第3話 カレーライス

 家から近所のスーパーまでは徒歩で行ける圏内なので、健康の事を考えて徒歩で向かう。咲子と適当な会話をしながら、スーパーに向かいスーパーに到着する。

 2人は店内に入る……


「さて、カレーの材料のためには、まずは野菜からだ!」

「たしか、じゃがいもとタマネギは冷蔵庫に有ったから人参を買って……後、今日は舞茸まいたけでも入れるか!」


「お父さん。カレーに舞茸入れるの!?」


「そうだよ。結構、舞茸の出汁が出て美味しいよ!」


「そうなの?」

「でも、お母さんはカレーに入れたこと無いよ!」


「まあ、母さんの料理はルーチンだからな…」


「お母さん料理。普通に美味しいんだけど、同じ物しか作らないだよね!」


「母さん、あまり料理は得意ではないからな」

「手抜き料理は得意だけど……」


「だよね……。私も良く手伝うけど、野菜とか結構、大雑把おおざっぱに切ってるからね!」


「まあ俺も同じような物だから、母さんの事は言えないけどね」


「あはは」


 咲子は健気に笑う。


「じゃあ、お野菜切るのは私に任せて! 丁寧に切るよ!!」


「ならお願いしようかな」


「任せて!!」


 ☆


 スーパーでの買い物を終えてアパートに戻り、丁度、晩ご飯を作る時間に良いので、早速カレーを作り始める。

 咲子には約束通り、カレーの野菜類を担当して貰う。


「お父さん。ピーラーって有る?」


「ピーラー?」

「ああ、皮むき器のことか。そこの引出しの中に有るよ!」


「引出しの中…あっ、有った!」


 咲子はピーラーでじゃがいもの皮を剥き出す。

『シュッ、シュッ』と手際は良い方では無いが、じゃがいもの皮が剥けていく……


「咲子、ゆっくりで良いからな」


「うん。あんまり上手じゃなくて、ごめんね///」


「父さんだって、皮むきは恐いからな。自分の皮も剥きそうで……」


 咲子はじゃがいもの凸凹おうとつに苦戦しながらも、じゃがいもの皮を剥いていく。


「お父さん。じゃがいもの皮剥けたよ!」


 そう言って、剥けたじゃがいもを見せる。芽の部分もちゃんと取っているようだ。


「おっ、きれいに剥けているね。じゃあ、今度はタマネギだね」


「タマネギなら簡単、簡単!」


 タマネギの頭を少し切って、皮をきれいに剥いていく。


「お父さん。タマネギも剥けたよ!」


「じゃあ、今度は―――」


 ……

 …

 ・


 1時間位で、父と娘で作ったカレーが完成した。ご飯もしっかり食べられるように多めに炊いた。

 メインのカレーライスに、スーパーの惣菜コーナーで買ったエビカツ。

 サラダは千切りキャベツにトマトのサラダ。漬け物はもちろんだ。

 そんなに大きくない座卓の上には、2人分の料理がびっしり埋まっている。

 俺と咲子は座卓の左右に並んで座る。


「じゃあ、食べようか?」


「うん。何とか出来たね!」


「では、いただきます!」


「いただきま~す!!」


 2人揃って最初はカレーを口に運ぶ。

 咲子はカレーライスだが、俺はカレーを酒のつまみにするためにカレー(ルー)だけで有る。


「うん。旨いな」


「やっぱり、お父さんの料理は美味しいね!」


「普通に作ったつもりだけど、そう言われるとやっぱり嬉しいね」


「お父さん。何か前の時より、美味しく感じる!」


「単身赴任で、少しだが自炊をするように成ったからな」

「それのおかげかも知れないな……」


「本当に美味しいよ!」


 咲子はパクパク、カレーライスを口に運ぶ。

 本当に作って良かったと思う。


「お代わり沢山あるからな」


「うん!」


 カレーをつまみにビールを飲む。


「あ~、夏はやっぱりビールだね!」

「夏はこの瞬間のために、生きているようなもんだよ!!」


「お父さん。飲み過ぎはダメだからね!」

「体を悪くするから!」


「大丈夫だよ。ほどほどで飲むから」


「そう……なら良いけど」


 エアコンの効いた部屋でカレーを食べる。汗ばんだ体が涼しい風で冷えて気持ちいい。


 ……


「あ~、おなか一杯」

「今日は、これでお終い!!」


 咲子は少し体勢を崩して、満足そうにおなかをさする。


「俺も、おなか一杯だ。カレーはどうしても食べ過ぎるね」


 すると、咲子は急に俺に体を傾けてくる。


「ねぇ、お父さん…」


「どうしたんだい?」


「お父さんはさ。私の事どう思っている?」


「えっ!?」

「どうと言われても、可愛い娘としか言いようが無いんだが……」


「可愛いはさっき聞いた。私はその先のことが聞きたいの!」


「その先?」


「そう。私を1人の女の子としてはどうかを……」


「咲子。昼間の時もそうだったけど、何かおかしいぞ」

「娘を女として、俺は見られないよ!」


「……」


「……」


 俺と咲子にしばらくの間、沈黙の時間が流れる。しばらくして、咲子がゆっくりと低い口調で話し出した。


「お父さん……私、全て知っているんだからね!」


「今度は何を言い出すんだ!」


 咲子の急な変化に動揺して、俺は思わず声が荒ぶる。


「話して良いの?」


 咲子は真顔で俺を見つめる。そして、俺は気付く!!

 恐らく、咲子はあの事を知ってしまったんだろう。


「まさか、お前……いや、咲子」


「……」


 そして、再び沈黙が流れ出そうとした時……


「……やっぱり、いいや」


 咲子は何かを呟き、ぱっと俺から離れ、顔を『ニヤッ』としながら喋り出す。


「お父さん、ごめんね。ちょっと意地悪したくなった!」


「意地悪?」


「うん。お父さんの困った顔が見たくなった!」


「えっ、何でそんな事するの!?」


「だって、ずっと、私に気を遣っているでしょ!」


「まっ、まあ、そうだけど……」


「私、気を遣われるの好きじゃないの! 娘でしょ!!」

「だから、気を遣わなくても良いように、こうしてあげる!!」


 咲子は急に俺に抱きつく。


「わっ、ちょっと咲子…」


「おりゃ、お父さん。やっぱり大きいね!」


 俺の腰辺りを両手で『ギュー』と抱きしながら、咲子は顔を見上げる。そして満面の笑顔で!!


「私ね、お父さんの事好きだよ…」


 その言葉と娘の笑顔で、急に胸の鼓動が早くなる。


「改めて、1週間位だけど、よろしくね! おとうーさん!!」


「あっ、あぁ……」


 俺はその言葉しか返せなかった。


 あの後、食器の片付けを咲子は急にし始め、俺も手伝おうとしたが『お父さん。私に任せて!』と言われ部屋でテレビを見ている。

 テレビは歌番組が流れていて、軽やかな曲が聞こえてくる。だが俺はテレビに集中出来ず、まだ胸がドキドキしてる。


(抱きつかれた時の感触がまだ残っている気がする)

(幼い体つきでも、やっぱり大人なんだな…)

(それより、あの事を咲子が本当に知っていたら、俺は我慢出来るのだろうか……)


 咲子が晩ご飯後に言った言葉。


『私、全て知っているんだからね』


(出来れば杞憂で有りたいのだが…)


 父と娘の短い共同生活。

 自分自身でも先が全く見えないまま、ゆっくりと就寝の時間が近付いていた。

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