第16話 相克
「あなた彼のなんなの?
「なんのつもりよ。あたしは最上級戦闘職なのよ!こんなことしてただで済むと思ってるの?」
リラさんは今まで見たことのないような怖い表情を浮かべるとアゲハを地面に埋めた。
アゲハ喚くがどうにもならないようで、顔だけ地面から出すような形で彼女を睨みつけている。
「質問に答えて」
「質問? そこらの生産職と同じでいくらでも替えの聞くちり芥としか思ってないわよ」
「あなたが最低の屑だっていうことはよくわかったわ。そのまま埋まってて頂戴」
「ふざけるんじゃないわよ。私にこんな屈辱を」
リラさんがそう言い置くと、アゲハは何とかして逃れようとし始めた。
だが顔を赤くしてもがいてるようだが、土の構築が固すぎるせいかどうにもならないようだった。
流石に可哀そうだと思ったが、解放してまた暴れられても困るのでしばらく放っておくことにする。
そう決心するとアゲハが来た方角と同じ方向から貴族然とした男性が歩いて来た。
「これだから亜人は。ナンセンス極まりないよ」
リラさんが揶揄するような発言にムッとして男を凝視すると、アゲハとよく懇意にしていた貴族の男だと気づいた。
男は片手に何か水晶のようなものを持っており、鑑定眼が反応する。
プレミアム鑑定石
レア度:星6⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
……鑑定のほかに持ち主の一部を持っていればそのものが居る場所まで知れる。直接の本人がいなくとも本人の体の一部だけでも鑑定を掛けることが出来る。
効能:鑑定(超)
鑑定石の中でも別格のものをこの貴族の男は持っているようだ。
なんのためにこの鑑定石を使ったんだろうか。
一つの線として考えられるのは、アゲハに頼まれて僕のいる場所を調べるように言われたことだ。
それならばこんな辺鄙なところまで来る理由になるし、わざわざ話かけてきた目的もわかる。
「あなたは一体誰なんですか?」
「僕はアリアンハルデ帝国第一王子チャールズ」
貴族然とした男は長い金髪を後ろに流すと恭しく礼をした。
だが背筋はそり過ぎなせいでひどく不格好なものになっていた。
なんとなく彼がこちらをどう捉えているのかはその態度からよく分かった。
「おやおやこれはおろかにも僕と操を建てようとした亜人じゃないかあ」
チャールズが意地の悪い笑顔を浮かべるとともに、リラさんは一歩後退いた。
「チャールズ……!?」
チャールズが言葉を吐いた時点で相手が何者か大体は把握したが、リラさんの反応でこの男が例の婚約者であると確信した。
理解した瞬間にかねてからこの男に対して溜まっていたヘイトが一気に僕の中で膨れ上がった。
「いきなりな挨拶ですね。かつての婚約者に対してその物言いをするとはよほど余裕がないように見えますよ」
「ふ、何か卑しい者がほざいているな。どうしても格の違いてヤツを教えられたいらしい」
奴はキザッたらしく剣を引くとこちらに大きく掲げた。
光竜の光を何倍にも薄めたような細々とした光が剣から生じていた。
最後の層で見た勇者の光よりも、その光は弱弱しく小さかった。
大したものではない――僕の中で神域で戦った経験からそう導き出していた。
「あまりの神々しさに言葉も出ないようだね。それもしょうがない、僕は選ばれし勇者なのだから。賎民の君たちにはあまりにもこの光は眩しかったようだね」
余りにも滑稽な光景だった。
神々しさのかけらもなく、ただただ野蛮人が天に剣を掲げて喜んでいるようにしか見えない。
リラさんも同じなのかひどく白けた顔でそれを見ている。
こんなものに誰が神々しさを感じるのだと思うと目の前に一人だけいた。
「チャールズ様、さすがですぅ」
アゲハはわざとらしく感嘆の意を示して黄色い歓声を送っている。。
酷い光景を僕は今目の前で見せつけられている。
「ほら何か言ったらどうだ? 賤民の君たちにはこんな祝福の光は出せないだろうな」
チャールズはそれに気分を良くしたのか喜色を顔面に生じさせるとそんな言葉を口走った。
どさくさに紛れてリサさんを否定されたことが非常に腹立たしい。
「そうですね。そんな祝福の光は出せませんが、これだけの祝福の光なら出せます」
俺は奴が持っている聖剣の原本たるものを取り出して、展開する。
「
「うっ!?」「きゃあ、何よこれ!」
目の前でまばゆい光がつつみ、チャールズ達の目を潰した。
圧倒的な光量で白昼の草原を白く染め上げていく。
アンデッドなどの攻撃する対象がいないのに無作為に展開するのは危険だ。
カチンときたとは言え流石にやりすぎだったかもしれない。
「
光が収まって消えるとそこには真っ赤にしたチャールズの顔があった。
羞恥半分、怒り半分といった彼の内心が嫌が応でも俺には伝わってきた。
「ちょ、調子に乗るなよ。たかだかそんなチカチカした光がいいだけでこの僕より上だと勘違いしているだろうお前!?」
チャールズは自分のアイデンティティを傷つけられたためか、半狂乱になって怒鳴りつけるてくる。
言い終わった後にハアハアハアと荒く息をつくと、チャールズは自分が取り乱していることに気づいたのか、微笑を作り、さも余裕があるような表情を作った。
