第7話 予期せぬ客人

 「‥おい、仮にも神の力だぞ?

なんで傷一つ付かねぇんだよ、なぁ。」

神器を遮断する力でも有しているのか、幾ら形状を変えても鎧は磨かれるばかり。


『何かカンチガイしてナイ?

ボクも神器を使っテル、神の力で造られた兵士タチなんだケド、それワカッテル?』


「同じ力って言いてぇのかよ..?」

だとすれば隔たりがあり過ぎる、オンラインで戦歴を残すなら随分と差がつくだろう。


「一体でこんなにヘバってんだ、四体なんて無理に決まってる。バカにしてんのか」

自分の撒いた棚がまさかここまで成長するとは思ってもみない。水も大してあげた覚えは無いのだが、過剰成長だろうか?


「取り敢えず逃げるか、どうすりゃ...よし。

これでもくらいやがれ!」

大砲の形も成した右腕の銃口から、ゆっくりと大玉が放たれヘヴィナイトの顔付近に迫る。大玉は顔の目の前で破裂し鋭い光を放った。


「閃光弾だ!

今のうちに逃げてやる、扉開かねぇけど!」

 取り敢えず距離を取り通路内で隠れ場所を探す。無謀ともいえる選択は、ナイトの観察をする為だ。探索方法や動きの傾向を探り、戦い方の種類を増加させる。


「シラフで歩いてりゃ見つかるな..天井か?」

右手を天井にかざし、張り付く。

天井を移動する思い付きの発想だが、見事に形にしてくれた。付着物のように少し粘ついた右腕がくっ付きながらアトムの身体を固定してくれる。


「一旦剥がしてくっ付ければ移動も出来るな」

正直、ナイトが目で追っているならば上を向かれればアウトだが、他の探査方法なら利便性は高い。真上からの奇襲も出来そうだ。


「っても出来りゃ来るなよ?

..よく観察してぇんだ俺はお前らの事を。」

今は情報が欲しい、戦闘はいらない。

というより可能であれば戦闘はもういらない。


『………。』

と、言ってる側から二つの鉛を引きずり歩くナイトの姿が。すぐ近くを歩いているがこちらには気付いていない。体温感知や気配感覚での探索では無いようだ、だとすれば目か、匂いや他の類いだろうか。


(こっち向くなよ..)

息を潜め気配を殺す。空間にはただ、金属の身体を擦る嫌な音だけが響く。


『……!』 (なんだ?)

アトムの真下を通り右端から左側への曲がり角を曲がる最中、何かに強く反応し身体の向きを変える。


「すげぇ速さで左に行った..あいつ、音か。

自分以外の音に反応して動いてやがる。」

ボウガンを構えた際の声や機能音、走った時の足音、ナイト以外の音を感知し進むようだ


「…待てよ、俺以外に誰かいんのか?

まさかくげの奴、ここまで降りてきたのか」

だとすればくげが危ない。

アトムは天井を這いつつナイトの向かった方向へついていく。大きな音がたたないように気をつけながら進んでいくと、ナイトは既に四体集まっていた。全員が音に反応し、同じ位置に集結したようだ。


「ん〜何コイツら、邪魔なんだけど。

それとも遊んでほしいわけ?」


「..誰だ、あいつ..。」

丈の合わないだるだるとしたパジャマのような見窄らしい学校で完全に脱力した青年が、四体の屈強なナイト相手にあくびをしている


『……!』 「へぇ、殴ってくるんだ。」

大きな鉄球の拳を振りかざし、青年を狙う。


「助けるか..⁉︎」

助太刀も考えたが確実に間に合わない、既に拳は青年を潰す段階にある。


『……』

青年はしっかりと叩かれた。丸い鉛の下敷きになり、跡形も無くなっているだろう。


『……!』「なんだ..?」

振り下ろした拳が腕形切断される。千切ったようなざつなものではなく綺麗な断面を残し、意図的に〝切除〟されたような切り口で。


「しつこいからパーツ貰う事にしたよ、それにしてもすごいパワーだ。..なんてね」

青年に傷は無く、傍に大きな黒い箱が置いてある。おそらくあそこにナイトの腕を収納してあるのだろう。


「ヴェイジャアの奴ずるいよな〜、一人だけラクな方取っちゃうんだもん。お陰で無駄に〝能力ちから〟使う事になったじゃんか」


「あいつ、神憑きか..。」


「んじゃあお願いゴヴニュ、焼き尽くして。」

箱が上からオープンすると中から金属の龍の首をが現れナイト達に炎を放射する。

四体は一瞬で灰となり、鉄屑と化す。どうやらあの箱に入れたものは、強化された武器となり、外へ召喚されるものらしい。


「..なんだよ、誰もいないじゃん!

