第7話 足掛かり
攻略の方針を少しだけ変えることにした。
出来だけ早くこのダンジョンから脱出するだけではなく、ここでの素材採取にも出来るだけ力を入れることにした。
理由としてはリラさんの魔力不調を治す効用を持った素材を手に入れたいことと、出た時に宿屋に使えそうな素材の確保をするためだ。
昼行燈
――昼間に出現するウィルオアウィスプの超越個体。太陽と水を克服しているため弱点属性は存在しない。
――スキル『鬼火』
『リザレクション』
『氷炎』
攻略済みの場所から更に雲の通路を進むと人の頭ほどの赤い人魂が現れた。
人魂はこちらに気付くと気炎を上げて、炎を纏わせた氷刃を周りに召喚した。
僕の体は強化され、それに伴って動体視力も上がっているはずなのだが、それでも早く感じる。
ここのモンスターの動きがゆったりとして見えていたのに対して、まるで熟練シーフ思わせるような素早さだ。
何とか反射で屈みつつ連撃をよける為に前進してカウンターを仕掛けようとすると、すぐに体当たりに切り替えてカウンターのカウンターを僕に向かって繰り出した。
踏み込んでるために避けるにも避けられず、腕で昼行燈のガラスによく似た器官を叩いて、直撃をさける。
昼行燈に触れた部分にやけどと凍傷が出来るが、ベースキャンプで付加された効用『再生』でみるみる内に回復していく。
だがこのまま再生を上回る速度で攻撃されたらやられるので油断は出来ない。
戦闘を積んでいく中で徐々に築かれつつあるデータの蓄積から脳が推測を叩き出す。
僕はそれに従って一度距離を置き、先ほどの燃える氷刃に備える。
――コォォォ……。
集中したためか先ほどはきこえなかった、何かが凍てつくような音が聞こえた。
タイミングが大きな意味を持つ戦闘で相手が仕掛けてくる予兆がわかるというのは大きなメリットだ。
再び攻撃の準備に移行した瞬間にこちらから仕掛けて、一気に畳みかける。
音が消え、氷刃が飛ぶ。
先ほどと同じ様にしゃがんで避け、再び昼行燈から音が鳴ると一気に跳躍する。
空気を切って近づくと生成途中の氷刃を僕に消しかけてきた。
空中で旋回することはできないので、拳を固めて降り注ぐ氷刃をそのまま迎え撃つ。
バリバリと氷が砕け散る音を何度か聞くと拳が何かを突いた感覚が腕に響く。
見ると昼行燈の体が九の字に曲がり、雲の上を跳ねて飛んでいくのが確認できた。
地面に落ちた昼行燈が完全に動きを止めると、レベルアップを伝える文言がまたもや頭の中に響いた。
レベルアップ! レベル3→4
――スキル『ベースキャンプ作成』の従属スキル『並列作成』が追加されました。
「従属スキルか。本当にレベルアップすれば出るんだな……」
従属スキルは基本のスキルから派生して広がるものだ。
条件は色々あるが大概はレベルアップするほど解放されていく。
始めてスキルを女神から授かってから以降、解放されず、パーティーメンバーから愚図と揶揄されることになった一因にはこのこともある。
一度も上げられていなかったレベルが解放条件なら僕の従属スキルが増えなかったのも納得だ。
喉から手が出るほど手に入れたかったがついぞ手に入らなかったそれ――従属スキルを確認する。
『並列作成』
……同時に二つ以上のものを作成可能になる
どうやら一気に二つ同時にベースキャンプを作れるようになったらしい。
直接的な戦力向上と言うわけではないが、かなり使い勝手の良さそうなスキルだ。
「少し試してみるか」
僕は近くに転がっていた昼行燈の素材を二つ拾い上げると早速試すことにする。
一つは『昼行燈の浮遊輪』
レア度:星5⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
……昼行燈を空中に浮かばせている輪。単純なように見えて、複雑な魔術的な特性を秘めている。
効用:浮遊
二つ目は『昼行燈の氷熱炉』
レア度:星5⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
……昼行燈が氷と熱を発生させる炉。透明でガラスのような見た目だが、その実適度に弾力がある筋肉である。
効用:冷暖房
「
脳裏に浮かんだ文言を口にすると目の前のベースキャンプの骨組みが一気に二つ召喚され、それぞれ指定した昼行燈の素材を巻き込みながら形成されていく。
完成するとなんの変哲もない二つのベースキャンプが目の前に現れた。
一見すると同じ様に見えるが、一方は宙に浮き、一方は幌が揺れていたのでそれぞれ違うものであることが分かった。
中に入って確認してみると一方は浮遊、一方は冷房、それぞれ独立して機能している。
「それぞれ別の用途で作ることが出来るのか。それぞれの目的に絞ってベースキャンプを併用できそうだし、統一すればベースキャンプに収容できる人数を増やせそうだな」
しばらくは大人数になる予定はないし、脱出した時に向けて宿屋の宿としてのベースキャンプを模索するのもいいかもしれない。
「
冷房の効用のあるベースキャンプを畳むと浮遊の効用のあるベースキャンプに乗る。
そのまま浮遊してリラさんの下に向かおうと思うと、ベースキャンプをどうやって操作すればいいのかわからないということに気づいた。
周りには追加で操舵やパネルもないのにどうやってと思うと一人でにベースキャンプは動き始めた。
ベースキャンプは迷うことなくリラさんの方に飛び始めた。
空を進んでいるということもありすいすい進んでいく。
気付くとあっという間にリラさんが居るベースキャンプに到着していた。
「
浮遊するベースキャンプを解体すると、手に入れた昼行燈の素材でリラさんの居るベースキャンプの補強にかかる。
「外はどうだった?」
不意にリラさんがベースキャンプの中から出てくるとそう俺に訊ねてきた。
返事を返そうとすると彼女の手に持たれている白い鱗に目が移った。
光龍の天鱗
……神に使えるとされる聖なる竜“白竜”。その頂きにある光龍の鱗。持つ者の悪しきオーラを鎮めると言われている。
効用:浄化(小)
「リラさんそれ?」
「ああ、これか」
僕は仰仰しい名前の竜の鱗について尋ねるとリラさんは今しがたまで忘れていたという感じで返事をする。
「外の様子をぼんやり眺めていたら、それが中に入って来たんだよ。なんだかそれを持っていると少し楽になったから今の今まで握っていたんだ」
リラさんはそう言いつつ僕に白い鱗を渡してくれる。
きっとこの鱗の主の素材にはおそらくではあるがもっと解呪の効用の大きいものが存在しているだろう。
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