向いたその表情はとても、輝いていた。

「何言ってるの!?戻ってきて!!」

アリスの必死な叫びも無視してシュトーレンが化け物の方へ近づいていく。

「見ろよこのデカさ!花が動いてるぞ!」

己から自殺行為に向かおうとしているのをなんとしてでも呼び戻そうと必死なアリス。エヴェリンは口を開いたまま硬直している。

「襲われたらどうするの!!?」

「なんでこいつが襲うって決めつけンだよ。なあ?なんて名前だ?」

あろうことか意思の疎通を試みた。言われてみれば・・・という気にはとてもなれない。今はそんな肝の据わったところを見せてほしくなかった。

「なあおい、動くなら話せるだろ?あ、そっか・・・耳も口もねーな。それが手か?」

やけに親しみを込めて話しかけいたその時だった。枝でもある太く長い蔓のような触手をすばやく彼の体に巻き付けた。腰から腹にかけてを軸に二重にがっしりとそれはまとわりつく。

「ぎゃあああああああ!!!」

「しまぁぁぁぁあぁあ!!?」

二人は絶望の叫びを上げる。お互い思ってることは一緒、「言わんこっちゃない」。

「うわっ、わっ!なにこれ、俺掴まれたの?」

「掴まれた?捕まったのよ!」

確実に獲物と化したシュトーレンはやっと自分のおかれた状況が危機的なものだと理解したが、危機感が足りない。

「ほんとか!とりあえず抜けないと・・・。」

アリスの言葉を耳にしても特に慌てることない。 胸部にあたる所に巻き付いている触手からもそもそと力ずくで抜けようとする。が、びくともしない。

「ん~、ぬ、抜けないぃ・・・俺こいつに好かれたのか?」

「バカおっしゃい!エリンさん、刃物みたいなものないの!?」

思わず言葉遣いもおかしくなる。急かされたエヴェリンはリュックを開けてひたすら中身を一心不乱に取り出す。しかし、太刀打ちできるようなものが中々出てこない。

「離してくれたら俺も好きになってやるぞ!」

一方であっちはあっちでなにやらわけのわからないことを言っていた。

「ナイフ・・・ああ、そんなもの見つかった所でぼ、僕には!」

「弱虫!男の子なのに情けないわね!」

だが半混乱に陥っていた彼は周りの声も音も聞こえていなかった。生活用品が散乱している。

「どわああああああぁ!!?」

半ば放置しかけていたシュトーレンが絶叫を上げたものだからアリス達は顔をあげて見たものは、触手に巻き付かれたまま遥か地面から離れた大きな葉の上にぽつんと立たされた彼の姿だった。

「あぁ・・・く、食われる・・・この世は・・・弱肉強食・・・。」

手にビニール袋を握ったままおっかないことを呟くエヴェリンはもう諦めていた。アリスも足が竦んで動かない。

「なあ、そろそろ離してくれよ。俺こんな高いとこから降りれないぞ!」

いつになれば彼に危機感は芽生えてくれるのだろう。

「レンさん!!」

「あ!おーいアリス!ちっさくなったな!」

振り向いて大きく手を振った。シュトーレンは全く気付かない。ちょっと目をはなした隙に彼は捕食されかけていることを。化け物は巨大な「口」を開く。

「――・・・ツワ・・・器―・・・ダチ・・・―・・・?」

「なんて?うわっ!」

開いた口から強い風が吹く。形を成さない物音は途切れ途切れに耳に入る。面と向き直った。深い闇に包まれた空洞に今にも呑み込まれそうだ。

「いや・・・。」

瞳孔がぐっと小さく声も消え入りそうなほど弱々しいもので、もう望みはなく絶えてしまったという落胆の気持ちがアリスの体を動かす気力を奪い尽くす。例え今立ち上がったとして、非力な腕で何ができようか。


