第29話 桜のコレクション
「これが最後の仕事だろうね」
「ルビちゃんには未だ言ってないんだろ」
「まださね。そんなこと言ったら気にしちゃうよ」
久しぶりに森キャストにルビの姿がある。ルビは櫻をモチーフにした作品のワックス原型を自分で作っている。和紙の風合いをしたワックスに桜の花びらが透かし模様に切り抜いてあるデザインだ。森のおじちゃんとパートの叔母ちゃんも手伝っている。
オフィスでは色石屋と交渉する櫻子の姿が。
「ムリですよ、いくらなんでも、その値段では・・」
首を振るインド人のバルマ。
ゴホゴホとせきをしていると、みほがジンジャーテイを入れて持ってくる。
「これって、風邪に効くでしょう?」
とみほ。
「みほちゃん、優しいですね。わかりました。じゃあ、もうその値段でいいです。」
「ふふ、みほのおかげだわね!」
「ア、下条先輩!」
おずおずと下條が、外から小さく手を振りながら、恥ずかしそうに入ってくる。
「事情徴収だけでとりあえず釈放された。手伝わせてくれないかな,なんか。」
「良かったわ、戻ってくれて。」
櫻子の目に涙が溢れそうだ。
「それじゃ、まずは石合わせをお願い!。」
営業のさゆりは個展の集客に大わらわだ。
「私たちも来ました!」
モデルの花房りえ、近藤美和も駆けつけた。
「今年のコレクションはノーギャラでいいですよ。!」
事情を察した二人が申し出てくれた。
「ただし打ち上げの飲み代のほうははよろしくお願いしますよ!」
蝋型を作りながら、ルビはエイタが来るのを待っていた。いつもなら、メロンパンの袋を持ったエイタが来るはずだ。しかしこのところ、姿を見ない。
「オジサン、えいちゃん、鈴鹿に行くって本当なの?」
「えっ。知ってたのかい?」
「町工場はいまどきは、やってけ無いからねえ。エイタも見入りのいい先を考えてくれてるみたいなんだ」
「おっちゃんも、奥さんと約束したこの工場を手放すのは辛いだろうけどねえ。」
おばちゃんが辛そうに話す。
「私もパートの仕事がなくなると困るんだけどねえ。でも一番辛いのはエイタだろうなあ。ルビちゃんとも会えなくなるし。」
「最近、来ないねえ」
「来るのが辛いんじゃないかなあ」
3月も終わりに近づきアリモトではペニンシュラホテルでの華麗な恒例のコレクションの準備が滞りなく進んでいる。豪華そのもののジュエリー。ファッションショーのフィッテイング。今年はアメリカから有名モデルを呼ぶことになっている。ヒロヤのライフテーマであるブラック&ゴールドのボリュームたっぷりのラインが出来上がりつつある。
一方チリエージャでは、みんなの力が終結したチリエージャ・・櫻のコレクションが出来上がった。温かみのあるコレクションのためにピンクゴールドを使い、ダイヤモンドも小粒だがピンクのものを使用。今までにない可愛いやわらかいできあがりにみんな満足した。
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