第16話 グランプリ

審査が再び始まった。アリモト社長の姿もある。

「私も協会会長の立場として、審査は公平にと思っていますが、この作品はチリエージャのアルバイトさんが提出したものだそうです。グランプリとなると、やはり影響力もあると思いますが」

「え?デザイン室の人じゃないんですか?」

「そりゃ、アルバイトをグランプリにしたんじゃコンテストの格が落ちますね」

「ブラック&ゴールドはアリモトさんのご子息のデザインだったんですか。いやあ、社長が仰るまでもなく、グランプリはヒロヤさまですよ」


ジュエリーアワードの授賞式とパーテイがペニンシュラホテルのボールルームで開催されていた。いつもながらのゴージャスないでたちの櫻子は、バレンチノガラバーニの赤いイブニングドレスに、フェンデイの黒のファーストール。ブラックゴールドにスタールビーのネックレス、相馬翠はドルチェ&ガバーナのミニワンピースに小さなカクテルハット。ジュエリーはエメラルドのイヤリングとブレスレット。ルビは櫻子先生のフェレッテイのドレスを仕立て直して着ている。馬子にも衣装というか、いつものルビとは思えないほど美しかった。


「発表いたします。今年のグランプリは」

華々しファンファーレとともに司会が紙を開いてグランプリを読み上げた。

「グランプリはヒロヤアリモト!」

拍手の渦。

(やっぱりね)

立ち上がってスマートに歓声に答えるヒロヤ

「おめでとう!!」

口々にお祝いの言葉がヒロヤに浴びせられた。やがてシャンパンとともに華やかな式典の宴がはじまった。華やかなパーテイ会場で、ルビははじめてひろやと真近に対面した。ドキドキは最高潮に達している。たくさんの人ごみの中、ルビにはヒロヤしか目に入らない。思い切ってルビは近づいた。

「私、杉本ルビといいます。・・・あの私、昔・・・・」

「ああ、ヒロヤです。はじめまして」

ルビはヒロヤの顔を見あげた。ヒロヤはいつも変わらぬ優しい微笑みでかえした。

「このひと、何にも覚えてない」

その微笑にルビは落胆した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る