アリスは強く瞳を閉じた。

「・・・。」

しんと静まりかえり、空気が穏やかになる。

「・・・。」

もしかしたらあの大きな穴に蛇の如く丸呑みされ、きっと今頃は・・・と考えると二度と目を開けたくない。しかし、この静寂は変だ。

「レンさん?」

目を手で覆いながら指と指の間からそっとアリスは様子を伺った。目の当たりにした物は、そのまま定位置で立っているシュトーレンの背中と花弁が後ろに反り全体的に色が落ちていきながらどんどん腐っていく化け物の姿だった。

「えっ?どうして?枯れて、いる?」

耳を塞いで踞っていたエヴェリンが体を起こし振り向く。

「ななな、何が起こってるんです!?」

それを聞かれてもアリスはおろか説明できる者はこの中にはいない。

「おい、なんだなんだ勝手に枯れたぞ?あっ!取れた!」

間近で見ていたシュトーレンは尚更驚いたに違いない。だが、ずっと巻き付いていた邪魔な触手が取れてすっきりした気分になった。だが同時に人を独りぼっち支える力も失った化け物は右へ左へ傾く。

「うおっと、危ねっ!よいしょ!」

近くの木の枝へ傾いたのを狙い軽々と飛び移りなんとか落下だけは避けた。麓からメキメキと音と共にヒビの入ったとこから折れていき、萎れきった化け物はゆっくりと倒れ地響きが周囲の木々を震えさせた。

「うわあぁ。」

シュトーレンも絶句した。今登っている高さよりもでかい化け物は、変わり果てた姿でこちらを向いて倒れているのだから。

「ん?あれはなんだ?」

目を凝らして見てみると、化け物の後ろに誰かいた。屍を踏んづけ、道の方へ向かっていく。

「助かったのよね?」

アリスは目を瞬きさせる。

「そ、そうみたいです・・・ね。」

エヴェリンは頷く。二人ともまだ信じられず謎のままだった。

「助かったって、私達はともかくレンさんよ!さっきどっかに飛んでったのを見たわ。」

残念ながら葉に隠れてしまい何処に移ったのかわからない。

「レーンさーん!!」

「どど、どこですかー!?」

二人は声を大にして彼を呼んだ。すると早くも奥から足音がこっちに向かってくるのが聞こえる。

「降りるの早ッ!」

エヴェリンが癖でツッコミを入れるそばでアリスが立ち上がりこっちこっちと手を振った。

「レンさ・・‥.あ、あれ?」

突然ぴたりと手を止めた。エヴェリンはせっせとリュックに中身を入れ始める。

「レンさんじゃない?」

アリスの呟きに作業を休んで奥の方へと目を凝らす。

「どういうことで・・・えぇ!?」

「まあ、おかしなこと!」

二人が驚いたのも当然のこと。そこにいたのはもう一人の三月兎だった。

「レンさんがレイチェルさんになっちゃった!」

「そんなわけないでしょう!ひ、ひえええぇ!!」

人を幽霊でも視たかのようにリュックを置き去りに後ろの木陰に隠れた。一方、アリスはまだ驚きを隠せないでいるが久々の再会に歓喜せずにはいられなかった。駆け寄ってみる。俯き気味で表情はわからない。ただし服装と以前は毛先につれ黒く色が落ちていたが今度は白くなっている橙色の無造作な髪、そこから伸びる獣の耳ですぐに彼だとわかった。あとは尻尾がちゃんとついてるかが問題だ、個人的に。

「レイチェルさん!久しぶりね。元気にしてた?」

と笑顔で話しかけても反応はない。アリスの一歩前で立ち止まり顔を上げ、真っ赤な双眸はアリスを見据える。顔が記憶と一致する。あとは尻尾だけだ。

「もしかして私のこと、忘れちゃったのかしら?・・・!!」

そんなこととか考えていた矢先だった。アリスの手首を掴んできたと思いきや地面に押し倒した。背中にまたも鈍い痛みが走り、衝撃に閉じた瞼をゆっくり開けば、虚ろげな目がまるで自分を通り越してもっと遠い所を見ているようだった。

