6  突然の死!


 私は珍しく夜遅くに外を出歩いていた。


 理由はもちろん、マーリンさんの行方についてだ。あのまますぐに戻ると言ったっきり、彼女が戻ってくることは無かった。その後も柳と一緒に家で待ち続けたが、結局来なかった。

 


 今日は諦めて、また後日と言うことにして柳とは解散した。


 …………だが、どうにも私の頭の中で引っかかるものがある。彼女が最後に言った、アスクレー何とかの杖をまだ持っているか、という質問に対してだ。


 何故彼女は最後にこの言葉を私に残して去ったのか、それが頭から離れなくて眠れなかった。どうせ明日は学校も休みだし、少しくらい夜更かししてもいいかと思って行動に出てる次第だ。


 え?現役Jkがこんな夜中に外に出ていていいのかだって?まぁ最悪、念動力(サイコキネシス)でちょちょいのちょいよ。正当防衛だから私悪くないです、悪く、ないです。



「ん?」



 無駄に太くて長い杖を発見!


 私の超能力シリーズの中の一つ、千里眼!皆さんご存じどんな場所からでも遠くの物を見ることができる能力さ!


 もちろん欠点がある。遠くの物が見える代わりに、視界がクソ悪い。ザァとテレビの砂嵐のようなものが重なっていて、めちゃくちゃ見づらい。しかも遠ければ遠いほど視界が悪くなるオマケ付き。クソが。


 だが猫の手も借りたいこの状況なら使うのもやむなし。距離はざっと200メートルほど先か。というわけでレッツらゴー。



 い、行きたくねぇ………。


 人気が無いどころか野良猫すらいなさそうな暗い路地裏。千里眼だと細かいところまでは見れないから分からなかったが、なんだか嫌ーな予感がする。


 怪しい黒ずくめの取引現場とかありませんように……!!


 ゴクリと唾を飲み込み、覚悟を決めて足を踏み入れる。


 少し進んだ先に、件の杖が置かれてあった。今朝見たものとそっくりだ、近くに彼女がいる。


 先に進もうと足を前に出すと、ドン、と鈍い音と謎の触感が私の五感に訴える。ペチャリと、水溜まりを踏んだ音もした。



 おかしいな、今日は晴れだったのに水溜まりがあるなんて。



 スマホのライトをつけて確認する。



「―――――――あ?」



 いた。彼女が。


 艶のある綺麗な黒髪。老若男女誰もが目を置かずにはいられない、まるでブラックホールのような美貌。白いローブが特徴的なコスプレイヤーのような服装。


 そのローブが真っ赤な液体で染まり、性気が抜けたようにぐったりしていた。



 マーリンが、死体となってそこにいた。





#####





 衝撃が全身を穿つ。


 この震えはなんだ。恐怖か、怒りか、それ以外の何かか。よく声を上げて叫ばなかったなと思う。フィクションとかだと、よく「きゃーー!」とか言うものだが、現実だと言葉すら出ない。


 言葉が喉の奥につっかえて何も出ない。ただ全身が震えるだけ。それもそうだ。普通の人間は死体なんか見たら怯えるに決まっている。


 落ち着け、とりあえずおちけつ。あ間違えた落ち着け。こんなくだらないが言えるくらいなら大丈夫なはずだ。


 いやまぁ実際には大丈夫じゃない。今も足が生まれたての子鹿みたいに震えている。だけど、今はそれより優先すべきことがある。



 まず現状を整理しよう。マーリンさんは姿を消した後、帰ってくることは無かった。私が散策に出たところ、頭を撃ち抜かれた状態で死亡していた。


 そして何よりもネックなのが、誰に、何故殺されたのかだ。頭に数発穴が空いていることから、自殺ではないし自殺するような人とは思えない。事故とも考えにくい。


 と、なると考えられるのは他殺。しかし、誰が――――否、誰かは明白だ。




「やはり、来たな。貴様の餌としてこいつの死体を放置していたが、こうものこのことやってるとは」


「だ、誰!?」


「貴様に教える名など無い。貴様もまた、このクズと同じ場所に行くのだからな。」



 声がした。空を見上げると、一人の白いペストマスクを被った男が屋根の上に、風に吹かれながら佇んでいた。


 明らかに怪しい。


 男は目線を動かないマーリンさんの方に向けて言い放つ。クズ…………まさかマーリンさんのことか?



「あなたがマーリンさんを…………?」


「いかにも。私がこいつを殺した。仲間の尊い犠牲があって、だがな」


「…………何故彼女を」


「何故、だと?そんなものは決まっている、正義のためだ。魔法使いはこの地球の癌だ。環境破壊や生態破壊よりも質の悪い、しかもゴキブリのようにホイホイと湧き出てる。害虫と同じだ。害虫を駆除して、何が悪い?」


「人を殺して、何とも思わないんですか?」


「人?魔法使いなど、人であって人にあらず。醜い我欲で、人を欺き、人を蹴散らし、人を裏切り、地球を害す正に薄汚い獣よな。

 貴様にも分かりやすいように言うならば、そうだな、チートというやつだな」


「チート?」


「最近のライトノベルとかでよく見るだろう。何の努力もせずに、自分の力だと過信し、イキリ散らすタイプの主人公。あれ見てるとイライラしてくる。

 魔法使いも似たような物だ。魔法というぬるま湯に浸かり、その力を不用意に酷使する。…………なんと、哀れなものよ」


「頭の先からお尻の穴まで理解できない思想ですね。楽して何が悪いんですか。私は嫌いじゃないですよチート。

 そんな人は原始時代にでも行って来て下さい。あなたもヤバい宗教の方だったりします?」


「それを言うなら貴様もだぞ、”厄災の一族”よ。こんなところに隠れ潜んでいるとは」


「…………は?なんのことです?」


「とぼけるなよ。その髪、その瞳、なにより先日見せた異能の力………厄災の一族の他におるまい」



 何か勘違いされてる。いや、これ生まれつきじゃなくてこうなっちゃっただけなんですけど。理由もアホくさいし。


 厄災の一族だぁ………?私はそんな厨二心くすぐられる一族の血は引いてませんが



「もういいだろう。話は終わりだ。死ね」


「ちょっ…………!?」



 あれ銃だよね銃だよねどこをどう見ても360度見ても銃だよね!?武器を持っているのは分かっていたが、いざ実際に見せつけられると足が竦む。


 そして白マスクは何の罪もない私に容赦なく銃を乱射した。



「おおおお、つおっどぉ!?!?」


「避けるのが上手いやつめ」


「し、死ぬぅ!?」


「今の現状をよく分かってるではないか。ふふ」



 いや、ふふ、じゃねぇよ!


 白マスクが銃のリロードを始める。マズイ、また避けきれる自信が無い。防衛手段はないわけではないが、ほぼ自爆技だから使いたくない。


 ここは誰かに助けを…………っているわけありませんでした。


 ガッデム!!せめてマーリンさんが生きてれば………。生き返ってくれー!頼むー!!



「………………………」




 生き返る…………生き返る…………。




「何を呆然としている。殺すことには変わりないが、せめて抵抗ぐらいしてらどうだ」


「……………………あ、あんなところに魔法使いが!?」


「な、なに!?」


「うおお上手くいけ瞬間移動(テレポート)!!」


「し、しまった!?」





 

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