日本編
日本編 1 モーニング・ランニング!
ドンガラガッシャァァァァーーーン!!!
朝一番に聞こえたのは鼓膜を破壊つくさんとする怒号。耳の奥を直接弄くられて、さらにほじくり返されたような気分だった。
「ぬぉぉぉぉぉ!?!?!?み、み、耳がぁぁ死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅ!?!?」
「イエーイ寝起きドッキリ大成功。これ一回やってみたかったんだよねぇ♪目覚めの気分はどうだい?よく眠れたかな?」
「私史上最悪の起こされ方だクソッ!!耳が、耳が死ぬぅ………」
おじいちゃんでも滅茶苦茶眩しいライト目覚ましを十台設置するくらいしかしないのに………。
「おうおう大丈夫かやったの私だけど。うーん、近所迷惑にならないように弟子二号の鼓膜を直接揺らしたんだが、これはこれで近所迷惑かなぁ。クレームでも来たらどうしましょ、あらら」
「鼓膜をちょくせ……なんだって!?貴様私が寝ている間に何をした!?大丈夫だよね私の聴力?生きてるよね?」
「私の声が聞こえてるんなら大丈夫だべ。そんなことよりもだ。速く着替えろ、とにかく動きやすい格好でだ。なんならパジャマのままでもいい。この時間帯ならほとんど人はいないだろうからな」
「この時間帯………?」
そういえば今何時だ。
寝起きのせいで歪んで見える視界を徐々に正常にもどし、目を擦りながら机の上の小さな時計を見る。
………朝の4時30分。
なんでったんでこんな朝速く起こされなきゃあかんのだ眠いんだよ寝かせろ寝かせてくださいお願いします。昨夜はソシャゲのイベント周回をやりまくっててあんまり寝てないんだよ。観念して………。
「というか、何しに行くんですか?動きやすい格好って………もしかして朝のランニングでもするんですか?」
「ピンポーン」
「え」
######
というわけでただいま現在私、走っています!マジで人がいねぇ。いたとしても、夜勤の人が退勤してるか私と同じくランニングしているご老人とかがチラホラ。
まだ温かいとはいえ、もうすぐ秋が訪れる。北海道の秋は寒いぞぉ。9月くらいならまだ温かいと思ってたら10月に入ると一気に寒くなるからな。
日が出て間もなく、辺りは全体的に暗い。珍しく霧が発生しており、まだチカチカと光り続ける電灯が相まって中々新鮮な光景を目にする。
その光景の隅っこにイレギュラーが一つ。空飛ぶ箒にあぐらをかいて頬杖をつきながら眠たそうにする謎の人物。マーリンさんはあくびを数回してから口を開いた。
「いいか。お前を正式な弟子として魔法を教えるにあたって、まず最初にして貰うことはランニングだ。なぜだか分かるか?」
「知るわけないじゃないですか。てか、そのほっそい箒にどうやってあぐらかいてるんです?」
「魔法について学ぶ前に、全ての魔法の基本となる『魔力』について学ばなければならない。走りながらレクチャーしていこう」
マーリンさんはもぞもぞとローブの下から小さいホワイトボードを取り出し、黒ペンできゅぴきゅぴと何か書き始めた。
「始めに魔力についてどのくらい知っているか聞こうじゃないか」
「魔力………そうですね。魔法を使う時に必要となるエネルギーのことですかね?名前的に……」
「ピンポーン!まぁ魔力というのはイメージ通り、魔法を発動させる際に必要なエネルギーのことだ。魔力はこのこの世界のありとあらゆる物質、生き物に備わっている。生きているだけで常に魔力の生産と排出を行っているのさ。
大方、漫画やアニメなどで見る設定と似ていて、イメージ通りだった。しかし、生産と排出とは一体なんだ?
