第20話 思い出のアクアマリン
再びルビはふたたび水色の石を出してみていた。美しい輝きとともに頭の中に、亡くなった父と母の顔や、少女時代の辛い思い出が走馬灯のように廻る。
雨のある日。小学生だったルビは目白の大きな洋館でピアノを弾くヒロヤを家の外からそっと眺めていた。それに気が付き、手を止めてルビににっこり笑いかけるヒロヤ。そしてまた、ある雨の日。見知らぬ人に手を引かれて小さな手荷物一つを持って歩くルビ。
「心配しなくても大丈夫よ。これから行くところにはルビちゃんみたいな子がいっぱいいるから。きっとお友達ができるわよ」
優しく手を引くお姉さんが言った。促されてひまわりホームと書かれたワゴン車にルビは乗る。やがてワゴン車は、大きな洋館の前を通る。有本と書かれた家からは、少年ヒロヤと両親との幸せそうなシルエットが。ルビの乗ったワゴン車は通り過ぎる。今、ルビは悲しい思いを堪えて窓の外の空を見上げた。窓にはたくさんの雨粒が当たっては砕けた・・・
ルビはもう一度、水色の石の袋を握りしめた。
「いつも雨、こんな日はいつも雨。・・私を守ってね、お父さん」
窓の外の降りしきる雨を眺めながら、空の高くを見つめ、口角を上げて見せた。笑いは勇気を与えてくれる、そう信じて。雨の降る外の景色の片隅に、窓を見上げエイタの姿があることも気が付かずに・・
翌日、会社に出向くとジュエリー雑誌ジュエルスタイルに、相馬翠がアリモトをバックに「ベルデ」と言うエメラルドのコレクションを発表し、脚光を浴びているという特集が載っていた。きらびやかな微笑でひろやとのツーショットにおさまる翠に気持ちが焦った。もう不安が抑えきれない。コレクションのデザインと企画をまとめようとしても、どうしても集中できなかった。
(こんな時、下条先輩がいてくれたら)
思っても始まらない。
思い切ってルビはスケッチブックを閉じると、浜離宮にあるヒロヤのマンションの前まで足を運んだ。部屋の灯りがついている。ヒロヤの部屋は、東京の夜景が美しく見渡せる。浜離宮の桜並木と運河が見える絶好のロケーションにある。高層マンションの最上階だ。セキュリテイが厳しいので、中には入れないが、部屋の番号は知っている。外から窓の明かりを確認した。
(こんなの私らしくない!連絡しよう)
と携帯を取り出したルビは再びふと上を見上げた。しかし、そのとき、ルビの目にはヒロヤの窓のガラス越しに人影が写るのが見えた。、窓の中に見たのは、外を見る翠の姿。そしてすぐにヒロヤも目に入った。慌てて電話を切ったルビは、ドキドキする胸を押さえて、身を隠した。それから、一目散に走り櫻の木の影でしゃがみこんだ。
(なんで、私、視力2.2もあるんだろう・・見えなきゃ、良かったのに・・)
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