第13話 スタート
村に着くといの一番にリラさんに目が行ってから、そのあとに宙に浮かぶベースキャンプに村人の注目が集まった。
「あれ、なんだ」「なんで、宿が空を飛んでんだ」「お母さんあれが気球?」
村人たちは老若男女問わず、それに対して驚きの声を上げる。
「あたしの種族はよく魔女とか亜人だとかって騒がれるけど皆気球に夢中で気付かないみたい。こんなに心穏やかにユウタのおかげね」
「いえ、そんなことないですよ。たまたま俺のベースキャンプが悪目立ちしただけで」
「でもそのおかげで私の気分が悪くなることはなかったんじゃない。やっぱりユウタのおかげだよ」
口ごもりながらそういうとリラさんはまた笑顔を強めて感謝の言葉を重ねた。
精神にたまった疲労感が抜けていく。
僕は何で自分が癒しに対して耐性を持っているのかよく分かった。
きっとリラさんが居たおかげだろう。
「おお、これはこれはユウタさんお久しぶりです」
僕が感慨に更けていると人垣の奥から、好々爺が現れた。
ビルダーズ村長だ。
彼には前のパーティーに所属していた時のクエストの事後処理から懇意にさせてもらっている人だ。
発端は前のパーティーの人間たちが村のことを考慮せずに動いたために村人の家を次々に全壊させて、村人の体を休める場所が無くなったといったことだ。
そのときに僕が近くに有るモンスターや木材を使って、ベースキャンプを人数分に作ったら偉く村長に気に入られてしまったのだ。
村長曰く作ったベースキャンプで村人たちが生活を送ったところ、見違えるように元気になったらしい。
それほど変わった素材で作ったわけではないのでそんな効用がついていたわけではないのだが。
村長には是非とも村に来て、もう一度ベースキャンプを作ってくれと言われていた。
「いつぞやの約束を果たしにフィアンセと訪ねにいらしたのですかな」
村長は冗談交じりにそんなことを言い僕はなぜかドキリとして、リラさんは薄く頬を染める。
「そ、村長。そんなフィアンセなんて」
「満更でもないわ」
え!? リラさん。
聞き間違い?
いや、だが確かにこの耳は聞いたはずだ。
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NN
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RA
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「ホホホ、お暑いですな。夫婦に人気の名所でも紹介しましょうかな」
「い、いや結構よ。自分たちで探すわ」
流石にリラさんも自分の行動が少し恥ずかしくなってきたのかそんなことを呟いた。
「では、早速ベースキャンプを作って下さるというわけですか」
前々から仲間がやったことで迷惑をかけたことが気に病んではいたし、ちょうどいいかもしれない。
だが今は先立つものが何もない状況だ。
出来るだけ交渉で手に入れられるものは手に入れて起きたい。
金銭のような露骨な要求はできれば避けたいので、援助のような形がいいが。
援助という形を取ってしまうと恩恵を受けられる生活がここに居を構えることになる。
俺とリラさんの目的は店自体を営むことで在って、特に繁盛させたいとか大成功したいといった何かがあるわけでもないので悪くない選択肢ではある。
それにここは中核都市がほど近くに有り、アクセスも悪くないし、近くに魔獣が出る森があるという以外に生活を営む上でのデメリットもほとんどない。
「……村長。あなたたちに迷惑をかけた上願い事をするなんて厚かましいことは承知でのお願いがあります」
「なんですかな」
村長も俺がお願い――つまり交渉を持ちかけるような態度をとると優しそうな眼を細めて、凛とした面持ちになった。
「住人の皆さんにベースキャンプを提供する代わりに僕達がこの村に住む権利とここで宿屋とアトリエを営む権利を与えてくれませんか」
村長はその言葉を聞くと表情を緩め、好々爺然とした顔に戻った。
「なんですか、そんなことですか。我々の村を一緒に盛り上げることに協力してくれるということですか。こちらから頼みたいと思っていたということです。そんなことは交渉の材料にもなりませんよ。ベースキャンプを作成してくれたお礼は別途で入村祝いと共に渡させていただきたいと思います」
全てがすんなりと行きすぎるくらいにうまくいった。
突然すぎる申し出に対するリラさんの困惑も村長との交渉も生じなかった。
こんなことがあり得ていいのだろうか。
「何呆けた顔してるのよ、ユウタ。あなたは村長からの信頼を大きく勝ち取っていた。だからこそ村長もあなたがここに住むことOKした。何も困惑することではないわ」
「でもなんだかここまでトントン拍子に物事がうまくいくことが無かったので本当にこれでいいのかなって」
「何言ってんのよ。いいに決まってるじゃない。あなたが悩んで、あなたが決めたことだもの。それに何かを始めるのに早すぎるなんてことはないのよ」
「リラさん」
僕はこの人に出会えて本当に良かったと思った。
これほどまでに僕のことを無条件に信頼してくれた人は今までいなかった。
どこかで孤独を抱えていた心が癒えるのを感じた。
僕はもしかしたら寂しかったのだろうか。
いままで、ひたすらに一生懸命に生きてきて、他者との関係の中で傷つき続け。
真に僕を信じてくれる人、まっすぐと僕自身に向き合ってくれる人はいなかった。
僕は彼女が僕を信頼してくれているのが、自分が彼女を信頼出来ているというのがたまらなく嬉しかった。
この人は僕の最強のパートナーだ。
彼女とならともに踏み出せる。
不安定だろうと、確かに見えなかろうと。
新たな世界に。
「ここから僕たちの一歩を始めましょう。リラさん」
リラさんは少し頬を染めると真剣な顔つきになって僕の声に応えた。
「ええ、始めましょう。ここから君と」
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