第3話 黄色いダイヤ

「黒いダイヤだってさ」

「へえ、黒ダイヤ!すげえな。でも俺はお前の好きな黄色いダイヤを持ってきてやったぜ!」

 髪を茶髪に染めているエイタは黒い革ジャンを脱ぎながら、ルビに袋を渡したあと、大きな仏壇に手を合わせ、線香をあげると、チーンと鳴らした。


 エイタは森キャストの息子。高校を卒業してから、東麻布のバイク屋に勤めている。モトクロスのライダーの有能なエンジニアになるのが夢だ。この作業場の近くに住んでいる。袋の中を覗いてみるとくとメロンパンが入っていた。ルビの好物だ。


「わあ、エイちゃん、いつも有難う」

 袋から出したメロンパンをいきなりほうばって胸焼けするルビに、ほれっとおばちゃんが冷蔵庫の牛乳を差し出すが、あっと手を留めた。

 「あ、ごめん。ルビ、牛乳は苦手だもんな」

 「そうだった。変な子だよね、好き嫌いないくせに、牛乳だけは嫌いなんて。栄養がたくさんあるんだよ。だから、あんたはそんなに痩せっぽちなんだよ。じゃあ、まあ、みんなでおやつにしよっか?」

「あ、おばちゃん私がお茶入れます」

春もたけなわ。森キャストはとんでもなく汚いが、窓の外には櫻の花が枝垂れるように咲き誇っている。


 数日が過ぎ、朝からひたひたと降る雨に桜の花も湿っていた。

「ルビちゃん、雨の日に悪いんだけど、ちょっとお使いに行ってくれないか。」

「はい、いいですよ」

「アリモトさんのデザイン室にこの原型を届けて欲しいんだ」

「え、でも、こんなカッコウでいいんでしょうか?」

 作業用エプロンの下はジーンズだ。それもだいぶ汚れていた。

「構わないだろうよ、別にお客でもないんだし!」

「でも、・・まあいいか」

 とりあえず身繕いをするとルビはそそくさと出かけた。


 銀座の老舗宝石店ありもとに向かうルビは、心なしか嬉しそうである。もしや先日のペニンシュラで見かけたヒロヤともう一度会うことができるかも知れない・・と想像すると心がうきうきする。


彼女は妄想していた。アリモトの本社の中・・・廊下で偶然ぶつかるヒロヤとルビ・・・落とした届け物を拾いながら・・・ルビを見て声をかけるヒロヤ

「君、どこかで逢いませんでしたか?」・・・なあんて!


 ルビはにやにやしながら銀座に着いた。しかしアリモトビルの前にたつと其のあまりの風格ある建物にちょっとたじろいだ。入り口の両側には守り神のグリフィンの石像が2頭が並び、辺りを見回している。この周辺でもひときわ目立つ風格のある石作りの古くて堅城なビルだった

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