国王の怒り!
凶悪なモンスターはどうやら魔獣ブラックウルフだったらしい。
森の浅層にいたので討伐対象となったようだ。
商人たちが安心して街道を通れるためにはモンスター討伐は必須である。
「はあ、はあ。貴方がライルさんですよね」
「そうだけど俺に何か用か?」
「私をパーティーに加入させてください。ホーリーナイトをお辞めになったんですよね」
魔聖女リーファ。俺が【ホーリーナイト】に所属していたころから色々な噂は耳にしている。
かなりの優秀な魔導士にして容姿端麗という存在だ。
綺麗な赤髪が風に靡く。
「折角Sランクパーティーのホーリーナイトに所属できたのに、それを脱退して、Eランクの俺達のパーティーに加入するメリットはないんじゃないか?」
「そうよ、地位や名誉まで蹴って私達のパーティーに加入したい目的は何?」
俺達は当然の疑問をリーファにぶつけた。
「私の人生にはラプラスの悪魔が必要なんです。ライルさんが必要なんです」
リーファの赤い綺麗な瞳が俺の心に語り掛けてくる。
俺とじゃなきゃ駄目なんだと言う強い意志を感じられた。
「必要な理由は?」
「私は幸せになりたいんです。冒険者として世界最高になりたいんです」
「それで未来予知が必要だと?」
「はい。ライルさんが居ない今のホーリーナイトでは私は高みへと登れません。でも未来が見えるライルさんなら私を高みへと導いてくれる。そう確信しています」
リーファは俺達の前で力説した。
俺とアーニャはその真剣な瞳と言葉に吸い込まれそうになった。
「私の夢を手助けしてくれませんか?」
「国王や教会連中が頷くとは思えないんだが」
「実力で黙らせます。アレイグルさんには私から言っておきます」
「アレイグルだと!? あの狸爺か」
アレイグルは国王と共にこの国の最高権力者の一人だ。
宗教を立ち上げ、お金を信者から毟り取っている。
リーファはそこの教会出身の冒険者だ。
「まだ完全に信用できない。少し考えさせてくれ」
俺とアーニャは向かい合って頷いた。
そして言葉を紡ぐ。
「少しアーニャと相談してから結論を出す。明日まで待ってくれないか?」
「分かりました。肯定的な返答を心よりお待ち申してます」
綺麗な長い赤髪を風に靡かせて俺達の前から去った。
◇
冒険者ギルドで俺達は受付嬢に魔獣ブラックウルフの討伐を報告したのだが、手柄は全て何故か【ホーリーナイト】の物となっていた。
「腹立つ~。私達が討伐したのに」
「ま、まあ落ち着けって。国王は昔からディオス達を目に掛けているからな。今回は仕方ないさ」
「あの国王見るからに差別主義者だしね。ほんと腹立つ」
アーニャはカフェでオレンジジュースを一気飲みする。
膨れっ面を見せながら。
「でも国民は気づき始めてるわね。私達が討伐したことに」
「だな。何せディオスが右腕怪我して帰って来たからな。しかも俺達は魔獣ブラックウルフの死体を持って帰って来た。見る奴には分かるだろ」
「今頃国王もホーリーナイトも焦ってるわね。いい気味だわ」
俺達は徐々に認められていくのを感じ取っていた。
◇
「ディオスよ。今回は儂の権限でお前たちの手柄にしたが、次はそうもいかないぞ。しっかり頼んだぞ」
「分かっています。次こそは俺達ホーリーナイトの真の実力を見せつけてやりますよ」
「そうかそうか。ところであのゴミ共が姿を現したと」
「そ、そうなんです。ライルたちが我が大事なメンバーの魔聖女リーファをしつこく勧誘しているんです」
ディオスは嘘をついた。
本当はリーファから脱退の申し出を受けたが、その解釈を曲げてライル達を悪者にした。
「何だと!? そんな事は断じて許せぬ! 今すぐライル達を潰すのだ」
「はっ。では敢えて危険な任務に行かせて、そのまま死体となってもらうのがよいかと。まあ俺が手を下しても構いませんが」
ディオスはスーパータイガーも討伐出来なかったのに、自信満々で言う。
相変わらず自尊心だけは非常に高い。
「そうだな。闇に葬ってやろう。丁度良いクエストが存在するからな。がははっ!」
「流石国王様。よく先を見てらっしゃる」
ディオス達はライル達を潰すことを決めたのだった。
リーファという逸材を手放さないために。
「調子に乗るのも今のうちだぞ大嘘つき野郎が」
ディオスは心から愉快であった。
あの闇の森での屈辱的行為を受けた復讐が出来ると言う事に。
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