第21話 ヒロヤとエイタ
「なんか、最近、ちょっと変だぞ。」
それから数日後、久しぶりにあったエイタは上野の土手をバイクを押して一緒に歩きながらルビに言った。
「エイちゃんと一緒に、櫻並木を歩いたのはいつだったけ?まだ、そんなにたってないんだね。随分遠い昔のような気がする。なんだか、最近自分が変わったみたい。まえは、夢にはほど遠かったけど、心の中で夢を描いてるだけで、少し幸せにな気持ちにれた。今は夢の入り口に立てたのに、いらいらしたり、嫉妬したり、なんだか満たされない。自分自身に戸惑ってるの」
「人間て希望が少し見えてきたほうが、欲張りになって苦しくなるんじゃないか。
だれだってすんなりとは物事上手くいかないさ。だんだんと上手くいくのが当たり前みたいに思えてくる。だけど今、ルビは夢の途中にいるんだ。俺が知ってるルビは苦しさや悲しさを笑顔に変えてた奴だった。まえとお前みたいに、好きなことができてラッキーって単純に想えよ。そのほうが楽だし、お前らしい」
「そうだね。もともと何にも無かっただから、1歩でも前に進めればラッキーだよね。そう思うようにがんばる。私っていつもエイちゃんに助けられてるね。エイちゃんて、私のほんとの家族みたい。・・・・・ゴメン」
(なんで,謝るんだ・・)
心の中でエイタは呟いた。
(それに家族じゃないぞ!彼氏って言え)
心の中しかいえないなんて俺は馬鹿だ!だけど今のエイタには言葉に出す勇気がなかった。
エイタは、翌日意を決して銀座のビルにヒロヤを尋ねた。今の自分がルビにできることを考えてのことだった。
ヒロヤをアリモトの屋上に呼び出した栄太はヒロヤに言う。
「俺は・・ルビの家族みたいなもんだが、お前に話があってきた」
「エイタ君だね、聞いてる」
くすりと笑いを堪えてヒロヤが答えた。
「お前はルビの気持ちをちゃんとうけとめてやれ」
ヒロヤは少し目線を上げてエイタの顔を見返した。
「わかってるんだろ。ルビの気持ち。お前はかっこいいし、御曹司だから、
もてるかもしんねえけど、ルビの気持ちはそんな簡単なんじゃないんだ。
お前は覚えてねえだろうけど、ルビは子供のころ、辛い時にお前に助けてもらって、それでずっと忘れられずにいたんだ。お前はルビの夢で、それで思い出でもあるんだ」
「・・・覚えてるよ」
「え?」
「覚えてたよ、ずっと」
「・・」
「初めて、ファッションショーで見かけた時、すぐあのコだって分かった。
子供の時と、ちっとも変わってないからね。ジュエリーアワードの審査会の時に名前を聞いて確信した。ルビなんてめったにいない名だから。」
「じゃあ、なんで!」
「僕は生まれた時から、誰にでも親切に好かれるように気を使うように言われて育った。アリモトを継ぐんだから。人の上に立つには人格者でなくてはならない。常に優等生でなくてはいけない。そして心の中は常に冷静で時として冷酷でなくては行けない、そういわれて育った。今までたくさんの女性と付き合ってきたけよ。みんな魅力的な女性ばかりだったけど、ルビちゃんみたいに、あんなふうにわかりやすくて、素直でいつも堂々とぶつかってくる正直な女性は初めてだった。だから、彼女が愛しく思えた。今、そんな自分の気持ちに戸惑ってる。でも、おそらくアリモト家は彼女を認めない。そんな世界に無理に引きこんで、一番傷つくのはだれだと思う?だから、彼女のことは気が付かないフリをしていたほうがいいって思ってたんだ。ずっとそうするつもりだった、パリに行くまでは・・」
「それじゃあ、ルビのこと、これからどうするんだ」
「わからない、正直、迷ってる。」
「迷ってるって・・」
エイタはヒロヤの胸倉を掴み、こぶしを振り上げた。
「殴るのか?」
ヒロヤは顔色ひとつ変えずに言った。
「殴ってくれ」
「なんで、そんなに冷静なんだよ!どうして、そんな普通にしてんだよ。」
「君こそ、どうしてそんなに熱くなれるのに、素直にぶつからないんだ」
「え?」
「僕を脅しに来るくらい、彼女のことを思ってるんだったら、何でそれをぶつけないんだ。」
「俺じゃ、だめだからだ」
「どうして?」
答えずに走りさってバイクに飛び乗ったエイタは
「あいつの夢は、俺じゃないからだ」
自分に向かって叫んだ。
「ちょっと大変、読んだ?この記事。」
チリエージャのデザイン室では、
テツとみほがまた大騒ぎをしている。
「なに?」
「驚愕の真実。父は殺人者。アリモト財閥に玉の輿をねらうデザイナー」
「えー!!!!」
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