つまんな〜、先帰ろ。」

散々燃やし尽くした後は用済みと言わんばかりにあっさりと帰っていく。元々大した用事があった訳では無いのかもしれない。


「…ん、なんだこれ?

いなないわ、捨てちゃおっかなー。」

何かを雑に床へ投げた、青年は何処から入ってきたかもわからない力ずくでこじ開けた入口を出口とし、何処かへ消えていく。


「なんだったんだ、あいつ?」

粘着性の腕を解き青年がいた箇所へ近付くと床には鍵が落ちていた。ナイトが持っていた鍵が燃え残ったのだ、これで扉が開けられる。


「何者なんだあの男は?

..ていうかどこから来たんだよ」

歩いていった方向に進んでみると壁がある。

破けた箇所を修復したような痕跡があり、逃げ出すのを考慮してピエロが後から細工をしたのだろう。どごでも逃してはくれない。


「..まぁいいか、鍵使お。」

出口が無いなら出来るまで待つ、今やれる事は箱を探す事、それしか無い。


「一旦戻るか」

来た道を引き返し右側の通路へ、1番先に見える扉に鍵を刺すとくるりとノブが回った。


「開いた、てか暗っ!」

部屋へ入ると真っ黒の闇、光が何一つ無い。


「どっかに灯りが無ぇのかよ?」

手探りで壁を叩くと、何かでっぱりのようなものに触れる、何かのスイッチのようだ。強く押し込んでみると、部屋に光が差す。どうやらライトのスイッチだったようだ。


「‥何も無ぇなら電気つけとけ。」

仕切り直して箱を探す。

以前の本棚程複雑では無い。三つの机が並んでおり幾つか付いている引き出しの中に箱が眠っているのだろう。


「……真ん中かよ、面倒だったのか?

随分手ぇ抜いたなこの部屋はよ。」

箱を開ければ当然のようなハズレ、ここまで付いててテンプレートな展開である。


『ザッンネーン!ハズレだよ!

またタイヘンな目にアッちゃうネー!?』


「当たり引かすつもりあんのか?」

答える訳も無く、はぐらかし勝手に消えた。

別れの挨拶も無しに一方的に通信を切るサマはまさに外道といえる。


「‥今度は何だ?

でかい鎧の次はでかいなんだよ、頭か?足か」


大きな音が近付いてくる。

足音には聞こえない、軽いが響きがいい。

人では決して出ない筈の音。


「……おい、そんなんありかよ」


『キシャーッ!』

翼をはためかせた飛行兵が六体、奇怪な鳴き声を上げて迫り来る。


「ふざけんなピエロこの野郎っ!!」

追いかけっこは吹き荒ぶ嵐を呼んだ。


➖➖➖➖➖➖


 「…誰、アナタ?」

 大量の死体が消えたかと思うと見覚えの無い男が現れた。紳士服に手袋といった表面上を気品よく振る舞う細身の男。


「お初にお目に掛かります。私、ヴェイジャアと申します。素性は、詳しく話さなくとも御理解頂けますよね?」


「…どうせ〝似たもの同士〟でしょ?

いいよ、かかってくれば。どうせ余計な事したがるんでしょうし」

初対面の眼前に矛の先端を突き立てる。敬意を表するに値しないと容易に判断できる相手だ、礼儀を重んじる必要はまるで無い。


「話が早くて有難い限りです。

..貴方は邪魔なので、死んで頂きます」


「……下品ね、アナタ。」

やはり見かけ倒し、神に身体を開け渡すような奴が品を持ち合わせる訳が無い。問題は、どこまでその神様に侵食されているか。


「死ねたらもっと昔に死んでるわよっ!」


「遅れた葬式を開催して差し上げましょう。」

眼球の黒目が紅く変色する。

突き上げる矛をギリギリで躱し完全に見切った。身体的な技能ではなく確実に目で見、その後に身体を動かし余裕を持って躱したのだ


「視えていますよ、総てね。」


「アポローンに近い能力かしら?」


「同じにしてはいけない。貴方は予言、私のそれは未来の予知です」

予測ではなく完全な把握、争う術は何も無い


「眼を差し出したと思っていますか?