「・・・な、なに・・・え?」

逆光が邪魔をする。薄暗く見えるのは確かに「見覚えのある顔」だった。でもそれは同時に嫌な記憶と結び付いて恐怖心を目覚めさせ、逃走本能が脳内を支配しようとしている最中レイチェルの右手はアリスの首もとに触れる。そしてその手は襟元を力任せに引っ張った。先ほどもまさに三月兎に似たような事をされたが、比べ物にならないぐらい怖い。

「怖いですぅ。僕にはとうていあのような方のお相手は・・・しかし、アリスが・・・。」

エヴェリンは木陰から情けない顔を覗かせる。そこで信じられない光景を目の当たりにした。なんとレイチェルが出会い頭にアリスを襲っていたのだ。

「え?え!?なな、なんっ、何がどうなってるんですか!?」

吐息の混じった小声で呟く。

「どうしようどうしよう!ああ、怖い!僕なんかがしゃしゃり出た所で一体何が・・・!」

根っからの弱腰な性格が中々彼を動かしてくれない。エヴェリンは抜き足差し足忍足、なおかつ早足で飛び出し、リュックの中身をまた取り出した。

「何か・・・何かこう、使えそうなもの・・・倒せそうなもの・・・!!」

彫刻刀が出てきたがおもわず投げ捨ててしまった。臆病な自分には刃で人を傷つけるのは無理だと。周りはやはり使えそうにない日用品が散乱している。もはや終わりかと思われた。

「ビニール袋とか・・・ん?」

手に握ってるのはビニール袋、足元にある黒いポリ袋と紐。ゴミを持ち帰るのに用意したものだ。一番役に立たないだろう。

「・・・。」

エヴェリンは何を思ったか、砂利を手にいっぱい掴んではビニールに入れた。ひたすらそれをビニールいっぱいになるまで繰り返した。

「だ、ダメもとでも行かないと・・・。」

丸くなったビニールをポリ袋に入れて、紐を幾重にも巻いて持ち手の部分を作った。エヴェリンは両手でしっかりと固い持ち手を握る。石も入っている砂利は想像以上に重い。物理的な重さだけではない重さを感じた。それでも行かなくては。

「僕、喧嘩なんかしたことないのに!もしあたりどころ悪くてし、し、死んだりしたらどうしよう!」

相手の心配までする始末だ。でも、弱い自分が頼れるのはこの武器しかないのだ。

「・・・でも・・・僕・・・。」

なにもしないままでも時間は過ぎる。あとほんのひとかけらの勇気が足りない。背中を押してほしい気分だった。

「痛いってば!いや、誰か・・・。」

誰か?他に誰がいるだろうか。

背中を押されるより、引き寄せられるようにエヴェリンは出来るだけ気配を消しながらそっとレイチェルの後ろへと歩み寄る。速い鼓動と深い呼吸でさえ、長い耳はすぐに捉えそうだが今はそれどころではないみたいだ。

