第10話 剣士

 おどろおどろし蠢く、どこが終わりでどこが始まりなのかわからない黒いモンスターに向けて、掌底を放つ。

 掌底がぶつかったところから波紋が広がり、本体をバラバラに崩壊させた。

 すると背後で何かが蠢く気配がした。

 間に合わないかと思うと、


錬成トレイン!」


 周囲が白色に染まった。

 見ると背後で黒いモンスターが変形した白竜の牙に四方八方から串刺しにされていた。


 リラさんは呪いを解除してからすっかりと本調子に戻り。

 非戦闘職の錬金術師だというのにバッタバッタとモンスターを倒すまでになっている。


 二層のボスの時も彼女のおかげで危なげなく倒すことが出来たのでかなり頼りになった。

 いやむしろ彼女が居てくれたからこそ二層のボスは倒せたと言っても過言ではない。


 それほどまでに彼女がここまでで上げた功績は大きかった。

 隙が無い時は隙が出来るように動き、僕のミスが致命的にならない様にフォローを幾度となく入れてくれた。


 彼女の存在が無ければ僕はこの迷宮をここまで攻略することはかなわなかったという確かな確信がある。


「さてこの大門を超えればボスエリアみたいね」


 彼女はずんずんと迷うことなく、大門の前に向けて進んでいく。

 暗闇の中のおどろおどろしい場所だろうと向こう見ずな少年にも似た彼女の好奇心は健在だった。


 深く深い闇の中でも青白い光を放ってその存在を主張する門に向けて歩を進める。

 目の前にあるそれに手を振れると門はひとりでに開き、中に存在するものを露出させた。


 大きな翼竜の紋章が描かれた鎧に、ダイヤモンドのように煌びやかな白い刀身をした剣、整った顔がその装備の前ではひと際目立ってるような感覚に襲われる。


 どうにもその小奇麗な顔立ちと鎧の清浄さがこのおどろおどろしい場所とはマッチせず、余計に釘付けにされた。


 目をそらせないでいると彼女の放つ雰囲気とは正反対の虚ろな目と目がかち合う。

 その瞬間に、虚ろな目に何かのスイッチが入った様に生気が戻り始めた。



「いつかぶりの来訪者でしょう、ギラギラとしたオーラに当てられて思わず目が覚めたわ。お手並み拝見と行きましょうか」


 女剣士は剣を正眼に構えると挑むような調子でこちらにそう言葉を投げかけてきた。


 来る!


 そう本能が告げると過たずに、縦に斬撃が繰り出された。

 どうもこちらのスピードと拮抗しているようでカウンターを入れようと思うが、隙を見つけることが出来ない。

 というよりも避けるのに手いっぱいだ。


「危ない!」


 女剣士が連撃から剣を青白く光らせるとリラさんがそう叫び、目の前で光が爆ぜた。

 鼻先を熱が焦がし、爆発が起こったことに気づくと女は上空に打ち上げられていた。

 地面に突起があることを見るとリラさんが錬成で地面を隆起させて、攻撃をそらしてくれたのだろう。


構成クリエイト!  ドライブコマンド!」


 白黒龍のベースキャンプ

 レア度星6☆☆☆☆☆☆☆

 効用:浄化(極)、攻撃強化(極)、防御力無視、炎強化(極)

 コマンド……加速突撃ドライブ

 耐久値 100000/100000


 僕はリラさんが作ってくれた隙を利用して、ベースキャンプを召喚し、コマンドで加速突撃を出す。

 ベースキャンプは光竜の牙と黒龍の牙を出すと女に加速して、体当たりを仕掛けていく。

 女剣士は空中でベースキャンプの間に隔たりを作るように刃を一回転させる。


 振られた剣からは光の斬撃が飛び出し、本来避けられる刃がベースキャンプにぶつかる。


 100000/95000


 ベースキャンプは並みの武器なら壊れてしまうだろう一撃を受けてもびくともしていない。

 難敵に遭遇するたびに改良を重ねて耐久値を上げてきた成果だ。


「リラさん中へ」


 援助を得意とするリラさんには安全で全体を見通せるベースキャンプに移動してもらう。

 ベースキャンプが壊れるのはこちらとしてもこたえるので、出来るだけ盾のような使い方はしたくないが目の前の相手の危険度を考えると背に腹は代えられない。


 だがそのままただ壊されても面白くないので、ヘイトを僕の方に引き付けて出来るだけベースキャンプに攻撃の手が行かない様に工夫したいと思う。


 僕が静かに心の中で決意すると彼女は剣を頭の高さまで持ち上げて、引くとこちらに向けて歩いてきた。

 騎士がよくとる基本の姿勢の構えだ。

 防御にも攻撃にも移行しやすい上に、彼女の構えはひどく堂に入っている。

 それは幾度となくこの構えで死線を乗り越えてきたことを如実に証明していた。


 こちらが出るのを待っているのか、彼女は距離を詰めていくだけで攻撃を仕掛けてこない。

 ただ近づき、打って出るかこのまま受けに回るかという選択だけを彼女はこちらに迫って来る。

 乗るべきか?

 逆に乗らずに退くか?

 2つの選択肢が自分を追い詰めるように目の前に提示される。

 脳裏でその局面をシミュレーションする。


 打ち込めば必ず間合いに入り、確実に反撃を入れられる。

 だが待てば間合いからは逃れられる可能性が出る。


 間合いから逃れ続けて、相手がしびれを切らすまで待てば。

 だが相手がそれでも待った場合は、ベースキャンプで付与された強化が確実に切れる。

 打って出る以外の選択肢はこちらにはない。


 僕一人で行ったところでは確実に相手の反撃を喰らって餌食になることが火を見るより明らかだ。

 どうすれば?


 どうやって踏み込もうかと迷っていると上空のベースキャンプに居るリラさんがピースサインを送ってきた。

 挟撃の合図だ。


 具体的な指図をされずともどうすればいいのか、

 僕はそれに女剣士に向けて拳を突き出すという行動で答える。

 彼女は僕の拳を屈んで避けると、姿勢をもとに戻すと同時に剣を切り上げてきた。

 確実に体を袈裟に切られると思ったが、女剣士は背後から隆起した土に打ち据えられ大きくバランスを崩す。

 これ幸い。

 僕はそのチャンスを逃さずに全力で拳を打ち込む。

 確かな感覚とともに骨と骨が擦れてインパクトが伝わってきた。

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