違います、ウーラニアーは私の〝視神経〟を支配している。眼球そのものは私自身です。」


「結局は神が宿ってるんでしょ、どこだっていいわよ停泊先なんてねっ!」

再度矛を振り突き上げる。しかし同じ軌道で優に躱され先程と同じ未来を辿る


「御理解頂けましたか?

彼女は未来を見通すのです。何かご自分の考えがお有りかもしれませんがそれは確実に..」


「うるさい。」「‥はい?」

ヴェイジャアの紳士服の右腕が裂ける。開いた亀裂から血が吹き出し、綺麗な黒が汚れた赤色に染まる。


「なんだと..?」


「アポローンが未来の予知を予言できないと思ってるのかしら、彼は私の中で200年の歴史を見てるのよ?」

たかが近くの未来予知など、くげに比べれば範囲も規模もまるで足りない。アポローンは歴史と夥しい時を超え、粗方の未来の姿が想像出来るようになってしまっていた。


「一度目は予想外よ、なにせどんな力か知らないんだもの。理解したら後は簡単よ」


「成程、面白い事を言いますね..。

ならばらどこまで予言出来るか見せて頂きましょう、江戸から参ったお姫様..」


「ただの町娘よ..。」

家が腕の良い反物屋だったので裕福であったが実に普通に暮らしていた。神が身体に宿り始める前は。


➖➖➖➖➖➖


 地下の鳥ははためき唸る。窮屈な空は怠慢を生み、余計な事を促進する。鎧が人を喰らう姿など地上で見たことが一度でもあるか?


「ふざけやがって..前より硬ぇんじゃねぇか⁉︎

刃がたたねぇどころじゃねぇぞ!」

矢も銃も斧も通用しない、加えて数まで増している。勝ち目など到に見えていない。


「何か他に試してねぇ手はあるか?」


『ピギー!』「うわ、やめろバカ!」

口から放射された砲弾がアトムを狙う。刀で斬り落とす事は出来るが爆散し部屋を傷つけかねない。仕方なく大振りの盾を創り強い衝撃を受けながら防御に徹する。


「痛ってぇ!ふざけんなトリナイト!

口から大砲なんざ反則もいいとこだろ..」


『ピギー!』「‥おい、ウソだろ⁉︎」

次なる砲弾を舌の上に既に準備している、今回は連弾で四発。


『ピギー!』『ピギー!』『ピギギー!』


「わ、やめろテメェら!

ここぶっ壊す気かよ、口閉じろっての!」

触発された残りの五体も同様に砲弾をセットする。当然の事だがこれらは全てアトムに向かって砲撃される。


「マジで殺す気じゃねぇかよ、どうすんだ。

..待てよ、あの部屋...」

最後に入った部屋での出来事を思い浮かべる行った事、通常よりも異なる状況下。


「..まだこのやり方を試して無かったな」

右腕を変形、先が二又の頭となり、間からは電流が流れている。


「まとめて痺れろ!」

スタンガンの要領で電撃を放射し飛んでいる鳥たちを一斉に攻撃する。鳥たちは徐々に麻痺していき、羽ばたきを弱め床へ倒れていく。


『‥‥ピ...』


「やっぱりだあの部屋、一つずつ次の強化へのヒントになってる。部屋の電気が初めは消えてた、態々俺に電気を付けさせたってのは弱点を伝えてたんだな。」

1番初めに入った部屋は本棚の部屋でありアトムは風を起こしたが、本来の正しいヒントは〝燃やせ〟という事である。


「あとは、どいつの中に鍵があるかだな。

..今更抵抗しねぇよな?」

近くに倒れる鳥の頭を掴み持ち上げ電流を流す。トリは小刻みに揺れると、やがて焼き切れ頭を破壊される。


「コイツじゃねぇか、よし次だ」

二体目の頭を持ち上げ破壊、その後3人目を持ち上げ破壊、これを四人目まで継続した。


「なかなか出てこねぇなぁ、よしもう一回」

五体目の頭を雑に踏み潰す。

見栄えの悪い破損をした顔は空洞で、本当に鎧のみが動いているようであった。


「最後か、いただくぜ?」

顔に腕を突っ込む、するも中心に何か冷たいひっかかりを見つける。


「‥ん、なんか持ってんな」

手探りで指先を動かすギリギリ触れる程度の位置にそれはある。


「鍵‥だよな?」

形状から察するに完全に鍵だが何故いちいち頭の位置に埋めるのだろう。


「いつ俺は地下から出れるんだよ」

日差しも無ければ希望も無い、そんはところに活路を見出せというのだろうか?