「うぅ・・・神様・・・。」

両手にぐっと力を込める。まだ気付かない。

「レンさん、助け・・・っ。」

そのレンさんはどこにいるのやら。自分は便りにされてないのは承知。そんなことよりエヴェリンの頭はもういっぱいいっぱいだった。ゆっくり足を開き、両手を挙げる。


「ごめんなさああああああぁぁぁ!!!」

そして目を閉じ掛け声と共に勢いよく鈍器をレイチェルの後頭部目掛けて降り下ろした!全身に響きそうなほどの衝撃に確かな手応えは感じる。レイチェルの動きが止まった。

「・・・えっ?」

何が起きたか理解できないアリスは茫然としているさなかで彼はぐらりと横に傾き力無く倒れた。

「・・・はぁ・・・はぁ・・・。」

息を切らし半ば疲れきった状態で様子を見守る。打ち所がちょうどだったのか、見事に気を失っていた。

「し、死んだー!!!!」

エヴェリンは鈍器を落とし、頭を抱えて膝から自分も崩れ落ちた。

「ごめんなさいごめんなさい!そんなつもりじゃなかったんです!ああ、僕も死んだ!社会的に死んだらもう肉体的にも死ぬしかない!死にます!!」

鈍器に巻いていた紐をほどき始める。まさか本気ではなかろうがエヴェリンはその紐で自らを少なくとも傷付けるつもりだ。

「待って!!」

アリスは慌てて起き上がる。とても自分の無事を確かめてる場合ではない。

「アリス、僕は貴方の友の命を奪いました、自らの命をもって罪を償います!罰は地獄で受けてきます!いやあああ!」

「だから待ってって言ってるでしょ!」

涙を流しながら気が狂ったように紐をほどくエヴェリンをなんとか止めた。

「死んではないわ!気を失ってるだけよ。」

その言葉にエヴェリンが脱力した。安心したのか、それでも他人に暴力を加えることに慣れてない彼にとってそれだけでも大打撃なのだ。

「は、はあ・・・そうですか・・・あはは・・・。」

吹っ切れて笑いが込み上げるほど限界だった。アリスもヘトヘト。そっとしておこう。

奥の方から足音が聞こえる。二人は警戒したが、仲間が戻ってきたようだ。

「何があったんだ?」

葉っぱにまみれたシュトーレンと、後ろにもう一人誰かいるように思える。

「レンさんこそ・・・だ、大丈夫だったの?」

下敷きになったままのアリスが聞いた。

「降りるのに時間かかってたンだよ。飛び降りれる高さじゃねーからな。んだよ、コイツ。」

シュトーレンが不機嫌そうに眉尻を上げ気絶しているレイチェルの脇腹を蹴った。開いた服を右手で寄せて隠しながら起き上がる。

「あ、その人が、あの、レイチェルさんで・・・。」

エヴェリンが呟くとたいそうシュトーレンは驚いた。

「マジかよ!!おい、起きろよ!俺だぞ!!」

俺だぞ、と言われても。体を激しく揺さぶるからエヴェリンは気が気でならなかった。

「なになに?何があったっていうのさ。」

シュトーレンの後ろに並んでやってきた人物が前に出てレイチェルの耳を剣の鞘でつつく。赤いワンピースの上に鎧を着た細身の女の子で、鮮やかな紺色の長い髪をよくわからないくくりかたをしていた。頭部からは黒い猫の耳が生えている。蒼い瞳に可愛らしい顔つきだがどこか奇抜な印象だ。

