第17話 光のジュエリーショー
それから3年の歳月が流れていた。ルビは見違えるように垢抜てチリエージャのデザイン室の一員として仕事をしている。通信で本格的にデザインの学校も卒業していた。下條が事情で退社し、今は翠がチリエージャのデザイン室長になっている。
今日はデパートの共同プレゼンがあり、着くと、会場ではヒロヤが新作の説明をしていた。まさに立て板に水、ヒロヤの余りに流暢でスマートなプレゼンテーションに思わず見とれるルビ。視線に気がついたヒロヤは、プレゼンを途中でやめてみんなの前で目でルビに挨拶した。慌てたルビは資料を落としてしまう。なんだかかわれているようだ。
「ルビさん、待ってください。」
プレゼンが終わったヒロヤがルビを追いかけてきた。
「なんか、最近、僕を避けてませんか? 」
「いいえ!そんなことありません!」
そっけなく答える。意識しすぎて、ほとんどまともに口もきけないのだ。
「ホント?それならいいんだけど。僕って人に避けられたりするのは慣れてないから。」
唖然としてヒロヤの顔を見た。こんな台詞もひろやだから許せる。ルビは仕事に打ち込もうと必死だがヒロヤのことが気になって仕方がないのだ。
ある日、ルビはかなり思い切ってて森キャストのおじさんに切り出した。
「おじさん、私、ずっと言いだし切れずにいたんだけど、最近仕事もあんまりお手伝いする暇もないし、これ以上おじさんに甘えるわけにも行かないし、マンションを借りようと思うんですけど」
一瞬おじちゃんは、凍りついたように目線を宙にうかせた。がすぐにいつもの人の良い丸く弧を描く目に戻って答えた。
「そうかい。最近キャスト屋の仕事も減ってルビちゃんに頼む仕事も減っちゃったし、実はこっちから言おうと思ってたんだよ。でも寂しくなるなあ。」
「どうせしょっちゅう来ますから。私、他に行くとこないんだし!わがままばっかり言ってすみません」
仕事に熱中するために引っ越した先はヒロヤのマンションのすぐ近くだった。ルビがどんどん離れて行くような印象を持ちエイタもおじさんも寂しさを隠し切れない。
ある日、国際ジュエリーショーであるパリのジュエリーインファッションにアリモトとともにチリエージャも参加することになった。櫻子は翠とルビを呼び出し、ひとりのモデルがつけるジュエリーのデザインの仕事をコラボするようにと命じる。
「二人で一人のモデルですか?わかりました、やって見ます」
表向きは賛成した翠だが、あきらかに挑戦的な態度をとる。
総合テーマは光。二人のコラボが始まった。
「それでは、私はネックレスとイヤリングとブレスレットをやるから、ルビさんはそれ以外をやってね」
翠の提案にルビはたじろぐ。
(それって、全部メインじゃない?・・じゃあ、私は何をデザインすれば・・)
しかし翠は今室長だ。逆らうことはできない。
「それなら、私はアンクレットとヘアオーナメントと指輪にします」
ルビも負けていはいない。ヘアオーナメントなら目立つ。光のスパイラルをイメージした。
色彩を得意とする翠は、サファイヤのブルーから白、イエローピンクへと変わるカラーストーンのグラデーションで見事に光の虹を表現した。胸元からイヤリングへ優雅な光の帯が連なった。
一方ルビは、シンプルなデザインワークでヘアオーナメントの先に、光をイメージした大粒のブリリアントカットを施したホワイトサファイヤをセットした。ファッションショーで光を受けた時、一条のきらめきを演出したのだ。高度が硬いサファイヤは細かいカットにより、煌きを倍増できる。打ち出し職人の西村が、製作に当たって白装束を着て、水で体を清め、それからこつこつと鏨を使って形を作った。
2ヶ月の後、二人の作品がようやく出来上がった。
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