マーリンさんはホワイトボードに描いた絵を見せながら説明
を続ける。
「魔力っていうのは生命活動に必要なエネルギーでもある。イメージ的には………そうだな、植物の光合成に近い。生き物の体の中では、空気や水、食物などに含まれる微量な魔力を体内に吸収し、生命活動の元となる魔力を生産しているんだ。科学的なものじゃなくてオカルト的な話になるから、信じられないかもだが本当だ」
「では、排出というのは?」
「そりゃあお前、いらなくなったものは捨てるだろう?生産された魔力は主に運動したり、頭を使ったり、内臓器官を働かせるのに消費される。けど、基本的には消費率を上回る速度で魔力は生産されているんだ。だから、使わない、いらなくなった古い魔力は息や排泄物から体外へ排出される。それが霊脈を伝って……まぁその話はまだいいか。とにかく、ポイントは魔力は生産と排出を繰り返しているってところだ。いいか、メモしとけよ」
走っている状態でどうしろと。
しかし、私の体の中でそんなことが起こっていたのか。話を聞いてもイマイチ実感がない。そもそも目に見えない不可思議な存在のことを数秒で理解しろ言うのは無茶な話だ。
「あの、ハァ、質問なんですけど。今やってることと魔力って何か関係があるんですか?ハァ」
「あぁそうそう。重要なのはここからだ。魔力の排出が行われるってことは、魔力には貯蔵タンクのようなものがあると考えていい。限界がなければ排出を行う理由はないしな。
魔法の力はその大きさは、魔力を貯めれる限界量の大きさに依存している」
「それってつまり……魔力を貯められる限界量が小さい人は魔法が使えないってことですか!?」
「イグザクトリー」
「なっ……!?」
赤信号でもないのに、思わず横断歩道のど真ん中で立ち止まってしまった。
おい、話が違うじゃないか。魔法は誰でも手軽に使えるものだって言ってなかったかこの人!?やっぱり才能依存じゃないかガッテム。現実は非情だぁ………。
「おいおい話を勝手に完結はさせるな。だったらなんで今お前は走ってるんだ?」
「ハァ、ハァ。いや、マーリンさんが走れって言ったからじゃないですか……」
「いや、そうじゃなくてだな。魔力を貯められる限界量は意図的に増やせる。魔力を消費と排出を上回る速度でたくさん生産し続ければ、体はより多くの魔力を貯めれる貯蔵タンクを作ろうとして、タンクは大きくなるんだ」
「じゃ、じゃあ魔力を多く生産するためにはどうすればいいんですか?」
きゅぴきゅぴと音を立てて黒ペンを走らせる。ホワイトボードには大きな文字と小学生並みの絵が浮かんでいた。息を吐きながらそれを読み上げる。
「よく運動し、よく食べて、よく寝ること………?」
マーリンさん笑顔で頷き肯定する。
「まずはよく運動することで魔力を多く消費する。すると体は失った分をとりもどそうといつもより多く魔力を生産しようとするんだ。とは言っても、ほんのちょっとだけどな
次によく食べること。食料には魔力が微量だが含まれている。運動して魔力の生産が活発になっている時間に食料を補給すると、効率よく魔力を生産することができる。
最後によく寝ることだ。寝ると体力が回復するだろう?それは魔力が増えているからだ。人間は寝ている状態が一番魔力の生産効率が高い。だから、よく寝ることが一番大事なんだ」
な、なるほ……ど?
イマイチピンとこないが、とりあえずいまやっている行動の辻妻があった。よく運動しよく食べよく寝ること。うん、完全にただの健康な人じゃん。
それっと割と普通に生活してても魔力量増えない?確かに現代人は昔の人達と比べたら肥満体質だったり逆に栄養不足だったり、運動不足かもしれないが………。
「あー、言い忘れていたがただ健康な生活してればいいってわけじゃあないぞ」
「え?違うんですか?」
「馬鹿たれそんな甘いわけないだろう。そんなんだったら世の中のお年寄り達は魔力量の化け物だ。亀○人みたいになっちゃうだろうか。確かによく運動しよく食べよく寝ることが大事だとは言った。けどそれは常識の範疇でやってたら少しから魔力量は増えない」
「……と言いますと?」
「体がぶっ壊れるくらい運動してフードファイターも顔負けなレベルで食って赤ちゃんと同じくらい寝ろ。それしか方法はない」
「う、嘘ですよね………私そんなに運動できませんよ……?」
「それしか方法はない」
「割と小食な方なんですよ……?」
「それしか方法はない」
「夜型人間なんですけどぉ!?」
「ない!!」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
早朝の街に悲鳴が響き渡る。悲しみと絶望が入り交じった、まさに断末魔。もしくは、助けをこう叫びであった。
拝啓、海外へいる柳へ。一日目からあなたの親友は無理だと悟りました。約束は果たせるか分かりません…………。
「そら走った走った!一分休む度に500メートル追加な!!」
「ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ………ちくしょう………(切実)」
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