「ぜってぇアタリ見つけてやる..!」

男は燃える。


➖➖➖➖➖➖


 「そらっ!」「やはり読まれるか..。」

お互い譲らぬ攻防。攻めるヴェイジャア、追いつくくげ、隙を突くくげ、躱すヴェイジャア。


「もうヘバったの?」


「冗談、勘違いをしないでくれ。

あくまで予言ではなく予知だと気付くべきだ」


「未来予測は疲れるわね。」

ヴェイジャアの足元から水柱が飛び出す、予知に反してまんまと呑まれ取り込まれる。


「あら、予知しきれなかったかしら?

それもそうよね、だって〝新しい〟もの」


「どういう事だ!?」


「アポローンは予言者と共に医療の神でもあるの。だけど医療技術って万能よね、使い方によっては〝ヤブ医者〟って言われるもの」


新しく出来た床に新しい現象、医者は治すと共に施すのも仕事。


「創り変えたのか、地形を..!」


「アナタのいる箇所だけね、あんまりイジると大変だから。」


「しかし神といえど完璧ではない。水を生み出し操るなど不可能だろう!?」


「出来てるじゃない、さぁ問題です。

一体それは誰の能力でしょう?」


「くぅっ...!」

〝神といえど完璧ではない〟

これは同時に、己の弱点を教えてしまった事にもなる。知らぬ間に彼は墓穴を掘った。


「‥終わりかもね、アナタ。」

水柱に近付き矛の先端を向ける

水は徐々に温度を下げ、氷へと変形している。


「ぐ…私は、砕かれるのか..?」


「察しがいいわね。.,でもその勘の鋭さが、逆に己の判断を鈍くさせてるのかも。」

眉一つ動かさず矛を振り下ろす

まさに氷の如く、冷めた心無い所業。


「‥さて、アトムはどこかしら。」


「ねぇ〜、何やってんのさぁ?」


「…!?‥誰!」

アトムの声じゃない、砕け降り注ぐ氷のカケラの向こうに人影が見える。人だけではない大きな四角いシルエット、角のある重み。


「何者よ、アナタ。」


「誰だっていいでしょ。君はいいよ、別に知らなくてさ、興味ないし別に。」

疑問を軽くあしらわれ、興味が無いとまで言われた。こちらには一切の関心が無いようだ


「それよりさぁ!どういう事これ!

君が余裕だって言ったんだよね、何しらばっくれて上野さんヴェイジャア!」

怒りを滲ませつつ箱を叩くと、砕けた筈のヴェイジャアが中から蓋を開けて飛び出した。


「申し訳御座いませんノア様、判断を見誤りました。」

ヴェイジャアには傷一つ付いていない、箱に治癒能力でもあるというのか。


「もういいよ、帰るよ?

地下潜ったけどなんか居なかったし、アイツ」


「いなかった?

まさか、そんな筈は..」


「いなかったよ、また見誤りました?

ミスし過ぎだよおっちょこちょいだなぁ。」

男の頭をげんこつし、子供のようにイライラとしている。こんな男がなぜ〝様〟などと呼ばれているのか、不思議で仕方なかった。


「アイツって誰、アトムの事?」


「..何、誰でもいいって言ったよね?

しかもいなかったし、質問しないでよ!」

執拗に怒っているのはやはり機嫌が悪いからか、くげは敢えてそれに踏み込む。


「目的は何?

..足りないものを補おうとしてるのかしら」


「それ、未来予言ってやつ?

根掘り葉掘りが好きだよね君さ、それとも君が代わりにでもなってくれんの?」

ここで大きくくげが動く。


「サードステージにピエロがいる。

園内であった怪物も仕掛けもソイツの仕業、園内全体を操って支配しているの」


「園内全体を支配?

へぇそこまで...面白いじゃん。そのサードステージっていうのはどう行くのかな?」


「これ」「ん〜?」

男に鍵の半身を投げ渡す。


「それともう一つ、パーツ有ればくっ付いて鍵になる。それがあれば、扉が開く」


「ヴェイジャア」「はい、只今。」

眼に力を込める、神器を発動しているのだろう。鍵の在処を、パーツの一部を把握する。


「どこにある?」「……。」


「ヴェイジャア?」「地下室です..」


「え〜またぁー?」

箱に腰掛け諦めた、もう一度地下へと潜る労力は彼にはもう無い。


「地下にいらっしゃいますよ。」


「え、まだいるの?

