第二話 ~妖の関係と初依頼~(中編)
っというわけで初依頼をしているわけなんだけど……
「何してるんですか?早く来てください。」
「
「あまり時間がないので無理です。」
はっきりと断られた。
この仕事に
何でよりによって依頼を手伝う相手がこいつなのよ~!私は、てっきり楓さんの手伝いだと思っていたのに―――
「それじゃあ、依頼の内容なんだけど……この傘が探している持ち主に届けること。」
「傘が?持ち主が探しているんじゃなくて?」
「ええ、持ち主ではなく傘が。さっき言ったでしょう。妖にも大切にしている物や人はいると。その傘は持ち主の想いが妖になっています。」
これ、妖なんだと思いながら傘に
「確かに言われたけど……。でも、さっき普通の人に妖は見えないって……。」
確かに妖にも大切にしている物や人はいると言われた。しかし、普通の人に妖は見ることが出来ないとも言っていた。この傘が妖なら、持ち主に届けたところで持ち主は見ることが出来ない。そもそも、この傘に気づいていない可能性もある。
「そうですね。おそらく、持ち主は見えない。ただ、この傘は自体を見ることは出来ます。なにせ、元が妖ではなく ’’物’’ ですからね。」
そういう事か。少しだけわかってきた。
「なるほどね。持ち主が持っている傘に知らないうちに想いが宿って、妖になっただけで元々は、ただの傘ってわけね。」
「まぁ、そんな感じですね。」
楓さんはお茶を一口飲みながら、そう言った。
「それで今回は……」
そして楓さんは、『黒田、ちょっときて』と言ってスーツの男を呼んだ。男は呼ばれたのに気づき、こちらにくる。作業の
「何ですか?今、依頼の記録をまとめていたんですけど。」
「黒田、今日この後、この依頼行きますよね?」
「ええ、行きますけど………まさか!?」
男は何かを
「嫌です。明日の依頼、代わりますから所長がやってください。どうせ
「失礼ですね。暇じゃないですよ、私はこの猫と話しをするというちゃんとした依頼があります。」
「あきらかに暇じゃないですかっ!!」
「いいから、行ってきてください。これは所長命令です!」
「くっ…………大人げない。」
「なにか言いましか?」
楓さんは笑顔でそう言うと、男はどこか
「
「…高見 雪です。よろしくお願いします。あの時は助けてくれてありがとうございました。」
「では、さっそくいきますよ。」
「行くってどこに?」
「依頼です。」
―――それで今にいたる。
ちなみにどこに行くか聞かされていないので、どこに向かっているかわからない。
「あの煉さん、そろそろどこに向かっているかぐらい教えてくれても……。」
「着きました。ここです。」
着いたらしい。せめて着く前に、一言いってほしいな。
「ここは……家?」
到着した場所はとある一軒家だった。知り合いの家だろうか。表札には『
煉さんは到着すると、すぐさまインターホンを押した。
「…………いないようですね。」
「ここって誰の家なの?」
「おそらく依頼者の持ち主の家だろう。」
「おそらく?確定じゃないの?」
「所長が言うには『名前は川上と言う会社員の男性でこのあたりに住んでる』との情報のはずなんだが……」
煉さんは、そう言いながらあたりを見回している。
大切にされていた物にしては情報が
「今はいないようなので、次は駅に行きます。」
「駅に持ち主がいるの?」
「何を言っているんですか。傘の持ち主は、駅で
「あんたが何言ってんのよ!そういう情報を私にも教えなさいよ。全然わかんないじゃない。」
私は心の中で思っていたことを煉さんに言った。すると、
「ふふ……」
どこからか聞こえた女の子の笑い声。ただ、どこから聞こえたのかまではわからない。それでも確かに聞こえた。煉さんは特に気にした様子はなかった。まさか聞こえていないのだろうか。
「ねぇ、今の声聞こえた?」
「声?何言ってるんですか。とにかく駅にいきますよ。」
(確かに聞こえたんだけどなぁ……)
この反応からして煉さんには、聞こえていないのだろうか。(もしかして私の気のせい?)そんなはずはないと思ったが、初めての依頼で緊張でもしているのだろう。そう思うしかなかった。
そして私と煉さんは、駅に向かった。
私と煉さんが依頼で事務所を出て行った後、事務所に残っている楓さんと三蔵はソファーで話していた。
「別にもう妖になっていいんですよ。雪さんも見える人なんですから、わざわざ猫になる必要なんてないのに。」
「我は猫でも構わん。それに、外では猫のほうが都合がいいことのほうが多いからな。」
「そうですか。」
「それよりも楓、あの傘……そろそろ限界だろう。」
「…気づきましたか。あの傘は、持ち主の想いが妖になってすぐですからね。あの傘が来た時にはもう妖としての力が全然なかった。頑張ってあと二日。そのあいだに見つからなければ…………。」
「無理して言わんでいい。」
三蔵は私を
私は雪さんに仕事の説明で言っていないことが何個かある。今回の依頼でもすべては言っていない。(黒田には言ってあるけど。)
一つは、あのタイプの妖は想いを力にするため、大切にされている期間が長く大切にしてくれる人が多いほど力が強くなる。そのため、仮に妖になったとしてもそのあと大切にされなければ妖としての力は弱まっていく。
もう一つは、妖としての力が完全に無くなるとその妖は消えてしまう。そして、消えてしまった妖は二度と戻ることはない。
あの傘は妖になってすぐに持ち主と離れてしまったために、妖としての力がほとんどない。だから頑張ってあと二日。それを過ぎるとおそらく、消えてしまうだろう。
「まぁ、今は見つかることを願うだけですね。」