「あなたは?」

「降りたら遭遇したぞ。」

シュトーレンの答えはいまひとつ正確さに欠ける。女の子は笑顔で答えた。

「僕はパルフェ。通りすがりの美少女。まーあんま君達と会うことなんかないから名前は聞かないけど、ここで何があったのかな?」

背中を曲げて首を傾げる仕草がまたわざとらしい。

「いきなり襲いかかって・・・その・・・エヴェリンさんにた、助けてもらって・・・えっと。」

「はいはいおっけ~。」

聞いたはずのパルフェが手を叩き話を終わらせる。

「こいつは確か、聞いたことある。三月兎だね。暖かい気候に勝手に三月って体が勘違いしたんじゃない?ご苦労様でした。あっ!ねえ、君達はこれからどこへいくんだい?」

アリスが真っ直ぐ指を差す。

「街があるみたいだから、ひとまずそちらに向かおうと思います。」

「あーそう!こいつ君達の連れ?」

シュトーレンが迷わず首を横に振った。パルフェがレイチェルの体をひょいと担いだ。

「あの道曲がったら宿屋があるんだ。連れならほっとくけど、そうじゃないなら邪魔なだけなんだよね。気ぃ失ってるし、優しい僕が宿屋へ捨てておくよ!」

「任せていいのかしら・・・?」

不安げにアリスが訊ねる。

「大丈夫だろ!」

対し、シュトーレンは清々しそうに返す。

「僕も・・・大丈夫だと思います。任せるべきです、僕らの手に負えません是非そうするべきです。それに、また同じようなことがあったら・・・。」

エヴェリンは放置したリュックを背負っておずおずと言う。だいぶトラウマなのか、人任せにして欲しいのが丸わかり。

「目が覚めたら大体のことは説明しとくね〜。途中で目が覚めたら面倒だから、さっさと連れて行っちゃおう。可愛い僕だから絶対襲われちゃう!」

皆、ノーコメントだった。

「にゃはは、気にしないで・・・事実だから!じゃあねー!」

身丈の差の問題か、レイチェルの足が地面を引きずる。パルフェは呑気に鼻唄を歌って曲がり角へと消えた。


「・・・・・・。」

まるで嵐が過ぎ去ったあとのような静けさが今度はやってきた。生温い風が三人を慰めるが如く優しく吹き抜ける。

「・・・冗談だから!て、言うと思ったわ。」

「はぁ、足に力が入りません。」

アリスもエヴェリンもすっかり疲労困憊した様子だ。一方シュトーレンはぴんぴんしていた。

「可愛い僕だからってことはアリスも可愛いってことになるのか?」

「えっ!?き、聞くかしらそういうこと!嬉しくもないし!」

彼の言う可愛いから襲われる方程式はちっとも嬉しい答えなど出ない。耳をしょんぼりと下げられても困る。

「あっ!尻尾!!」

「あっ!鍵は!?」

エヴェリンの声にアリスの声は掻き消された。シュトーレンはポケットの中を手探りするだけで手のひらには何も握られてなかった。一同が不安になるが・・・。

「あるよ、ちゃんと。」

「なら・・・!」

早速届け主が手を差し出すが渡そうとしない。

「お前また落としそーじゃん。俺が持っとく。」

事の発端はエヴェリンが鍵を落とした所から始まったのだ。でもいまいちこっちも信用ならない。

「なんだよ!その疑いのまなざし!俺が大丈夫だぞ!」

きっと「俺は大丈夫」と言いたかったのだろう。アリスは誰のおかげで助かったのかわからなくなってきた。

「また落としても困るわね。エリンさん。彼に任せましょう。」

「はい・・・。」

誇らしげな笑顔で胸を張るシュトーレンにすかさず注意を促す。

「いいこと?必要な時以外、絶対にそれを出したらダメよ!」

そんな時など多分無いだろう。シュトーレンはうんうんと頷いた。

「こんなところで、いつまでも時間を潰すわけにはいかないわ・・・?」

アリスの視界が一瞬真っ黒になる。首回りには布のようなものが巻かれた。

「・・・あげます。」

白い手編みのマフラーだった。かなり丁寧に細かく編んである。三月だと思われるほど暖かいのに何故だろう。首にまいてみると理由が分かった気がした。破れた襟元と痕のついた首が見事に隠れたのだ。

