第二話  ~妖の関係と初依頼~(後編1)

 「あなたが川上さんの傘……。」

 「うん。」


 女の子は確かにそう言った。じゃあこの子が傘の妖の本体ってこと?でも、女の子は確かにあの傘についていた黄色のリボンをつけている。もし、女の子がほんとに妖だとして、この子が化けるタイプの妖でいきなり襲われたらどうしよう。

 そんな不安が私の中にあった。ここには、前みたいに助けてくれた煉さんもいない。…私一人だけだ。私は少し怖かったが、女の子に質問してみた。


「……ねぇ、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「いいよ。」


女の子は明るく答えた。その明るさに私はホッとした。少なくても、いきなり襲われることはなさそうだ。私の中にあった不安が少しなくなった気がした。


「……君は、傘の妖なの?」

「あやかし?あやかしってなに?」

「え?」

「だから、その……あやかし?ってなに?」

「妖っていうのは…。その………。」


私は混乱した。どうやら女の子は妖について知らないらしい。私も妖についてまだ全然知らないため、説明の仕方がわからなかった。


「…そう!妖っていうのはおばけ!おばけのことよ。」

「おばけ!!。私おばけ好き!ねぇ、お姉ちゃん。もしかしてここにおばけいるの⁉」

「い……いるよ…」

「ほんと⁉どこ!どこにいるの!」

「それは、わかんない。私もおばけ探してるんだ。」

「じゃあ一緒に探そう!」


  女の子はおばけという話題にすごい食いついてきた。 

 結局、女の子には妖について説明できないまま「おばけ」という形で説明してしまった。川上さんの傘と言ったことから、おそらくこの子が妖なのだろうが、説明できなかったため女の子とお化けを捜すことになった。なんとか納得はさせたが、誰もいない駅の中にお化けなんているのだろうか。いや、いないと思う。最近、妖を見たことはあるがお化けを見たことはなかった。

 しかし、女の子はおばけを捜す気満々で早く探そうと言わんばかりに私の袖を引っ張ってくる。

 

「わかった、わかったから!袖を引っ張らないで。」


 とりあえず袖を引っ張るのをやめさせ、二人でお化けを捜すことになった。




「ねぇ、君はずっとここにいるの?」

「…わかんない。気づいたらここにいたの。」

「そっか。他に何かわかることある?なんでもいいんだけど。」

「うーん…」


 お化けを捜しながら私は女の子に質問した。

 女の子は少し悩んだ。もしかしたら質問をして困らせてしまったかもしれない。ただ、私にはここが先ほどいた駅ということぐらいしか情報がないため、何か知っていれば教えてほしかった。


「…や。……あやって呼ばれてた。」

「彩?それは君の名前なの?」

「わかんない。でも、あやって呼ばれてた。それだけ覚えてるの。」


 女の子は左右に首を振った。どうやら女の子は、’’彩’’と呼ばれていたらしい。猫の三蔵に名前があるように妖にも名前があるのだろうか。ただ、猫と違って傘に名前を付けて呼ぶのはどうなの?

 ちょっと想像してみたが、悲しい結末になりそうだったのでやめた。

 それから少し駅の中を捜したがお化けを見つけることはできなかった。


「お化け見つからないね。」

「……そうね。恥ずかしがり屋だから出てこないのかも…しれないわね」

「そっかー。出てきてほしいな。」


心が痛い。 

女の子はお化けを信じているため、説明するためだったとはいえ、今更ながらに私は後悔した。初めからちゃんと説明出来ていたらどれだけ楽だっただろう。かといって、今からお化けがいなかったと言ってこんなにも信じている女の子を悲しませることはしたくなかった。私はこの子のために嘘をつき続けなければならない。

 私たちは、お化けを見つけられないまま最初に出会ったホームに戻ってきてベンチに座り少し休憩した。


「彩ちゃんは気づいたら、ここにいたんだよね。」

「そうだよ。私はこのベンチにいたの。ここは、いつも川上さんが来て座るところだから。そういえばお姉ちゃん、ちょっと疲れちゃったね。私眠くなってきちゃった。」

「そうね。ちょっと休んでからまた探そっか。」

「うん。」


彩ちゃんは少し眠そうに目をこすっている。

(そういえば私、ここからどうやって帰えればいいの?)

