第27話 奇跡の石
ルビはお守りの水色の石の入った布袋をを握り締める。
「そうだ、このアクアマリン、少しはお金になるかも・・私のお守りだから」
宝石商のインド人、バルマはルーペでぐっと惹きつけられるように石を見ていた。
「何とかならない?少しでも高く買って欲しいの。私の父の形見なの。お願い!」
石を長い間ルーペで見た後バルマはルビの顔をまじまじと見つめていった。
「ルビちゃん、ワタシもこの世界長いネ。けどこんな良いパライバの原石、見たこと無いね」
「え?今なんて言いました?」
「この原石パライバね。1979年にブラジルで採れて2年間で地球上から全て採掘し尽した幻の宝石パライバ・・。いまなら、これ1カラットに付きイッポンで引き取るね。」
「イッポンて・・?」
「1000万ネ」
その後、森の社長に頼み込み、後払いでキャストを吹いてもらうことになった。
「うちもね、最近仕事がなくなったから、資金的に苦しいんだよ。お金が入ったら必ず、すぐ払ってね」
「あたしのパート代ももらえないから頼むよ!」
「はい、納品さえできれば、デパートからお代金がすぐもらえますから!」
みんなの徹夜の協力で製作が続く。
(だけど役に立てるのもこれが最後だろうなあ。うちのキャスト屋も仕事がなく、これ以上の経営は無理だ。)
町工場は、業界の不振の影響を受けてだんだん成り立たなくなっていた。不安を感じるおじちゃんだが、なんとかルビを助けてやりたい一心だった。一週間後デパートのバレンタインコレクションに見事に出来上がった新作コレクションが並んだ。笑顔のルビとチリエージャのスタッフの姿があった。
「悪いわね、こんな大事な時に」
病院に入院していた櫻子もようやく現場に復帰した。みんなの姿が揃ったが、商品が全部盗まれたため売るものが無い。また百貨店の支払いが入ったものの、毎年5月に開催される新作コレクションの資金も無い。パライバのおかげでいったんは会社の差し押さえも解けたが、いずれ立ち行かなくなり出て行かなくてはならない。さらに頭を抱える櫻子のもとに一本の電話がかかる。
「チリエージャ、大変なんだろ」
病院の部屋でエイタが尋ねた。
「うん、何とか丸腰の分はおさまったんだけど、其の後どうなるか。会社も、このままだと3ヶ月後には出て行かなくちゃならないの」
「そうか・・こればっかりは役に立てないな」
「ううん、エイタ、すごく助けてくれたよ。本当にありがとう。そんなことより、とにかく早く治って。みんな、待ってるから」
「俺、不死身だから、大丈夫さ。俺のことは気にしないで、会社にもどれよ。先生を助けてやらないと・」
「うん、そうだけど・・」
「エイちゃん、大丈夫なの!」
病室にパン屋のお姉さんが走り込んで入ってくる。ルビを見ると、形相を変え、怖い顔でにらみつけ、かいがいしく看病を始めた。びっくりしたルビは病室を後にする。
「じゃあ、私帰るね、また来るから」
ルビを見送った後、体をひねって思わず声を上げるエイタを見て、お姉さんが気づかう。
「エイちゃん、無理して大丈夫なの」
一方、ルビは、先ほどの女性が気になって仕方が無い。エイタにこんな女友達がいるなんて聞いたことは無い。いつ出来たんだろう。どこの人なんだろう。
アリモトのデザイン室では、翠とひろやが打ち合わせをしている。「香港フェアの件もう少し、内容をつめたいのですがお食事をしながらでもどうですか?」
「そうだね、手早く済ませよう」
携帯がなる。ルビからの電話だ。
「うん、そう、櫻子さん、退院したんだね。それは良かった。うん、今日は、かなり遅くなるかも」
「待ってるから・・」
ルビの言葉が気にかかるがなかなか仕事はかたずかない。そんなヒロヤを見ていた翠は、なかなか帰れないように画策する。
ルビがヒロヤのマンションに向かう途中、暗闇に一人の女性が立っていた。先日の病院にいたパン屋のお姉さんだった。
「あなたね、エイタを振り回すのはいい加減にして。」
「えっ」
「あんたが別の男に夢中なんだったらエイタに甘えるのはやめてちょうだい。エイタの気持ちを考えると、あたしムカつくのよ!
それにあんた、森キャストもつぶれそうだって知ってるの?」
「!?」
「仕事も少なくて閉めることにするらしいよ。おじさんは親戚を頼ってバンコックに行くらしいわよ。エイタは鈴鹿で来てくれって言われてるんだよ。モトクロスの優秀なメカだからね。」
「そんなこと、私少しも・・」
「足が治って、仕事が復帰できるようになって、いろいろおじさんと相談してるらしいよ。みんな、あんたのこと心配してるのに、あんたは自分のことばっかり考えて、人の気持ちがわかんないのね。エイちゃんが、どんなに切なくて、辛くて、あんたのことばかり思ってるか。あんた、気がつかないフリしてるの?。あたしはエイちゃんが好きだけど、あいつの心の中はあんたでいっぱい。私は、好きな人の夢を叶えてあげたい。それで自分が悲しい思いをしても。あんた自分に本当に大事なもの、見失ったら永遠に取り返しが付かないわよ。」
ルビは自分の身勝手さに腹立たしく、悲しい気持ちでいっぱいになった。
(ゴメン、エイちゃん。だけど、今の私、どうしていいかわからない・・)
ルビはヒロヤのマンションの前を立ち去り、自分のうちに走って帰った。
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