じゃあソイツにやらそうよ〜。」

活発に動く人間の存在を感知、探し求めていた人材は未だ園の地下から抜け出す事が出来ないでいた。


「誰がいるのよ?」


「…言わなければわかりませんか。」


「まさか…」

まさかも何も奴しかいない。


➖➖➖➖➖➖


 暗い部屋

 モニター越しに頭を抱える男が一人、狼狽えながら歯軋りをしている。


「なん...だっ!

人が....多すぎる..呼んでないっ!

こんなにも..呼んでない、呼んでないっ!

呼んでない呼んでない呼んでない呼んでない

ゼッタイ…呼んでないっ..!」

近くの机に置いてあるぬいぐるみを手で弾き落とす。表面に爪が触れたようで腹が裂け、中から綿を溢れさせる。


「僕の聖域を荒らすな..!!」

男は一人、暗い部屋で発狂し続けた。


➖➖➖➖➖➖


 『ザッンネーン、ハッズレー!』


 「お前ぇ..ふざけんなよ..⁉︎」

何度目の失敗だろう、考えるのも嫌になる。

己に責任を負担させ続けるシステムによってストレス並びに怒りが募りに募る。


「今度は何だコラァッ!」

どんと来いと堂々と扉を開ける。

和が増そうが翼が生えようが最早動じない、慣れというものは精神を強靭とさせるものだ。


『見せてあげるヨ!

ホラ、今回のオアイテだヨ!』


「……ウソだろ?」

数は一体。右腕にソード、左腕は鉛の鉄球、背中には翼が生えている。長身はおよそ、ヘヴィナイト三体分といったところか。


『超パーフェクトナイトオリジン!

これを倒せばアタリに近づくカモ!』


「嘘ばっか付きやがる、完全に息の根止める気じゃねぇかテメェッ!」


『オリジンビーム!』「うおっ!」

開いた口から光熱波が放射する。咄嗟に盾で防いだが、腕を元に戻した後も暫く熱が伝わった。モロに受ければ塵となるだろう。


「ちゃんと喋るなっ!」


『オリジンカッター!』

翼の間に窪みが生じ、円状の刃が回転しながら飛んでくる。軽いステップで牽制し、避けようと試みたが僅かに触れてしまい、脇腹と左肩に傷を付けた。


「痛って、ずっとこんな調子か?

やってらんねぇぜ長い事」


『オリジンビーム!』「またかよ!」

大きな盾で防御、重量を支える為両手を使う。嫌が応にも身体は隙だらけだ。


『オリジーンスラッシュ!』

ビームを放ちながらのソードによる斬撃、両手を塞がれている為受け身を取れず、衝撃をモロにくらってしまう。


「ぐお..!」

当然だが右腕以外は普通の人間、血が出れば痛みも伴う。神に身体を捧げても傷は付く、神頼みなど大した恩恵は受けられないのだ。


「偉い事してくれたなガラクタ野郎..俺は最近成人したばっかりだぞ?