お化け捜しをしているとき、いろいろ見ていたが帰る手がかりになりそうなものは何もなかった。ここから帰れなかったどうすればいいのだろう。

そんなことを考えていると、彩ちゃんが私の肩に頭を寄せてきて寝てしまった。すると、目の前が真っ白になった。傘のリボンに触れたあの時と同じだ。




「…ん、………う、ん」

「おはようございます。雪さん」


 目が覚めると、先ほどまでいた駅ではなく私は事務所のソファーのうえで寝ていた。私はそこから起き上がる。状況がわからなかった。なんか、変な夢を見た気分だ。体の上には毛布がかかっている。楓さんが掛けてくれたのだろうか。いったいどれほど寝ていたのだろう。


「…おはようございます。楓さん私、どれぐらい寝ていたんですか?」

「それほど寝ていませんよ。5分ぐらいでしょうか。」


楓さんは落ち着ていた。何が起きたのか知っているのだろうか。


「私に何が起きたか知っているの?」

「ええ、知っています。ただ、今は少し時間がないので説明は後にします。雪さん、あなたは何か夢のようなものを見ませんでしたか。」

「み、見たけど…。それがどうかしたの?」

「どんな些細なことでもいいです。教えてください。」

「うーん…。」


 私は、さっきまでの夢のような記憶を思い出す。


 「…彩ちゃん。」

 「彩ちゃん?」

 「夢で会った女の子です。彩って言ってました。」

 「女の子…。他に何か思い出せることはありますか。」

 「彩ちゃんが、川上さんの傘だと言ってました。それに待ってる人がいるとも…。あの子が、この傘の妖なんですか?」

 「そうですね。もし、その子が傘だと言っていたのであれば、妖ですね。」

 「…やっぱりそうなんですね。」

 

 思った通り、彩ちゃんが妖だった。


 「彩ちゃんはどうなるんですか?」

 「……このまま、持ち主が見つからなければ、消えますね。」


 楓さんは冷静に私に伝えた。あの子がこのまま消えてしまう。持ち主にも会えないまま…。


 「なら、今すぐにでも探しに行かないと!」

 「待ってください。川上さんがどこにいるか分かったんですか?」

 「それは…。」


 確かに。闇雲に捜しても、わからないだろう。なら、煉さんといったあの家で待っていれば…。そんなことを考えていた。すると、


 「所長。」


 煉さんが事務所に帰ってきた。


 「あ、黒田。持ち主は見つかった?」

 「いえ、所長がいっていたあの家の持ち主に会いましたが、傘は落としていないと言っていました。」

 「そう……。」


 当てが外れたのだろうか。楓さんは、少し落ち込んでいる。

 持ち主が違うとなると、手がかりはゼロになる。

 (いや、そういえば彩ちゃんが言っていたことが本当なら…。もしかして…。)


 「あの…!楓さん。」

 「何でしょう。」

 「彩ちゃんは、どれぐらいで消えてしまうんですか。」

 「そうですね…。あと2日といったところでしょうか。」

 「…楓さんにお願いがあります。私に1日だけ傘を預けてもらえないでしょうか。」

 

 私は楓さんに頼み込むようにお願いした。無理なお願いだというのも承知の上でのお願いだった。もし、私の思ったことがあっていれば、彩ちゃんを川上さんのところに渡せるかもしれない。

 楓さんは少し悩んでいた。


 「待て、雪。そんなことできるわけないだろう。この妖の寿命を聞いてましたか。あと、2日ですよ。そのうち1日を預けろだなんて。」

 「黒田は少し黙っててください。」

 「いや、しかし…。」

 

煉さんには、反対された。当然だろう。手がかりが消え、残り2日と言うところで私に任せるなんて。普通だったらありえない。


 「……雪さん。可能性があるんですよね。」

 「はい。」

 「なら、雪さんに預けます。」

 「な⁉」

 「ありがとう楓さん!」


 私は、傘を受け取って事務所を後にした。



 「いいんですか。雪に預けて。」

 「何か不満ですか。手がかりがなくなった今、可能性がある方に賭けるのは普通のことでしょう。」

 「それはそうですが…。所長がもっと頑張れば……。」

 「何か言いましたか。」

 「…いえ。何も。」


 楓さんは煉さんの話を途中で遮って優しそうな表情で煉さんを見た。

 言いかけた言葉をやめ、煉さんは少し不満そうに話を聞いている。手がかりがなくなったから、可能性のある方に賭ける。それは、煉さんもわかっていた。


 「それに…。黒田は雪さんに賭けたんじゃないんですか。」

 「わかってたんですか。ですけど、成功したかどうか聞いてません。」

 「それは、雪さんの結果次第でわかりますよ。」


 楓さんは煉さんに、口に人差し指をあて内緒のポーズをした。




 

 


 

 

 

 

 

 



 


 




 

 




 

 

 

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