「あのー、エヴェリンさん。」

「はい!?」

エヴェリンがやたら過剰に反応した。自分の中で話は終わってたようだ。

「さっきはあんなこと言ってごめんなさい・・・弱虫だなんて。」

俯いてるせいか声が届きにくい。

「はあ、お気になさらず・・・アリス!さっき僕の名前・・・。」

と言ったものの、アリスの耳には届くことはなかった。彼女はシュトーレンの背中を追って走る。

「ま、待ってください!」

喜ぶ間も無く、慌てて二人を追いかけた。



アリス御一行はなんだかんだでまた別の話題に花を咲かせていると。

「ごめんあそばせ!!」

「待っていました!!」

道を挟んで女の声が聞こえた。皆は足を止める。

「今度はなにかしら?」

溜め息混じりにアリスがぼやく。シュトーレンが謎を解いた時の探偵のようなはっとした顔でアリスの方を見る。

「女二人に俺とこいつで男二人・・・もしかしてこれ、ナンパじゃないのか!?」

「ごめんなさい。それはないわ。」

「無知な割にそういうことは知ってるんですね。」

アリスには白い目で、エヴェリンには引かれて即答された。そして声の主が木陰からゆっくり姿を現した。

「お初にお目にかかります。私はルージュという者ですわ。」

スカートの両端を摘まんでお辞儀をするのは淘汰の国の終わりで会った主のメイドの一人。

「ああ、私はノアール。二人でどっかの主のメイドをやっている。」

もう一人のメイドは職業柄にとらわれずサバサバした印象を与える。

「私達に何の用?」

その質問にルージュとノアールは表情を無に、右手を高らかに挙げた。それが合図かのように、突如謎の破裂音と共に真っ白な煙が濛々と舞い上がった。

「ひゃ・・・っ!」

アリスとエヴェリンは両腕で目を庇い、シュトーレンは耳を下に引っ張った。こだまもやがて消えると皆はそれぞれの防御を止め、そっと目と耳を開く。煙はそよ風に流され向こう側の景色が鮮明になる。道の両脇にはすまし顔のメイドが二人。

「いきなり何すンだよ!びっくりするじゃねーか!!」

いきり立つのは兎一匹。だが彼も煙が消えた先にあるものを目の当たりにすると途端にうるさい口は開いたまま動かなくなる。

「なによあれ・・・。」

皆が皆、息を呑んだ。言うならば、人が十数人手を取り輪を作ってやっと届くぐらいの幅と隣の針葉樹に負けないぐらい高い巨木が道いっぱいに立っていた。とにかくその木は異様。深い緑の葉が傘みたいに広がっていて影がこちらまで届く。木には沢山の時計がくっついていて、真っ赤な丸い木の実が所々にぶら下がっているがよく見たらかすかに光っていた。

「不思議!光るリンゴだなんて!」

と、言いたかったが、できなかった。アリスが「なにあれ」と言ったのは木があまりにも不思議だから、だけではなくて。

「まあ!シフォンさんじゃない!!」

中枢部分には、幾重にも蔓や茨が集中的に絡まっている。その中には、体を十字に木に縛り付けられているかなり見慣れた人物の姿があったのだ。まさかのまさか。アリスのいう通り。以前訪れた淘汰の国ではいろいろお世話になった帽子屋のシフォンではないか。見たところ、彼もまた気を失っているようだが。シュトーレンはアリスたちが今まで見たことのないぐらいに驚いた顔をしている。心中は察しかねない。

