第15話 日曜日 その6

 夕食の時間も終わり、昨日は咲子1人で片付けたが、今日は一緒に後片付けをして、お風呂も順番に入って昨日と同じように部屋で過ごす。


「咲子、明日からの事なんだけど……」


「あっ、私もそれ聞こうと思っていた!」


 本当はもっと早めに言うつもりだったが、ゲームをしたり買い物や料理等で、ついつい記憶から飛んでしまっていた。


「まあ、朝も言った通り、父さんは明日からしばらく仕事に行かなければならない」


「そうだよね。でも、しばらくってどう言う意味?」


 咲子は『しばらく』の言葉の意味を知りたいらしい。


「まあ、状況次第だけど、週の後半の方は休暇が取れるかも知れない……」


「あっ、そう言う事!」


「では、咲子に家の鍵渡して置くから……はい」


「ほい! たしかに!!」


 咲子に玄関の鍵を渡す。無くさないように、余っていた適当なキーホルダーに鍵を付けて渡す。

 初日に渡すつもりだったが、何時も2人で行動していたので渡す機会が無かった。


「まあ、友達とかは呼んでも―――」


「わざわざ、呼ばないよ……」

「相手も交通費が掛って大変だよ!」


「あっ、そうか……」


 咲子は、あきれ顔をしながら言ってくる。

 まあ、当然と言えば当然だ。普段住んでいる家から、数時間掛る所にわざわざ親友を呼ぶ人も居ない。


「後、出掛ける時は―――」


「お父さん!」

「私、小さい子どもじゃ無いんだから、普段通りの事をしていれば良いんでしょ!!」


 子ども見たいな扱いをされたのが気に入らなかったのか、咲子はトゲの有る口調で言う。


「あっ、そうだね。普段通りで頼むよ。だけど、誰か来ても玄関は開けては駄目だからね!」


「どうして?」


「ここの地域も、治安が良いと言えないしね…」


「安全じゃ無いのか……」


 不安の顔になる咲子。


 誰だか判らない人に、迂闊に玄関を開けて、それで事件に巻き込まれるのは絶対に避けたい!


「咲子の身を守るためだから、居留守を使っても良いから開けないこと!」


「えっ、でも宅配便とかはどうするの?」


「今、注文している品は無いから絶対来ないよ」


「それこそ『宅配便で~す!』と来たら危険だから絶対開けちゃ駄目だよ!」


「何か、防犯教室みたい。でも、お母さんが何か送って来るかも知れないよ?」


「それも、大丈夫!」

「母さんが荷物送って来る時は、きちんと連絡入れて来るから!」


「お父さんの住んでいる町は、そんなに危険なの!?」


 脅かしすぎたか、いつの間にか、咲子の顔は険しい顔に成っていた。


「そんな事無いよ!」

「警察署も近くに有るし、近所でも大きな事件は起きていない。安全な町だよ!!」


「じゃあ、どうして、そこまで用心するの?」


「そりゃあ、まあ……」


「ちゃんと教えて!!」


 真相を知りたくて、トーンを上げる咲子。


「咲子が大事だからだよ……」


 俺は小声でぼそっと言う。


「!!!」


 びっくりする咲子。しかし、びっくり顔から笑顔に変わり……


「おとうさ~ん~~」


 咲子はガバッと俺に抱きついてくる。


「そんなに私の事心配なんだ~~。ありがとう~~」


『チュッ』


「!」


 咲子は俺の頬にキスをしてくる。


「大事にしてくれているお礼だよ!」


 上目遣いで、恥ずかしながら言う咲子。


「咲子……」


 俺の中で、何かが抑え切れない感じがした。もう『先に進んでも良いよね』の感じがした。

 俺は一瞬ためらったが、この時点で咲子を抱きたいと思ってしまう。


(俺からも咲子を抱きたい!)


 そう決意し、咲子を抱きしめようとした瞬間。


「あっ、ドラマの時間だ!」


 咲子はわざとらしく言い、パッと体を離しテレビのチャンネルを変える。


「じゃあ、お父さんの言う通り、お父さんが居ない時は居留守使うよ!」


「……うん、頼む。そうしてくれると嬉しい…」


「出掛けるのは良いんだよね!」


「まぁ、出掛けるのは大丈夫だよ。ずっと家に居ても詰まらないしな。迷子に成らない程度に!」


「大丈夫だよ。スマホの地図機能を使えば問題ないよ!」


 そう、笑顔で返す咲子。


「もう、後は無い?」


「それ位かな」


「は~い」


 生返事に近い返事をして、咲子はドラマの方に意識を向けた。


 ……


 咲子が見ていたドラマを一緒に見て、1つのドラマが見終わった後、今日は俺が先に、寝室で有る部屋に向かう。

 今日こそは、別々に布団を敷こうと考えていたが、1つの布団しか敷けなかった。何故かと言うと、さっきの事が有るからだろう。敷いた布団に俺は寝っ転がる。


(あの時、咲子がドラマの時間で体を離さなかったら、俺は間違いなく咲子を抱いていただろう…)

(そうしたら、咲子はどう捉えてくれるんだろう?)


(『嬉しい!』と言ってくれるのだろうか?)

(それとも『何するの!』と言って、拒絶するのだろうか?)


 結果的に、抱かなかった(抱けなかった)ので今が有るが……

 咲子が来てから、俺の中での咲子の存在が変わって来ている。

 親子の関係を超えては行けない事を知ってはいるが、少しずつ理性が失われつつ有る。


(布団も1つしか敷かなかったし、俺は何を考えているのやら……)


 俺は心の中で葛藤しながら、その日は眠りに就いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る