「我は別にどっちでもいい。」
「そんなこと言って、本当は見つかってほしいんじゃないですか。」
「……ふんっ。」
からかった感じで楓さんは三蔵に言ったが、三蔵は鼻を鳴らし特に何も言わなかった。これでも結構優しい妖だから、口に出すのが恥ずかしいだけで心ではそう思っているのだろう。
…ただ、今は持ち主が見つかることを信じて。
「ねぇ、依頼っていつもこんな感じなの?」
駅に向かいながら私は煉さんに質問した。
「…こんな感じとは?」
「依頼者が探している物や人の情報が曖昧だなぁと思って。こんな曖昧な情報で持ち主が見つかるのかなって。」
「そうですね。一つ言っておきますが今回の持ち主の情報をくれたのは、所長です。」
「楓さんが?じゃあ、楓さんに聞けばすぐにこの依頼解決するじゃない。」
あの時、煉さんが楓さんと依頼を代わっていたら、この依頼はすぐ解決したのではないか。なのになぜ楓さんは代わらなかったのか。考えてもわからなかった。
「そんな簡単じゃないんです。それに、所長もこれ以上の情報はわからないと言っていました。そして今回の依頼者は、力があまり強くないので
「じゃあ地道に見つけていくしかないのね。」
私は軽い口調でそう言ったが、煉さんは何かを
そして私と煉さんは駅に着いた。
「俺は駅員に傘を忘れた人が来てないか
そう言って煉さんは駅員を探しに行ってしまった。
そういえば煉さん今、俺って言ったわね。それに私のこと雪って。仕事仲間に対しては自分自身の呼び方を変えるのだろうか。いや、それよりも煉さん傘持たずに行っちゃったんだけど…。
「待ってろとは言われたけど、傘持ってる私が聞いた方がいいわよね。すぐ戻ればば多分、煉さんにバレないし。それに一応、私も依頼手伝ってるわけだし。」
ちょっと聞いて持ち主の情報がなかったら戻ってこよう。
「バレたら煉さんに何か言われそうだけど。」
そう思って私も駅員を探しにその場を離れた。
「この傘が妖なら、もしかしてここにはいっぱい妖がいるのかな。」
私は駅員を探しながらそんなことを思っていた。楓さんには見る力が強いと言われたが、実際に歩きながら周りを見てみてもどれが妖かなのかはわからなかった。三蔵やマスターのように化けているのだろうか。
そして周りを見ながら歩いていると、誰かにぶつかった。目の前に誰か立っている。
「何しているんですか?」
駅員を見つけるよりも先に煉さんに見つかってしまった。
「…あ、いや、……私も駅員に聞いてみようかなぁなんて……。その……ごめんなさい。」
「なんであなたが謝るんですか。」
「だって……待ってろって言われたのに勝手に動いたから。…
「別に怒ってはいないです。それよりも、三日前にここに傘があるか聞いてきた人物がいました。おそらく持ち主です。ただ、そこからは来ていない。俺は一度、持ち主と思われる家の周辺で川上さんについて調べますから、雪は傘と一緒に事務所に戻って、傘についてなにか知ってるか所長に聞いてください。」
「でも、所長はもう何も知らないんじゃないの?」
「それは持ち主についてです。傘についてはわかりません。それじゃあよろしくお願いします。」
そして煉さんは、私を置いて行ってしまった。
「なんか厄介払いされた気がするんだけど。」
一瞬、煉さんのところに戻ろうとしたが多分、事務所に戻される。私は仕方なく事務所に戻ることにした。
事務所に戻ると、楓さんは椅子に座って父が残した依頼書を調べていた。
「あら、雪さん戻ってきたんですか?」
「傘について楓さんに聞けって煉さんに言われたので。楓さんは、この傘について何か知っていますか?」
「なるほどね、これは
「…なるほど?楓さん今、なにか言いましたか?」
「雪さん、傘を開いてください。」
楓さんに言われ、私は傘を開く。開くと傘は、私が入ってもそこそこ余裕があるくらい大きかった。傘の
「…………あれ?ここどこ?さっきまで私、楓さんの事務所にいたんだけど。傘を開いた後リボンを取ろうとして、それで……。」
目の前が真っ白になった後、私の目に
「楓さーん。どこにいるのー?いるなら返事してー。」
声をだして呼んでみたが返事はなかった。
周りはとても静かで、あたりを見渡しても誰もいない。まるで、ここには初めから私以外誰もいないかのような感じだった。少し進むと、
「ここはさっきまでいた駅?」
そこはさっき煉さんと持ち主を捜すためにきた駅だった。しかし、いくら進んでも駅の中に人はいない。
「ほんとに誰もいないの?」
そして私は、気づくと駅のホームまで来てしまっいた。すると、駅のホームにはベンチに座っている女の子がいた。ようやく見つけた私以外の人。
「ねぇ、あなたはここでなにをしてるの?」
「お姉さんわたしの事見えるんだね。わたしは、とある人をここで待ってるの。あなたも誰かを待ってるからここに来たんじゃないの?」」
女の子はそう答えた。こんな人がいない駅で一体だれを待っているというのか。
「あなたは誰を待ってるの?」
「このリボンをくれた川上さん。」
そう言って
これって……
「川上さんって会社員で男の人?」
「そうだよ。それより、お姉さんと男の人の
「会話?」
「『なんで私にも教えてくれないのよー』って言う会話。」
女の子はとても笑顔で笑っていた。腕に結んでいる黄色いリボンに、女の子が待っている人は川上さん。それに、私と煉さんの会話を知ってて『わたしのことが見えるんだね』ってことは……
「あなたはもしかして……。」
「そうだよ。わたしはね、……」
「川上さんの ’’傘’’ なの」
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