「一体、どういうことなの?」

ルージュが答えた。

「シフォン様ったら主が大事になさっている神器に触れてしまったのですわ。」

棒読みだ。続いてノアールが答えた。

「さすがの主もお怒りになって、罰を食らったんだ。今のこいつは時を止められてる。死んだも同然だ。」

三人の表情が凍りついた。確かに、シフォンの表情といえば安らかに眠っているみたいな・・・。

「死んではいません。この呪いを解いたら彼は止められた寸前の状態で生き返りますわ。個人的には、このままにしてどこかへ飾りた・・・失礼。」

顔を伏せ咳払いをしてまたルージュは続けた。またもや棒読み。

「でもそろそろこりてるだろうし、あなたたちに呪いを解いて欲しいのですわー。」

彼女の話の中でアリスは見つけた矛盾を突いた。

「・・・なんでお仕置きしといて私たちに解いてもらおうとするの?」

「そうですよ。言い方は失礼ですが、これはあなた方の問題なのではないですか?」

珍しくエヴェリンも前に出る。その問いにはルージュもノアールも困り気味に顔を横に振る。

「それはお答えすることができませんわ。」

「ご主人様は何考えてるかさっぱりわからないからねえ。」

「おい、なんでもいいから早くこいつをどうにかする方法を教えろ!」

納得できないことばかりのシュトーレンがアリスとエヴェリンを押し退けて足を踏み出す。いてもたってもいられない様子で気のせいか焦りさえも感じる。

「お仲間のために熱くなる殿方・・・素敵ですわ♪」

ルージュが指を鳴らすとシュトーレンの足元に煙と軽い破裂音と共に現れたのは金に輝くひとつのナイフだった。

「この木の呪いを解くのに必要なものですわ。」

ナイフをまじまじと見ながら聞く。

「こいつであの絡まってるのを切るのか?」

「まさか!この沢山の時計の中にあいつを封印してる術がかけられているブツがあるのさ。それをそのナイフでぶっ壊すんだよ。チャンスは一度きりだ。」

ノアールは嘲笑気味にそう告げた。

「そ、そんなの無茶にもほどがあります!」

「そうよ!そんなのわかるわけないじゃない!」

エヴェリンとアリスが訴える。

「お前達にわからないものを、私達がわかるはずないだろ。」

とノアールが言う。

「貴方達ならわかるものと、私達も信じておりますわ。」

とルージュが言う。

「そんな・・・。」

アリスが酷く落胆する。ヒントもない。手がかりもない。左右するのは運のみの難易度は最高値のゲーム。

「迷わずひとつに決めたなら、投げても必ず届きますわ。」

とは言うものの、ひとつに決めなくてはいけないのだ。この沢山の、各々が違う時刻を指している時計からたったひとつ。チャンスも一度だけ。なんということだろうか、ヒントが「貴方達ならわかる」。それだけだなんて。わかるはずがない!

「俺、わかるかも。」

真顔でナイフをくるくると器用に回すシュトーレンに若干余裕が見えた。何歩か前へ進み、木から少し離れた所でぴたりと止まる。

「嘘でしょ?レンさん、もっと慎重になって!」

後ろから呼び止める声、聞こえてはいた。聞かなかった。メイド二人は黙って見守る。

「俺達だからこそわかるンだろ?なら余裕だぜ、こんなもん。」

まだアリスとエヴェリンは何か言いたげだった。果たして彼の自信はどこから出てくるのか。根拠は一体どこにあるのか。

「みっけた!」

彼の目がとらえたのは、シフォンの足元の古びた時計。針は六時ちょうどを差していた。

「早くしないと、時計が動いてしまいますわよ。」

いつまでも迷ってはいられないみたいで、実質シュトーレンに迷いなどはなかった。右の肩と足を後ろに引いて静かに構える。アリスも、エヴェリンも彼にすがる思いで手を合わせるなどして祈った。

「レンさん・・・!」

「それっ!!」

神経を一気に集中させ、力一杯投げたナイフは真っ直ぐ軌道に乗り、狙い通りの的めがけて勢いよく突き刺さった。気の抜けないシュトーレンはナイフの刺さった先を睨む。ガラスが大破し、粉々になった欠片が辺りに散った。中まで貫通しているので二度と針が動くことはないだろう。

