第31話 優しい腕
「まあ、相変わらず愛想がないわね」
とみほ。
「あら、私はエイちゃん派よ。シャイだけど、命かけて好きな子を守る。かっこいい!」
とテツ。
「やだ、おまけにレシート入ったままよ」
パン屋のレシートのような紙を見つけてよく見ると、汚い文字で書かれたエイタのメッセージをみつけた。
「おめでとう。俺はいつでもお前の味方だ。」
「やっぱ、だめねえ。こういうときは、『愛してる!』とか思い切って書くもんよねえ。」
横から口を出したみほが、紙を取り上げようとすると、紙が破けてひらひら破けて風に舞った。よく見ると裏にも字がある。
「ルビ、お前が」
そのあとが破れて見えない。
「エイちゃんたら!」
いきなり外へ飛び出し走っていくルビ。
「どこに行くの。未だ、かたずけが残ってるのに」
とさゆり。
「いいから、いいから」
とみほとテツ。
櫻子がパンパンと手を打って大きな声で言った。
「さあ、みんなお楽しみの最中だけど、急いでちょうだい。このビルは立ち退かなきゃならないから、これから引越しよ!」
「ええ? 引越しってどこに?」
桜の花びらが舞い散る通りを過ぎてルビは森キャストに向かっていた。あいかわらず社長とパートのオバちゃんが仕事をしている。息せき切ってすっ飛んできたルビが尋ねた
「エイタは?」
「さっきガソリンスタンドのほうに行ったけど。土手あたりじゃない?」
それを聞いたルビは一目散に土手のほうに駆け出していく。
「やけに慌ててるけど、どうしたんだろうね?」
ルビと入れ違いにピンポンと来客を告げるインターホンがなる。
「気取ってインターホンなんか鳴らすのは、誰だろうね。」
ドアをあけると、鍔広の帽子にフリルのついたフェレッテイの水玉模様のワンピースを着て同色のパンプスを履き、ゴールドのネックレスをしたたゴージャスな櫻子先生、後ろにみほ、テツ、さゆりと下條が大荷物を抱えて立っている。
「こりゃまあ、いったいどうして」
「私たちオフィスがなくなっちゃったの。だから、一緒にここを使わせてください。」
「ええっ」
「家賃半分払うわよ!」
とテツ。
「キャストも全部お宅に出すしね。」
とさゆり。
「3時のおやつもついてるわよん」
と美穂。
驚いて声も無く立ちすくむおじちゃんとおばちゃん。
「こりゃ大変だ。こえだめに鶴だね」
「こえだめ、じゃなくて吹きだめだよ!」
とおばちゃん。みんな笑顔で顔を見合わせる。
仏壇の前に飛んで行ったおじちゃんが手を合わせた。
「かあちゃん、ありがとう!ありがとう!」
写真の中で、優しくエイタの母が微笑んでいた。
そのころ桜の土手のところでルビはエイタを探し回っていた。ふと気がつくと桜の花びらが舞い、肩や指先に降るように舞い落ちている。それは光を浴びてダイヤモンドのように輝いていた。
「エイター!」
大声で叫ぶルビ。
(どこに行っちゃったんだろう。こんな大事な時に)
不意にうしろからエイタがルビを抱きしめる。
「何だよ、そんなでかい声で」
「だって・・・、呼んでみたかったんだ大きな声で!」
「じゃあもう一回、呼んでくれ」
「バッカ」
「呼んでくれ。」
「エイタ・・・エイタ!」
ルビの瞳から、ぽろぽろ涙がこぼれた。
「おまえ、そんなカッコウじゃさむいだろ」
「ううん、大丈夫。」
「風邪ひくぞ!」
「ううん、あったかい。エイタの腕あったかいよ。」
ずっと探してた。
優しい手。あったかい手
桜の花びらが、はらはらと2人の周りを舞い落ちていった。
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