第12話 攻略
ベースキャンプを解くと周りに魔力の光が弾けているのが目に見えた。
そういえば、援護に回るはずだったリラさんがこっちに駆けつけていなかった。
ということは駆けつけられないないかがここで起きていたということだ。
勇者装備の女性に集中するあまりそこまで頭がまわっていなかった。
光が飛び散る現場の状況を確認する。
空を飛ぶベースキャンプに飛んでくる光弾をリラさんが解体し、向こうに居るフードの男性が光弾を打ちつつ、黒い沼のようなものから人を引き出していた。
引き出されている人は先ほどの女性と同じどこか陰のある雰囲気を醸し出している。
あれを出されるとまずい。
そう直観が告げ、光弾の対応はリラさんに任せ、僕はフードの男性の懐の飛び込んでいく。
思い切り突き上げるように相手に拳を炸裂させる。
すると彼は回避する素振りも見せずにそのまま拳に吹き飛ばされた。
手には何か膜のようなものに包まれたような不思議な感覚に覆われている。
「痛い……。痛い」
ぼそり、ぼそりとフードの男性は高い声を口からこぼす。
女性、もしくは子供のような声だった。
男性と見まがうような高身長からして、背の高い女性というのが妥当な線だろうか。
だがこの人はここのボスクラスを一撃で仕留める威力を持った拳を受けても、まるで平気だ。
かなりステータス高いことは間違いない。
彼女には悪いが、今ある自分の最大戦力で打倒できなかった以上捕縛するしかない。
細心の注意を払って、うずくまるフードの女性の後ろに回る。
そこから腕を取り、ひねり上げる。
そこで手に障った実感がおかしいことに気づく。
人にしてはこの人は固すぎる。
まるでこれは無機物のようだ。
そう悟ると男性の腹部から何かが飛び出した。
見るとそれは茶髪の少女だった。
何事かと一瞬放心したが、すぐにそれが本体だと悟った。
「痛い」
少女はほんのり赤くなった頭を擦りながら、半泣きの顔でそう呟く。
害があるようには見えない。
「いた……」
どう見ても軽く何かに頭をぶつけた程度にしか見えないのだが、少女はついに瞳から涙をこぼし始めた。
「泣かせた」
リラさんがからかうような口調で俺に話しかけてくる。
彼女は少女を見たことで完全に警戒を解いたようだ。
たちが悪いと思いつつ、どうしたものかと思案する。
別にこの子をベースキャンプで癒すというのもやぶさかではないが、先ほど確かにこちらに攻撃の意思を示して仕掛けてきたし、だがこのままにするのも自分が発端だしどうしようもない。
リラさんに意見を求めることにしよう
「リラさん、この子拘束しますか?」
「先までは大男の姿だったからどうしてもなんだか悪そうな気がしてならなかったけど」
リラさんはそう言葉を連ねると少女の顔を見た。
「見るからに実直そうな顔をして良い子そうじゃない。それにあたしの経験則だと痛いときに素直に泣ける子に悪い子はいないわ。拘束は必要ないんじゃないかしら」
経験則か。
リラさんも波瀾万丈な人生を送ってきているし、参考にならないことはないだろうけど。
再度少女を見る。
僕の周りに居た性根の腐った人間たちのような顔はしていない。
よく言えば誠実そう、悪く言えば少し気弱なそうな顔立ちをしている。
僕の目にも悪そうな人間には見えない。
ここで僕たちに攻撃にしていたのも何か理由があったのかもしれない。
「
揺り籠のベースキャンプ
レア度:星6⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
……天使いと天上の雲によって作成されたベースキャンプ。
効能:精神耐性アップ、セラピー、回復(大)
耐久値1000/1000
このベースキャンプは宿屋としての宿を作る際の試行錯誤の途上で生み出されたものだ。
体と心を癒すとても居心地のいいベースキャンプだ。
「あああああ~」
少女を中に連れていくとマッサージをされている人間のような声を上げて、近くにあった天使の羽100%の布団にダイブした。
そして脱力して起き上がらなくなった。
「このベースキャンプ、リラクゼーション効果が高すぎて、人をダメにするのよね」
僕が作成し、第一の被害者になったリラさんがどこか遠くを見るような目つきで少女を見る。
少女はまるで息を引きとったかのようにぐったりとして動かない。
「Zzzzzz……」
眠ったようだ。
我ながら僕はとんでもない物を作ってしまった。
「このベースキャンプを大量生産したら世界は滅びるわね」
真剣みを帯びた顔でリラさんが呟いた。
僕もなんだかベースキャンプの中に居ると頭がボーとしてきてないかヤバイという感覚がしてきたので、外に出ることにする。
僕はどうやら二人に比べて比較的癒しに対する抵抗が高いようだ。
だが、やはり長くいるとまずそうだ。
外に出るとちょうどリラさんの背後に大きな門が出現しているのが見えた。
「リラさん、あれ!」
リラさんも振り向いた。
背中が跳ねたことで彼女の驚き具合の大きさが自分にもわかった。
これまでこんなことなかったのだ。
その驚きの大きさは自分にもわかるし、自分も同じ立場なのでしょうがないということが分かった。
「懐かしいマナの流れを感じるわ。きっとあれは外の世界に通じる門よ」
リラさんの声はゆるぎない確信を帯びて僕には聞こえた。
心が思わず浮足立つ。
あの向こうに焦がれた外の世界があるのだ。
勝手に右足が踏み込み、左足が地面から離れる。
「ちょ、ちょっと」
リラさんの声が遅れて聞こえても、門を抜けて外の森を駆け抜けても、走り続けてしまった。
壁にぶつかって、弾かれたときになってやっと止まった。
「しまったな。戻るか」
起き上がると全速力で戻る。
するとリラさんがふわふわと浮遊する天使のベースキャンプとともに門の向こうからちょうど出てきた。
「君、強化掛かってるとはいえ、ちょっと早すぎない。私と同じくらいだと思ってたけど本当は違うんじゃ……」
リラさんは思案気な顔でそんなことを呟く。
「すいません、勝手に突っ走してしまって」
「いや良いのよ。すぐに戻ってきてくれたし。それよりもこの娘から早く情報を聞きだしたいのだけど」
少女は背中を上下させて、寝息を立て続けている。
起こして事情を聴かなくてはいけないのも確かだが、せっかく気持ちよさそうにしているのに起こすのも忍びない。
もう少しだけ寝させてあげてもいいのかもしれない。
「疲れているみたいだし、もう少しだけ寝させといてあげましょう。これから急ぎで何かしなかきゃいけないわけじゃありませんし」
「よく考えれば確かにそうね。あたしたらまだ迷宮から思考回路が移行できてないみたい」
リラさんは苦笑するとそういって、歩き始めた。
すると過去にクエストで立ち寄った村を発見した。
あそこなら信頼できるし、ちょうどよさそうだ。
「リラさん、僕この近くに村があるのを知ってるんです。良かったらそこに行きません」
そう話し駆けると彼女は僕に向けて筋肉のこわばってない優しい顔を見せてくれた。
「そうね。じゃあそこに向けて案内してもらっていいかしら」
そのあと僕は出来るだけ丁寧に村までの道について紹介した。
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