第15話 激突
その人物は抱えきれない憎悪を瞳の奥で燃やし、今にも溢れ出さんとするうような勢いでこちらに迫ってきていた。
反抗的なほどに光を反射する金髪に青い炎を宿したような真っ青な瞳を躍らせて。
まるではちきれんような憤怒を具現化さているようだった。
幾度の戦闘を辿ったのかわからないが血の汚れが目立ち、鎧には至るところに毀れが生じ今にも壊れそうだ。
元パーティーメンバーのアゲハは恐ろしい形相で目の前に現れた。
彼女の周りにいつも金魚の糞のように共だっていた二人組の姿もどこにも存在しない。
どういう経緯かはわからないが方角からして、Aランクパーティーが全力で挑んでやっと踏破することが出来るようなあの荒野を単独で踏破してここまで来たらしい。
姿と表情からして目の前のアゲハがひどく情緒が不安定な状態にあることは分かった。
自暴自棄と言っても何らおかしくはないと思う。
ベースキャンプから僕が出てくると彼女はやっと目当ての得物を見つけた捕食者のような顔をしてこちらに迫って来る。
かなりの恨みやつらみがるものがないと出来ないような瞳だ。
一体何が起きればこんな風になるというのか。
パーティー崩壊……。
一拍遅れてその二文字が僕の脳裏に過った。
別れ際の彼女らの様子から即座に否定したが、事実彼女が一人でいるとそう考えずにいられなかった。
なぜ彼女がここに来たのかよくわからない。
もし崩壊したとして、僕はあれ以降の彼女らと関わっていないし、原因の一端を握っているはずがない。
おどろおどろしい彼女の姿に気後れしつつも、問いかけることにする。
「アゲハさん,一体なんなんですか?」
「やっぱりねえ、アンタがあの女が生還するのに手を貸したの。全部、全部アンタのせいよ。道端の雑魚どもにいくら奴当たっても怒りが収まらないわ」
どうして彼女が生還することがアゲハにとって憤怒の情を浮かべるほど都合の悪いことだというのか。
僕が困惑しているとさらにバタフライは言葉を連ねていく。
「アンタがあたしたちのつながりにひびを入れて、くだらないきっかけでこうまでどうしようもないことになったのよ、全部」
目ざとくアゲハは俺の近くに居た二人を見て、また唇を湿らした。
意地の悪い顔をしたまま言葉を口から紡ぐ。
「全部無能なアンタのせいよ。あたしは一切悪くない」」
まごうことなき邪推だった。
決死の覚悟で天域を攻略する羽目になったというのにそのことについては全く持ってアゲハの中には反映されていないようだ。
「罪を償わせてあげる。即刻処刑よ」
「!?」
こちらの動揺など意に返さずアゲハは自分勝手な理由で人を断罪対象に仕立て上げると剣を抜いた。
鋭く眇められた眼からは並々ではない殺気を感じる。
確実にこちらに向けて攻撃してくるだろうことを察知すると、僕の中で攻撃に転じなければいけないという意識が目覚める。
すると先ほど作ったばかりのベースキャンプが動き始め、こちらに向けて二階の位置を変えた。
何かが窓から飛ぶと思うと、こちらに向けて飛んでくる。
「あああああ!?」
アゲハは声にならない悲鳴を上げると、着弾したそれは大爆発した。
彼女はダメージをこちらの想像より大きく受けたようで、うつぶせのまま動かない。
一体何が起こったかと目を疑ったが今日作ったベースキャンプに僕が反射で図らずも、攻撃を命じてしまったのだろう。
彼女には申し訳ないことをしたなと思いつつも、前科があるので正当防衛だとも思ってしまった。
「大変! 人がケガしてるじゃない! 早く回復薬を飲ましてあげないと。さっき煎じたばかりのポーションよ。早く飲んで」
すると奥から騒ぎを聞きつけてやってきたリラさんが満身創痍のアゲハに気付いて、彼女を回復させた。
僕に対して明確な殺意を持っていたので、回復させることを躊躇していたがリラさんが回復させるのならしょうがない。
それを見守っているとポーションの質がいいのかアゲハは見る見るうちに回復して、ポーションを全て飲み下すと立ち上がった。
「横槍が入ったからっていい気になるんじゃないわよ」
アゲハは八つ当たり気味に僕のところまで飛び込んでくるとそう言って、切りかかってきた。
「スロートソード!」
剣からいくつも小さな刃が飛びだし、こちらに振り下ろされる。
僕は彼女が隔絶した強さを持つことはよく理解していたので、本気で挑む。
まず拳で彼女を剣を跳ね返して、がら空きになった胴体に拳を打ち込む。
そう心に決めるとまず最初に彼女の剣に向けて拳を突き出す。
「「なあ!?」」
振り下ろされた俺の拳にぶつかると剣は弾けて、宙に取んだ。
想定外のことに僕とアゲハが驚いた声がハモッた。
どうやらアゲハの剣の攻撃力よりも僕の拳の防御力の方が幾分か高かったようで、思わずアゲハが手放すようなインパクトが起きてしまったらしい。。
やっと僕が現実に起きたことを理解が及ぶと、アゲハは口をパクパクさせてまだ現実を飲み込めていないようだった
「う、嘘。こんなの嘘よ。あんたは弱くてノロマなのに、なんであたしの攻撃が通らないのよ。あんたあたしの宝剣をなまくらにすり替えたのね。そうに決まってるわ」
アゲハは現実逃避をするように繰り言のようにそんなことを繰り返し言葉にすると次は殴りかかってきた。
それも頬にぶつかると、彼女の拳が逆に傷つき流血した。
予想よりもはるかに簡単に傷ついてしまう彼女に、僕はどうしていいのかわからなくなってしまった。
「あなた、何やってるの?」
対応に窮していると眦を釣り上げて、リラさんがそうアゲハに詰め寄った。
「あたしはただこの人でなしに鉄槌を下しているだけよ」
「彼があなたに何をしたっていうの?」
「こいつはあたしの命令に逆らって、パーティーを崩壊させた挙句、婚約の約束を破棄にしようとしているのよ」
アゲハはそこで言葉を詰まらせると激情に染まった目でこちらを見つめてきた。
「とりあえずそいつが全部悪いのよ」
「私には今のところからユウタに非が一つでもあるようには見えなかったのだけど」
リラさんは冷えた声でそう応じると眦を挙げた。
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