第60話 曖昧な返事。

 あれには、本当に骨が折れましたわね…。


「パトリシア嬢それは本当に?」

「ええ、そうですわね。学園の行事も出欠席に制限がありましたし。パーティーやお茶会の出席も、禁止でしたわあの頃は。バカですわよね?ですから、余り他のご令嬢に目を向ける機会が、ありませんでしたわ。ホホホ」

「………君は……本当に。そんな事をあっけらかんと!」

「まぁ、どうお伝えしても本当の事ですから……。ですから、他のご令嬢とは違って、変わってるのかも知れませんわね?」

「本当に君は……。私がもっと早く君と知り合っていれば……」


 そんなことを言っても、今更ですからね。

 もうあの王子は、あの国には居ない筈ですもの。


「フフフ。タラレバは、余り好きでは無いですわ。ですが、ありがとうございます。そんな事を言って頂けて嬉しいですわ。殿下だけですわ。私を可哀想と言わないのは。それだけで嬉しいですわね」


 社交辞令が疲れて来たわね…そろそろ暇をしたいのだけれど………まだ話しは続くのかしら。

 存外実なる話が出来て無いのは……何故かしらね?


「そうか……それでは私の事を考えて…」

「いえ、そうですわねぇ~。ですがそれは、また別の話しですわね。それに、殿下はこの領地に移住も考えていらっしゃるのでしょ?」

「そ、それは……アデス…お父上から聞いてるのかい?」

「ええ、伺ってますわよ。私と婚姻できなくても、貴族街に土地を購入なさって、屋敷を建てたいと仰ってるそうですわね?」

「ハハハ。そうだよ、継承件を捨てたからね。後は移住……安住の場所を探すだけだからな。このベルガモットの領地は最高だよ。父上からは了解を頂いてる」

「ご自分のお国で領地を貰ってと、言うことは考えませんでしたの?」

「ん~それだと、義母親達から何をされるか…正直分からない。暗殺されるなんてぞっとするよ」

「そ、そうでしたのね?それはご苦労為されているのですねぇ……」


 た、他国って、怖いわ……私なら堪えられないわね。


「ところで、先程のロミノの件だがね?君は安心していてくれて良いよ?代わりの執事を呼んだからね。唯少しお願いがあるのだが……?」

「なんです?」

「飛竜が降り立つ場所が無いだろうか?」

「ひ、飛竜……ですの?広さはどれ程有れば良いのでしょうか」

「そんなに広くなくて良いのだが……騎士達の訓練所の一角ぐらいだろうか?」

「それは、お父様とお兄様に確認しないと私ではなんとも。それに飛竜は何時こちらへ?」

「3日後にこの領地に着くのだが……」

「でしたら、後ほどお父様とお兄様にお伝えして三人でお話下さいませ。それでいいかしら?」

「ああ、構わない。なら、確認させて貰うが……本当に、私との事をちゃんと考えてくれるのだね?」

「ええ、よく考えて後程ちゃとお返事はさせて頂きますわ。まだ殿下とは知り合っただけですもの…」

「そ、そうか………なるべく早く返事を貰いたいのだがなぁ…」

「あら?それはどうしてですの?この地に根を張るなら、早々にお答えしたなくてもいいですわよね?それに私と結婚出来なくても、この地に住むおつもりなのでしょう?」

「そ、それはそうだが…。3日後に父上が来られるのでな、君からの返事を貰ってないとその…父上から……その…」


 いやそれは貴方の都合ですわね?私は知らないわよ。それにこの方、父親にも頭が上がらないの?だらしない!

 親子揃って人の国になにをしに来るのかしら。


「それでも、私の返事は変わりませんわ。殿下のご都合も、あるのでしょうが。それは、私に関係ありませんもの。そうでしょ?」

「ま、まあ、そうだね…すまん不躾だったな。さて、それでは私は部屋に戻らせて貰うよ。パトリシア嬢、今日はなんだか悪かったね?」

「いえ、こちらこそ…。では、失礼致します」


 殿下が部屋に戻ると言って、東屋から出れば護衛の騎士達が二人後ろについて城に戻って行った。

 その後ろ姿を見送ったパトリシアは、ふぅ~っと息を吐いてグレンに話し掛けた。

「グレン行ったわね?」

「ええ、ですが……あんな曖昧な返事で良かったのてすか?」

「良いのではないかしら?即答で、断っても良かった気もしますが…。それを言ってしまったら、ここで揉めそうだったから曖昧に返事をしたのよ」


 そうですか?とグレンは顔を曇らせた。


「まあ、そうですね…さぁ我々も屋敷に戻りましょうか?」

「ええ、そうね。グレン」

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