「せ・・・正解だよ・・・な?」

シュトーレンは時計の方を凝視していた。その時だ。時計はおろか、巨木そのものが赤い閃光に包まれ一瞬にして姿を消した。

「わっ!?」

反射的に後ろへ仰け反る。すこし上げた視界に映ったのは何もない道のど真ん中に俯せで倒れているシフォンだった。

「シフォンさん!!」

二人の後に続き慌てて駆け寄る。アリスが体を上に向けてやると、意識を取り戻したのかゆっくりと瞼を開ける。一同が皆安堵の表情を浮かべた。

「・・・こ、こは・・・?」

仰視したらそこには主に瓜二つの顔が微笑んでいる。

「お前・・・いくら見た目が瓜二つとはいえ・・・許さんぞ・・・。」

れっきとした女性であるアリスは胸元に置かれた彼の手を優しく包み込む。

「私ほアリスよ。お久しぶりね。」

アリスがそう言った瞬間、シフォンは跳ね上がるように体を起こした。手を無理矢理にほどく。かなり動揺している。

「な・・・ッ、何故だ!?なんでアリス・・・君が「また」此処に・・・?いや、これは夢なんだ、ははは・・・。」

目を覚ましたや壊れた笑みで譫言を言い始めた。よほど疲れてるみたいだ。

「アリス。これは夢だ、だから痛くも痒くもない。だから頼む。僕をぶってくれ。」

ふざけてはなく至ってシフォンは本気だ。だが、さすがのアリスもドン引きというもの。

「早く!夢だと信じさせてくれ!」

「怖い!落ち着いて!」

困惑したアリスはふと他の二人に救いの眼差しを向けた。エヴェリンは頑なに拒否をする。一方シュトーレンは無言で彼の頬に平手打ちをかました。悲鳴を上げる余裕もない。

「・・・。」

声が震える。肩も震える。夢ではなく現だという真実が心にも痛い。

「痛いだろう!?ほら見ろ!これが夢だって信じていたかったのに!!」

理不尽な怒りを後ろで攻撃を喰らわせた人物にぶつけた。

「・・・・・・。」

きょとんとしているシュトーレンがそこにいた。その時のシフォンといったら同じようにきょとんとした顔で現実を直視する。恐る恐る彼の体へと手を伸ばした。幻だと信じたいがためだ。

「ん・・・っ。」

触る場所はどこでも良かったのに、なぜか耳を触ってしまった。

「変な声出さないでくださいよ気持ち悪い・・・。」

エヴェリンは鳥肌のたった腕を摩った。

「僕の頭は聞きたいことだらけだ。何から聞けば言いのかわからないぐらい沢山ある。とりあえず君達は何故・・・ッ。」

話している途中シフォンは激しい目眩に襲われ、体が前へ傾く。アリスが咄嗟にシフォンの鳩尾に手を回して支えた。

「シフォンさん!疲れているのは確かだわ。それ以上動かないで。彼も宿屋に運びましょう。引き返すことにはなるけど、いいわよね?」

彼女の問いかけに二人は頷いた。シフォンは皆の心配をよそに鉛の如く重い足で時間かけて立ち上がる。

「前へ進むのなら邪魔はしたくない。宿屋なら把握している。」

足はちゃんと立っておらずちょっとでも押したら倒れてしまいそうだ。

「もしかしてお一人で行かれるつもりですか?」

エヴェリンの問いに小さく頷く。

「ああ。数分、鈍った足を動かさないとね。僕は大丈夫さ。」

「大丈夫なわけないじゃない。今にもそんな、倒れそうな足をして!」

必死に止めようとするアリスの頭を、傷の入った大きな手で撫で、どこかぎこちない笑みを繕う。

「歩いているうちに慣れるものだよ。何事も、そんなものだ。」

不自然な笑顔に込み上げるものがあったアリスは、背を向ける彼まで止めることは出来ず手をだらしなく下ろした。


「あ・・・えーっと、なあシフォン。」

別れを感じたシュトーレンが口を開くも言葉が浮かばなかった。

「僕も言いたいことなら山程あるが、それはまた会ったときでいい。今はそうだな。」

振り返ろうとする。でもやめた。

「皆、元気でなによりだ。それで少しだけ救われたよ。」

そうとだけ言い残し、覚束ない足取りでふらふらとアリス達が歩んできた道を辿るように去っていく。

「シフォンさん・・・。」

心配そうに背中を見届けるアリス。

「俺もだぞ!」

傍らで、再び仲間と出会えたことの嬉しさでいっぱいのシュトーレンは元気よく手を振った。

「・・・二人は、何者なのでしょうか。」

と、エヴェリンは一人誰にも聞こえぬよう小さな声で呟いた。


シフォンの背中が遥か彼方へ消えて行くまで見届けた後、三人は街についた。そこで相対の国を繋ぎ会わせる役目を持った場所である中央駅へと向かった。白の女王に会うための、行き当たりばったりの旅は続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る