第4話 ドキドキ初夜!? その1

 夜もすっかり更け、深夜に入ろうとしている。

 そして、咲子はテレビドラマを見ている。

 普段のこの時間なら、俺はもうとっくに布団に入っている時間なのだが、咲子が起きている手前それがしにくい……


「ふぁ……」


 俺がしたあくびに咲子が気付く。


「お父さん。眠たそうね!」


「んっ、大丈夫だよ。明日は休みだし…」


「そう!」

「でも、ドラマも終わったし、私はそろそろ寝ようかな?」


 俺に配慮したのか就寝をちらつかせる。

 そろそろ本当に寝たいと感じていたし、渡りに船だ。


「なら寝るか~~」


 俺はあくびをしながら言う。


「そうだね!」


 俺が今住んでいるアパートは、部屋が3部屋有る。

 南側の部屋を居間として使っており、真ん中の部屋は台所。北側の部屋を寝室として使っている。

 寝室にしている北側の部屋に向かい、そこに有る押し入れから布団を出す。


「父さんは居間で寝るから、咲子はここで寝てね!」


 咲子用の布団を敷きながら話す。


「えっ、お父さん居間で寝るの?」


「そうだよ」


「ここで寝ようよ!」


「えっ……でも、昼からずっと一緒だっただろ?」

「咲子も女の子だし、1人の方が良いだろう?」


 俺は自分の布団を持ち上げながら言う。


「私は大丈夫だよ。それに私はお父さんと一緒に寝たいの!」


「本当に良いの?」


「いいよ!」


(良く分からんが甘えたいのかな……)


「なら、一緒に寝るか」


「うん。そうしよ!」


 俺はその隣に布団を敷こうとしたら……


「ねぇ、どうせなら、1枚のお布団で寝ようよ!」


「1枚? 一緒に寝るの!?」


「ダメ……?」


 咲子は『モジモジ』した顔で言ってくる。


「駄目ではないけど、夏だからエアコン効かせても暑いぞ!」


「大丈夫だよ!」


(まっ、良いか…)


 ……


「じゃあ、電気消すぞ…」


「うん!!」


 照明用リモコンで、照明を常夜灯に切り替える。

 1人向けの布団で2人寝る。


「やっぱり、少し狭いな……」


「そう? 私は丁度良い感じだよ!」


 部屋の空気はエアコンで冷えるが、真横から直に来る人間の体温は、熱気と感じるくらいだった。咲子はクルッと俺の方に体を向ける。


「お父さん!」


「どうした?」


「!!!」


 咲子は急に俺の手を握ってくる。


「お父さんの手、大きいね……」


「……大人だからな」


「ゴツゴツしていて格好いいね!」


「褒め言葉?」


「そうだよ、褒め言葉だよ!」

「それに比べて私の手は……」


 握っていないもう片方の手で、咲子はすり付けるように俺の手をさすってくる。


「苦労していない手だよね……」


「その年で苦労な手していたら、可哀想すぎるよ…」


「私、大切にされているんだよね……」


「当たり前さ、大切な娘なんだから!」


「娘か……」


 咲子は俺に更に近づく。


「大切にしてくれてありがとう!」


「!!」


 咲子は俺の頬に急にキスをしてくる。


「咲子…」


 常夜灯の中だが、それでも咲子の笑顔は、はっきりと見えて俺をジッと見つめている。一瞬だったとは言え、柔らかい唇の感触がまだ残っている気がする。

 俺の心臓は急に鼓動を速め、その所為か体全体が熱くなってくる。


(完全に油断していた。やばいな、このままだと事案発生だ!)

(どうにかして、この状況を切り抜けなければ……)


「お父さんとキスするの、きっと初めてだよね……」


「そうだっけ?」

「覚えが無いな……」


「そうだよ!」

「最近、お父さんと一緒に居た事無いよね」


「そうか……?」

「まあ、ここ数年は忙しかったからな」


「じゃあ、今夜は一杯甘えてね!」


「? 誰に??」


「私だよ! 他に誰が居るの!!」

 

「咲子に甘えても仕方ないよ…」


「何で!!」


「咲子は咲子だからな。ほらいい加減寝るぞ!」


「……お父さんのバカ」


「ん。何か言った?」


「何でもない。おやすみなさい!」


「おやすみ。咲子」


 そう言いながら俺は咲子の頭を撫でる。


「!!!」


 予想していなかったのか、咲子はビクッと体を跳ねる。


「ちょ、ちょっと、急に頭を撫でないでよ!」


「えっ、でも、頭撫でられるのは好きだっただろ」


「そりゃあ、悪くはないけど、一言言ってよ!」


「頭撫でるのに『今から頭撫でます』なんて言うもんか?」


「言わないけど、私にだって心の準備が有るんだから……」


「あー、そりゃあ、すまんかった」


「本当だよ。嬉しかったけど……」


 と言いながら、咲子はタオルケットを頭から被ってしまう。


「咲子が気を遣ってくれて凄くうれしいよ。短い間だけど仲良くしような」


「……」


 咲子からの返事は直ぐには来なかった。


(仲良くなんて、私はその先を望んでいるんだよ)

(お父さんは私のアプローチに気付いていないのかな。それとも、気付いていてその態度を取っているのかな?)

(今日の所はここまでにしておこう。まだ、チャンスは有るんだし)


 私は、少し不機嫌そうに『おやすみ』と言った。

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