「ふう、いや今のはまあボンクラにしては称賛に値するだろう。たかだかチンケな光とは言え、量が多かったのは事実なのだから。だがそんなものよりやはりアリアンハルデ帝国民ならやはり武威で力を示さなければいけないだろう。君の光量に免じて、最強たる勇者たる僕が君に手ほどきをしてあげるよ」
だが額には怒りの筋が浮かび、口は激情で痙攣していた。
彼の言葉にはこちらをコテンパンにしようとする意図が見えたが、僕はあえてそれに乗ることにした。この男は口で何をいおうと納得しないし自分相手に容赦などもおぼえないことが分かったからだ。
「わかりました。その勝負受けましょう」
「……賎しい身分の者のくせに心がけだけは殊勝じゃないか。実にいいぞ」
ひどく上から目線の口調でそんなことをいうとチャールズは意気揚々と剣を構えた。
「さあ、構えたまえ。君に選ばれしものの力を見してあげよう」
俺も彼に合わせて拳を前方に出して構えを取る。
前回の戦いでは朽ちた勇者と戦ったが今回は、現役バリバリの勇者だ。
勇者の能力は知っているが、どんな攻撃を繰り出してくるのかがわからない。
相手から覇気は感じないが、やってみるまではわからない。
慎重に、着実にて彼を倒そうと思う。
「
まずは僕とチャールズを囲むようにベースキャンプを展開する。
チャールズはそれに驚いたように後退る。
「な、なんだこれは!? こんなの聞いてないぞ! 『聖振』!」
それから彼の本能が危険だと察したのか、地団駄で起こした揺れでベースキャンプを壊そうと試み始めた。
――500000/499990
ドンドンと鈍い音を立てるだけ床はびくともしない。
グレートフォールマンの表皮を材料にしたものだが、今の彼の実力ではかすかなダメージを刻みつけるのが限界のようだ。
まだ他のスキルを発動させていないのでまだわからないが、他の物を発動させても誤差でおおよそ2倍から3倍に削り値が増えるだけで済むだろう。
それでも彼が愚直にベースキャンプを壊そうとしても疲弊する方が先だ。
「卑怯だ。これは武器じゃない。こんなものを戦いに使っていいはずがない」
「戦いで武器以外を使ってはいけない? そんなことを誰が言ったんです」
「僕に騎士道を教えてくれた師範だ。武器以外は絶対に使てはいけないと師範は言っていた! 早くこの不細工な建築物を収め給え!」
「それは武器以外のものを使っても戦闘では役に立たないからて言う意味で言っただけでしょ。でも戦闘の役に立つのなら武器以外のものを使っていいんじゃないですか」
「違あああう! 僕が反則て言っていっるんだ! だからそれは使っちゃいけないんだ」
僕はこのまま彼の語る正解不正解には興味がなかったので、即刻に肩をつけさせてもらう。
するとこちらが何をしようとしているのに感づいたのかチャールズは「やめろおお! 光速化!」と悲鳴を上げながら僕に向けて剣を抜いて突っ込んで来た。
いきなり加速したので驚いたが、見切ると彼の剣を手で掴んで止める。
彼がもう一度剣を打ち込まれることを避ける為に剣をそのまま奪うと、彼は尻餅をついてガクガクと震え始めた。
流石に様子がおかしいので、手を差し伸べると彼は後ろに下がった。
「近づくな化け物! なんで光速化したのに僕の姿が見えるんだ。 なんで剣を振ったはずの僕の手が逆に痛いんだよお! おかしいだろ、僕は最強の勇者なんだぞ! それなのに何で!」
彼は小奇麗な手を擦ってそう絶叫する。
その姿に対して呆れを通り越して、俺は怒りを覚えた。
何でこんな人間に神様は力と地位を与えたのだろうか。
僕が見下ろしても彼は己が今置かれた状況が不当だと喚いて、立ち上がりもせずにわめき続けている。
さんざん自分以外の人間を理不尽な目に会わせていざ自分に降りかかったらこれだ。
無様の上に無様を重ねたような不快感。
それが徐々に体の中で駆けあがっていく。
僕は彼の手足を光龍の髭で縛り上げると、ベースキャンプを解体する。
「
ベースキャンプの囲いが取れて外の様子が見えた。
下半身を土の中に埋められたまま猿轡で口封じされたアゲハと嘆息するリラさんの姿が見えた。
おおよそリラさんにアゲハのちょっかいを鬱陶しがってこうなったのだろう。
「リラさん大丈夫ですか?」
「ええ。そっちこそ大丈夫なの?」
「僕はなんともありません。相手は一撃を打ち込んだら勝手に戦闘を放棄しましたから」
俺たちは見合わせて自分たちを落としいれた二人を見つめる。
復讐をしたいなんて言う気持ちもなく、なぜここまでしなければならないのかがただただ理解できない。
ベースキャンプに彼らを運ばせて、早く突き返してしまおう。
ついでに彼らが再びやってきた時に撃退するためのベースキャンプを作成して、彼らのことは極力考えないようにする。
そう決意すると一つの馬車がこちらに向けてやってきた。
質素な馬車に見えたが、馬車には傷一つなく、ひどく毛並みの良いバイコーンが曳いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます