第26話 不幸の連鎖
気が付くと、御徒町の小さなビルの2階にある金融会社の中にルビは乗り込んでいた。
「何だ、お前は。」
「チリエージャの商品を返してください」
「いったい、どんな証拠があるっていうんだ。いちゃもんつけるとただじゃ置かんぞ」
男は、威嚇するように睨みつけながら怒鳴った。
「あなたが丸腰デパートの社員のふりをしてチリエージャから商品を持っていったことはもうわかってるんです。防犯ビデオに写ってますから調べればすぐわかります!商品をすぐに返してください。返してくれたら大事にはしません」
表ざたになれば、下條も罪に問われる。そんな思いが頭をよぎった。
「なにい!」
ルビの胸もとを掴むと奥の部屋へと連れ込んだ。
「ガキのくせに俺と取引しようとは生意気だな。これ以上首を突っ込むとどうなるかわかってんのか!」
勢い込んで飛び込んでは見たものの、ルビごときの脅しが効く相手ではない、と悟ったルビは、出しうる限りの大声を搾り出し叫んだ。
「助けてえ!」
声とともにそこに飛び込んできたのはエイタだった。エイタはルビをバイクで尾行してきていたのだった。
「痛い目に逢いたいのか。」
男はナイフをとり出す。エイタがルビの前に飛び込んだ。
「ルビ、逃げろ!」
ルビをかばったエイタの足に男の振り回したナイフが突き刺さる。
「エイちゃん!エイちゃん!」
「いいから、逃げろ、ルビ」
叫ぶエイタ。
サイレンとともにすぐ後から数名の警察官がとびこんできた。エイタが通報していたのだった。
病院の手術室の前。ルビはエイタの手術を見守りながら震えがとまらない。
「エイちゃんが大変なことに!」
おばちゃんが駆けつける。
「エイタ,エイタ!」
おじちゃんはただひたすらおろおろと叫ぶばかりだ。ルビの頭の中もあらゆる思いが交錯した。エイタが死んだら!エイタのいない世界!ルビには考えられない。メロンパンを買っていつも笑ってくれた英太。エイタ。エイタ。エイタ。
やがて手術中のランプが消える。
「大丈夫ですよ。動脈はそれていましたから」
医師の言葉とともにエイタがのったストレッチャーが運び出された。
数日後。チリエージャのオフィス。犯人は逮捕されたが、商品は既に香港に売り飛ばされて無くなっている。デパートへの納品日は1週間後。納品できないときは、信用をなくすばかりでなく損害賠償を請求されることになる。ほかの商品もなくなってれているので金策も難しい。そんな中、会社では電話をとったテツが叫んだ。
「えー!!!」
「どうしたの」
「櫻子先生が!」
下條が事件に関係していたと知った櫻子が自宅で心臓発作で倒れたのだ。もともと櫻子は母ゆずりで心臓に欠陥があるのだ。途方にくれているみんなのところに、怪しい男たちが現れる。次々と差し押さえの張り紙が社内に張らていく。
「何してるんですか!」
「このビルは抵当に入っているんですがね。なんでも商品は全て盗難にあって無し。で、肝心の櫻子先生は入院中とのことで、となるとご返済が難しいかと。私どもの会社が債権を買い取りましたので社屋を押さえさせていただくしかないですね。」
みほもテツもただ呆然と見ているばかり。どうして良いか見当も付かない。
「・・あの時と同じ、」
ルビは思い返していた。子供のとき、借金に負われた父は自殺を選び、ルビは独りぼっちになった。
「何とかできる、何とかできるはず。お父さん、お金の為に死ぬなんて馬鹿。きっと手立てはある。落ち着かなきゃ。何とかなる。命さえあればきっと何とか方法はある。お父さん、今度こそ、私を守って。私を助けて。」
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