酒もまだ呑んだ事無ぇのに殺す気かよっ!」


『オリジンビーム!』

殺す気だそうだ。


「このままじゃホントに危ねぇ、どうする。

思い出せ..最後に入った部屋の特徴を...!」

完璧超人に弱点などあるのだろうか。

最後に入った部屋にあったのは机とベッド、実にシンプルなつくりであった。箱は机の引き出しで見つけた。


「何も無ぇじゃねぇかっ!」

弱点は無い、そういう事か。ピエロの意地が悪い事は知っていたが、ここまで隙の無い悪人だとは思わなかった。


「‥仕方無ぇ、気は進まねぇが..」

戦う事は諦めた。〝一人では〟


『オリジンビーム!』「あっちむいてホイ!」

ビームを放つ頭を思いきり小突く

超人ナイトは拍子に下を向き、ビームを出し続ける。止まらないビームは勢いを全て下に向け放ち、超人の身体を持ち上げる。


『オロロロロロ...!』「打ち上がれ、超人!」

シンプルなつくりの部屋から得たヒントはそのまま文字通りシンプル、単純に頭を殴れという事。右腕の形態も単純に頭を殴りやすい凶器の形、そう〝バールのようなもの〟だ。


『オリジンビームッ..!』

地下室の天井を突き破り空へと打ち上がる超人ナイトオリジン、アトムもその後を追う。


「よし。右腕、俺を外へ上げてくれ。」

腕をバネ状に変形。

体重を掛け、一気に跳び上がる。


➖➖➖➖➖➖


 「……来る。」「ん〜、マジでー?」

ヴェイジャアが何かを察知する。

耳を澄ますと確かに、微かに音が聞こえる


「..何が来るっていうのよ?」

音はどんどん近くなり、やがてパークの床を突き上げて大胆に姿を晒した。



『オリジーンッ!』「ロボット!?」

拳を高く突き上げて煌めく太陽に挨拶を交わす。その後究極超人オリジンは目の前の小さな青年をターゲットとし、ビームを繰り出す。


『オリジンビーム!』


「‥なにそれ、遊びたいわけ?」

 穴が空き、崩れた床の瓦礫を一つ握り、小さな黒い箱に入れるとしなりのある剣に変わり青年の腕によって振るわれる。剣の斬れ味は凄まじく、ビームを両断しそのままナイトを粉砕する。


『オ…ガ‥ガピピ...!』「おーしまい。」

砕けた身体から、鍵の形のピースが飛び出す


「お、みっけ。

..もうちょっとズレてたら壊れてたね」

欲しいものは自分の手で、それが一番心地が良い事を今しがた理解した。



「とうっ!」「え、アトム⁉︎」

遅れて穴からアトムが登場、しかし既に超人は跡形も無くなっている。


「あちらですノア様」


「ん、え〜?

アッチの事言ってたの、もう手に入れちゃったからいいよ欲しいもの。アイツはあーと!」


「お前‥あん時のバケモンかっ!?」

地下で何体ものナイトを一遍にスクラップにした超力のトンデモ男がまたもナイトを一人で潰した。瞬間までは見ていないが想像は出来る、確実に奴が最後の砦を破壊した。


「‥どっかで遭ったっけ?

まぁいいや、どうせまた会うだろうし。」

適当に呟きながら手元のピースを重ね合わせる。ピースは一つの鍵となり、サードステージへの入り口を指し示した。


『おめでとう!

サードステージへの鍵を手に入れたんだね!

..ていうより君たちはだれかな?』


「ヴェイジャアと申します。」


「ノア‥ってまぁ名前はいいか、君に興味があるんだ。神の能力にね」

遊びの青年神ヘルメースのダンジョンを突破し今度は何に挑むのか。


『いいよ、入っておいで。

..ただし一人でね、鍵を持ったお前!

サードステージは選ばれし者しか入れない』


「いいね、選ばれし者♪」

目の前に出現した扉に鍵を差し込む。鍵の持ち主であるノアは別の空間に飛ばされたように唯一人部屋の中へ。


「行っちまった..」


「‥ノア、アイツの目的は何?」


「教えて差し上げましょうか」

ヴェイジャアが誘い文句でへ近付いてくる。一時警戒をしたが神器を発動していない。瞳の色が黒いまま、こちらに危害を加えるつもりは無いようだ。


「誰だおまえ?」


「ヴェイジャアと申します、以後お見知りおきを。ノア様とは、そうですね..側近といったところでしょうか?」

あくまで部下では無いらしい。近くに佇む、右腕とでもいうつもりか。


「ノアは何者」


「..ノア様は.非常に退屈しておられます。

力が存分に出せないと、パーツが足りない、もっと手足が必要だ、とね。」


「手足が必要..?」

今は本来の姿ではない、完全な身体になるには力を拾い集め蓄えねばならない。


「どういう意味だよ」


「わかりませんか?

貴方もパーツの一つだというのに。彼は力を欲してる、神の…力をね。」

憑かれた箇所が欲を侵食する、人である事を徐々に忘れて成り代わろうと邪魔をする。


「‥まさかアイツ、神器を?」


「御名答、ノア様は人の神器を狩り宿主を変える事で完全体になる事を望んでいる。」

神を宿す者を狙っては〝神器狩り〟を行う事で自らの力を高め強化する。ヴェイジャアは便利な観察眼として横に置いている。


「神器狩りだぁ⁉︎

なんで俺の事狙ってんだよ、アイツは」

他にも神に憑かれた者はいる。その中で何故アトムなのか、戦力ならばくげの方が上だ。


「それは…」


「はぁ〜ただいまぁ。待たせちゃった?」

タイミングを見計らったように扉が開いた。


「おかえりなさいませ、ノア様。」


「待ってないよね?

..そりゃそうか、直ぐだったもんね」

なにか大きな音がした、物を打ちつけるような鈍く耳障りな男。


「ひっ..!」「おい、ウソだろ...」

ノアの足元、床には血が滴りピエロの面が半分脱げた傷だらけの男の姿が横たわる。


「口だけのヤツってつまーんないっ。」






 

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