第9話 アゲハサイド・確認
「何やってんのよ」
Sランクパーティー「セイントカタストロフ」は幾度もなくクエストを失敗したペナルティとしてAランクパーティーにまで降格した。
ギルドもSランクパーティーを「セイントカタストロフ」しか持ち得ていなかったことを考えると苦渋の決断だっただろうが、有名パーティーのクエスト失敗で評判が悪くなるよりもまだこちらの方がましだろうと計算したことは明白だった。
だが少し考えればわかる事にきがつかないほどに彼女の心はささくれだっていた。
「違う、俺は悪くない。俺は誠実にタンクの役目を果たすために体力管理に努めていただけだ」
「私も悪くないですわ。私はモンスターのスピードについていく為に目を慣らしていただけですもの」
理由はひとえに情けない言い訳を繰り返して、幾度もなくクエストを失敗する目の前の存在達のせいである。
アゲハの心は彼らをもう仲間という領域から脱落してしまった生ごみとしか感知していなかった。
その相手をする自分に対してすさまじい苛立ちと、ギルドが行ったことを理不尽に感じる心でただただいっぱいだった。
彼女はだから今この瞬間に新たななる一手を打ち出そうという気持ちになっていた。
彼らを追放する。
その一手を。
その瞬間を想像するだけで、甘い感覚が彼女の体中を突き抜ける。
今までのいら立ちや怒りが先からほどけていくのをアゲハは感じた。
「あんたたち、もういいわよ。クビッ! 役立たずは必要ないのよ」
「あんまりだ。お前に役立たずと言われたら俺たちは」
「ここで二度と仕事が出来なくなりますわ」
最上級職のアゲハの言葉はこのギルドでの絶対的な指標だ。
だからアゲハが無能と言えば、どれだけ働きがよかろうと無能扱いされ、逆にアゲハが有能だと言えばどれだけ無能だろうと有能ということになる。
だからこそ、役立たずの烙印を押されている二人は必死に弁解しようとしている。
だがアゲハにそれを聞き入れる気はひとかけらもなかった。
代わりに彼女に存在するのは彼らをどうやってなぶろうかという嗜虐心だけだ。
「こいつらに日ごろ小突かれてたやつら、来なさい。ごみ処理をお願いするわ」
「こんなのうそだあああああ」
「考えなおしてくださいまし。最高峰のの実力をもつ私たちがこんな扱い」
何が最高峰の実力だ。Bランクパーティーの二人に取り終えさえられるほど脆弱さだというのに。
アゲハは内心で嘲りながら、頬に三日月状の笑みを浮かべる。
まさに幸せの絶頂。
身近な人間の不幸を見て彼女の心は多幸感で満たされていた。
「ああああああ。きたないぃ生産職が僕のズボンに突撃してきた! なんてことをするんだ汚らわしい!」
「ほげえええ!」
それに水を差すようにギルドの外から第一王子ーーチャールズの金切り声と老人の悲鳴が聞こえてきた。
「消毒! 消毒ぅ!」
まもなくチャールズが従者の聖騎士に浄化を掛けさせながらギルドに入ってきた。
「きみぃ! どうゆうことだい。魔道具を見たら僕の許婚はまだ生きているじゃないか。偉ぶったじじいがエネミオスの姫が何者かに嵌められて”消息不明”になったからと問い詰めてくるから調べてみれば、案の定だったよ」
チャールズはアゲハの顔を見て開口一番にそんなことを口走る。
思いをしなかったその言葉に思わずアゲハは目をむく。
「生きてる? 確かあの女はもう瀕死の状態で崖の下に落ちたはずよ」
「そんなことは僕の知る事じゃないよ。ちゃんとあの劣等民族は生きているとジジイの言質とこの魔道具の反応が示してるんだから」
チャールズはアゲハの言葉に対して、物証を示すように夜空を映した水晶のようなものを取り出し、その中に浮かぶ一つの星を指し示した。
「つまり生きているんだよ。君はいい子だからね。僕のフィアンセに迎え居れようと思っていたのにこれでは妾どまりで終わってしまうよ」
それだけはごめんだ。
妾など風聞が悪い上に、今までのこの国で頂点に輝いていた自分がそんなものに収まるのなどアゲハのプライドが許さなかった。
「どうやら嬉しかったようだね。僕なりのプロポーズさ。分かったなら早くあの劣等民族を一刻も早く始末してくれ。発見されたらことだ」
あまりな大胆な告白に言葉を失い、確かな絶望が彼女を支配する。
あの死にぞこないを始末しなければ、自分は妾。
ましてやあの女は一国の姫だ。
国に帰れば必ず報復に動くことに違いない。
妾に落ちた上に、他国の姫からにらまれるなどまっぴらごめんだ。
それにしてもどうして、あの女は生きていたのか?
そう疑問に思うとアゲハの脳裏にあのベースキャンプを作るしか能のなかった無能の姿がちらついた。
なんなのだあいつは?
どうして自分の不幸の陰にはいつもあいつが居る。
死んだからと溜飲を下げていたがもう限界だ。
あいつだけは死んでても殺す。
二度殺す。絶対に殺す。
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